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Vol. 306 慢性疲労症候群の患者たちが放置されている現状を打開するために

医療ガバナンス学会 (2010年9月26日 06:00)


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慢性疲労症候群の患者たちが放置されている現状を打開するために

「慢性疲労症候群(CFS)をともに考える会」共同代表
「制度の谷間のない障害者福祉の実現を求める実行委員会」共同代表
「内部障害・難病当事者ネットワーク”彩”」副代表
篠原 三恵子

2010年9月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


少し前に、慢性疲労症候群(CFS)の実態を描くドキュメンタリー映画、「アイ・リメンバー・ミー」を紹介させていただきました。ここでは、CFSの患者たちがいかに不当な状況におかれているかを報告し、それを打開するための取り組みについて書かせていただきます。

【欧米の現状】
CFSは、イギリスやカナダでは筋痛性脳脊髄炎(ME)と呼ばれており、CFSとMEはほぼ同じ意味で使われています。CFSはME(ICD 10 G93.3)に含まれますが、世界保健機関の国際疾病分類(ICD)において、神経系疾患と分類されています。

去年の10月、ScienceにXMRV(異種指向性マウス白血病ウィルス)が、CFSの患者から検出されたと発表されました。これは世界中から大きな反 響を呼び、各国で調査が行われてきました。検出されなかったという報告が相次ぎましたが、先日8月23日のPNAS(the Proceedings of the National Academy of Sciences)に、XMRVそのものではなかったものの、同類のMLV-related viruses(マウス白血病ウィルス関連のウィルス)が、CFS患者の86.5%から見つかったと発表されました。これは、FDA(アメリカ食品医薬品 局)、NIH(アメリカ国立衛生研究所)とハーバード大学の教授らの共同研究によるものです。

http://www.pnas.org/content/early/2010/08/16/1006901107.full.pdf+html

「これによって、先のScienceの報告が本当であったかどうかという議論はやむでしょう」と、アメリカCFIDS(慢性疲労免疫不全症候群)協会の会 長のキンバリー・マクリァリーは語っています。アメリカの患者団体は、CFSをCFIDSと呼ぶことを選択しています。この研究結果が世界的に認められる かどうかを、世界中のCFS患者が固唾を呑んで待っていたはずです

ウィルスが実際に病気を引き起こしているとわかれば、役に立つ治療法への門戸が開かれるかもしれません。長年にわたって、「慢性疲労症候群という病気は器 質的疾患か、精神的なものか、そもそもこの疾患は存在するのか」といった議論が続いていましたが、それに終止符が打たれるでしょう。

研究が進んだイギリスでは、すでに2001年に保健省が、全ての医師がCFSを深刻な病気と見なして治療するように指導しています。アメリカでは2006 年に、疾病予防管理センター(CDC)が研究者や医師達の研究結果を報告し、CFSは精神的疾患ではなく、深刻な器質的な疾患であると記者会見で宣言しま した。それ以降、認知キャンペーンを推進し、研究を支援しています。また、CDCにおけるCFSの研究責任者であるリーブス医師は、「CFS患者の機能障 害は、多発性硬化症、エイズ、末期の腎不全、慢性閉塞性肺疾患などと同程度なほど深刻です」と述べました。多くの患者は寝たきりで、回復はまれで、病歴 20年以上という患者も少なくありません。CDCのホームページには、「CFSから完治する人はめったになく、寛解をずっと保てる人は、5%~10%にす ぎない」と書かれています。

【日本の現状】
日本では1991年に、旧厚生省にCFSの研究班が発足され、1996年まではCFSの研究班がありましたが、その後は廃止され、疲労の研究班のほんの一 部でしかCFSが研究されなくなりました。厚生労働省エイズ・結核感染症課で行われていた慢性疲労に関する研究班が2000年で終了した理由は、当初 CFSの病因として心配されたレトロウィルスなどの感染症がほぼ否定されたからだと発表されています。アメリカなどの各国では、引き続きウィルスの研究が 盛んに行われていたのですから、日本の研究の方向性は間違っていたのではないかと思います。CFSの「疲労」は、病態生理学的な極度の疲労を表すもので、 多くの症状の一つにすぎず、慢性疲労と慢性疲労症候群を混同してはなりません。

最近の新聞の報道や雑誌の記事によれば、CFSはストレスによって免疫力が低下し、体内にあるウィルスが再活性化し、それを抑制するための免疫物質が異常 に作られ、脳に機能変調がもたらされているのではないかとされています。私たちが普及しているドキュメンタリー映画、「アイ・リメンバー・ミー」のキム・ スナイダー監督は、今年5月の私たちのインタビューに答えて、「人生においてストレスが多ければ、病気にかかりやすくなりますが、CFSがストレスに関連 した病気であると考えることは、間違いだと思います」と明快に答えました。

