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Vol. 308 「特定看護師」もやっぱり「キズの消毒」してしまうのか?

医療ガバナンス学会 (2010年9月28日 06:00)


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「特定看護師」もやっぱり「キズの消毒」してしまうのか?

木村 知(きむら とも)
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士

2010年9月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「厚生労働省のチーム医療推進会議は6月14日、『チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ(WG)』を開き、看護師らの業務を規定する保 健師助産師看護師法(保助看法)上の取扱いが不明瞭な(グレーゾーン)看護業務の実態調査と、一定の基準を満たす修士課程などを対象とした特定看護師(仮 称)養成の調査試行事業の実施要綱案を大筋で了承した。WGでは近く、実態調査の最終的な調査項目を決定し、インターネットなどを活用しながら8月までに 結果をまとめる方針だ」
約3ヶ月前のことだが、メディアを通じてこのような報道があった。

そこで、わが国におけるナースプラクティショナー(NP)導入論議や、「特定看護師」資格の新設、看護師業務の実施範囲拡大論議等、に少なからず関心が あった私は、調査対象となる看護師業務として、どのようなのもが挙げられているのかに興味を覚え、厚労省ホームページから、その「看護業務実態調査(案) の概要」なるものをダウンロードしてみた。
それを見てみると、調査対象となる医行為は、「看護師が患者の状態に応じて柔軟に対応できるよう、患者の病態の変化を予測し、その範囲内で看護師が実施 すべき行為を一括して指示すること」という医師の「包括的指示」を前提とする検査や処置など、168項目が挙げられていた。

これは、現時点ではあくまで、チーム医療検討会報告書において「特定の医行為として想定される行為例」であり、ここに挙げられた行為等は
・ 現在、看護師(認定看護師・専門看護師)が実施しているか否か
・ 今後、一般の看護師が実施することが可能と考えられるか否か
・ 今後、特定看護師(仮称)制度の創設に伴い、特定看護師(仮称)が実施することが可能と考えられるか否か
を調査するために列挙されたもので、もちろん特定看護師の業務内容として提案されているものではない。
しかしながら、これらの項目は、現在看護師もしくは医師により実際に医療現場で行われているものを前提としているはずであり、それらを行う者が看護師、 医師の区別にかかわらず、その医療行為そのものは現在の医療水準に照らして、妥当なものであるはずなのだが、外科医である私にとっては「甚だ奇異に感じる 項目」を、この中に発見してしまったのである。

それは、「3処置-創傷処置」の一項目に挙げられている「創部洗浄-消毒」という項目だ。

なぜこれを「甚だ奇異に感じる項目」と言うのか、それこそそれを「奇異に感じる」方もおられるかもしれないので、ご説明しよう。

ご存じのかたも多いと思うが、わが国で未だに多くの医療機関(大学病院を含む)によって行われていると思われる外用殺菌消毒薬による「術後創部の消毒」 という行為は、もはや欧米では、ほとんど行われてはいないばかりか、外科学の教科書にも「イソジン液などの薬剤は、その組織傷害性のため創傷管理にはけっ して使用してはならない」と明記されている、「適切でない医行為」と言える。

この「看護業務実態調査(案)の概要」を作成された方が、この「創部消毒」という処置を「適切でない医行為」として認識したうえで、「現在の医療水準に 照らして、必ずしも適切な医行為ではないが、多くの医療機関で実際には未だ行われている項目」として敢えて問題提起のため列挙した、というのであれば理解 できない訳ではないが、おそらくそうではないであろう。

では、今となっては時代遅れの「適切でない医行為」とされている「創部消毒」の起源とは、そもそもいったいどのようなものなのだろうか?
甚だ簡単にではあるが、その歴史を見てみよう。

おそらくそれは、1867年「ランセット」に掲載された、イギリスの外科医リスターによる、石炭酸による創傷治療の報告に端を発しているものと思われ る。パスツールの影響を受けたリスターは、キズの化膿を防ぐためには空中を浮遊するバイ菌を創部に侵入させないことが必要と考え、試行錯誤した。そして複 雑骨折の患者のキズの隅々にまで石炭酸を塗り、リント布で覆った上からスズ箔でさらに覆う、という方法で、結果血液と石炭酸が混ざって形成されたカサブタ によってキズが守られ、化膿させず創傷治癒せしめた、という論文を発表したのである。
しかし当時から、コールタールから発見されたという石炭酸という消毒薬は、創部を傷害してしまうということもすでに分かっていて、いかに創部に穏和な消毒薬で創傷を化膿させないで治癒させるかというのが課題だったという。
ところが、第一次世界大戦の折、ライトという細菌学者が前線の傷病兵の汚染創を消毒しても、消毒薬によってキズの中の細菌を抹殺できないことを実験で証 明した。そしてその50年後の1960年代には組織1グラムあたりの細菌数が10万個以上にならなければ創部が化膿しないことが明らかとなり、1970年 代には、清潔な水を噴射して創部を洗浄するだけで十分除菌できることがわかった。そして以後、組織傷害性のある消毒薬で創部を「消毒」されることは、徐々 になくなっていったのである。

創傷ドレッシングとしてのガーゼは、創面から出る滲出液を吸収し、創部に固着して剥離時に創部を損傷するため、創傷治癒を阻害する。そこで創傷に固着し ない素材が求められた。イギリスのウインターは1962年ポリエステルフィルムによる創部の被覆が創傷治癒を早めることを証明。これが今日の「湿潤環境理 論」の始まりという。その20年後の1982年より、この理論に基づく創傷ドレッシングが欧米で次々に開発され現在に至っている。
(「創傷ドレッシングの歴史」W.J.ビショップ著 川満富裕訳時空出版より改編引用)

つまり、わが国の多くの医療機関で未だに行われている「消毒とガーゼ」による術後創部処置は、30年前の医療水準のものと言えるだろう。

日本は、この部分でもすっかり「ガラパゴス化」してしまっているようだ。

そうは言っても、術後創部消毒はもう行っていないという医療機関も、昨今少しずつ増えてきてはいるようだが、「擦過傷」や「熱傷」、「褥瘡」にはまだやはり消毒している、などという奇妙なことも現場では起きている。
受傷の原因に違いがあっても、創傷治癒のメカニズムに応じた処置に変わりはないと思われるのだが、「創傷治療の専門家集団」の考え方は少し違っているようだ。
例えば、日本形成外科学会のHPを見てみると、ガイドラインではないものの、小範囲熱傷の初期処置として「II度熱傷であれば、大抵の場合、消毒と軟膏 治療で治りますが、ひとたび細菌感染をおこしますと、損傷は深くなり治癒までに時間がかかる・vと公表されているのに対し、日本褥瘡学会による褥瘡治療の ガイドラインでは、褥瘡に対する消毒処置の必要性について、「洗浄のみで十分であり、通常は必要ないが、明らかな創部の感染を認め、滲出液や膿苔が多いと きには洗浄前に消毒を行ってもよい」として推奨度 C1(行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない)とされている。

熱傷の場合は初期治療でまず「消毒」するのに、褥瘡の場合は「通常は必要ない」が感染を認めてこじれた場合は「消毒を行ってもよい」というのは、熱傷のほうが、褥瘡よりも感染し易いという意味なのだろうか?そんなはずは、ない(むしろ逆)であろう。

つまり、受傷の原因によって、創傷治癒のメカニズムも全く異なるから、各々違う学会が、各々違う創傷処置の方針を決めている、