CFSという病気は、日本ではまだ病気とすら認められていません。新聞や雑誌などには、物事への固着性が強く、完璧主義の人がなる病気であるかのように書 かれ、慢性疲労が悪化するとCFSになるように報道されています。四割程度の人が元の生活水準にまで回復するとか、深刻な病気ではなく、あたかも治療薬が あるかのように書かれており、重症患者には全く目が向けられていません。10年位前には、東京でも何人かの大学病院の先生が研究・診療を行っていました が、現在はいません。

日本では、難病を抱えた患者が身体障害者手帳を取得することは、とても困難です。障害者手帳の取得には医学的判断が必要となりますが、障害が固定されたと 見なされなければ、手帳は交付されません。原因や治療法が解明されていない難病に対して、医師の診断は非常に慎重になります。手帳が取得できなければ、ど んなに生活上の障害があっても、公的なサービスや支援は受けられません。

【私自身の経験】
私は20年前にアメリカで発症し、そこで診断を受けました。その後に住んだカナダでも診断を受けていましたが、15年前に症状が重くなり、車椅子なしには 外出できなくなりました。家事・洗濯・掃除など一切が出来なくなりましたので、14年前に帰国しました。5~6年前からは、坐っていることすら困難になり ました。横になったまま乗れる車椅子が必要になりましたが、私が坐っていられないということを認めてもらうのに、市議会議員や障害者団体の権利擁護委員の 方の協力を得て、2年もかかりました。4年ほど前からはまったく歩けず、ほぼ寝たきりの状態で、ストレッチャーのような車椅子でまったく横になったまま外 出します。ここのところ腕の力が落ちてきて、鉛筆や箸を握ることも出来ません。

ここまで重症になってさえ、CFSの専門医から身体表現性障害だと言われました。その医師によれば、私が認知を変えさえすれば、坐れるようになると言うの です。他の医療関係者や行政の方からは、精神的なものであるとか、怠けていると言われたこともあります。現在83歳になる母がずっと私の介護をしていまし たが、私が居宅介護を認められるようになったのは、その母が寝たきりになってからのことです。CFSの患者は、少しくらいの無理でも症状が悪化することが 多々あり、回復には恐ろしいほどの時間を要します。それなのに十分な介護を受けられなかったことで、私はどれほど無理を重ねなければならなかったことか。

【「慢性疲労症候群をともに考える会」の取り組み】
患者たちは外見は健康そうなので、CFSと言う病気を理解してもらうことは非常に困難です。もうすでにこの病気に対する偏見を助長するような報道が、長年 にわたって行われてきましたので、なおさらのことです。そこで、病気を正しく理解してもらうために、私はイギリス保健省のホームページやアメリカのCDC のホームページ、イギリスやアメリカのCFSに関する新聞記事等を訳し、医療関係者や行政の方たちに提示してきました。また、CFSの実態を描くドキュメ ンタリー映画「アイ・リメンバー・ミー」を翻訳し、日本語字幕付きDVDを製作し、東京各地で上映会を開いています。患者や家族のための集いも始めまし た。

私たちの会は、診療してくれる医師もほとんどおらず、医師や周りの人達から理解されず、経済的に困窮し、介助も受けられない多くの患者達の現状を変える為 に、今年の2月に発足しました。この病気に対する日本の取り組みは、全国で38万もの患者がいると推定されているのに関わらず、非常に遅れています。私達 は、この病気の正しい認知を広め、医療制度の確立と、患者に対する介護や就労支援などの社会保障を求め、医師会や国会議員への陳情を行っています。まず は、厚労省にもう一度CFSの研究班を作り、重症患者の実態を調べるように強く求めていくつもりです。

アメリカでは、この病気のためにホームレスになる人がいることや、病気を苦にして多くの人が自殺することがわかっています。もし実態調査をしたなら、日本 でもどんなに悲惨なケースが現実にあるのかしれません。この病気にかかっている子どもたちの教育の問題も、非常に深刻です。患者たちはあまりにも具合が悪 く、連絡を取ったり集まったりするのも難しく、声を挙げていくことが非常に困難です。私達の活動を理解し、支援してくださる方を求めています。会の活動を 詳しくお知りになりたい方は、ホームページ(http://cfsnon.blogspot.com/)をご覧ください。

CFS(Chronic Fatigue Syndrome) :
慢性疲労の原因となる病気がないのに、生活が著しく損なわれるほど強い疲労が少なくとも6ヶ月以上の期間持続、ないし再発を繰り返し、微熱、咽頭痛、リン パ節腫張、筋肉/関節痛、筋力低下、頭痛、睡眠障害、思考力/集中力低下などの症状を伴い、尿や血液検査などで器質的疾患も見つからない場合にCFSと診 断されます。原因もまだ特定されておらず、治療法もありません。CFSを含む筋痛性脳脊髄炎は、世界保健機関の国際疾病分類において、神経系疾患と分類さ れています。

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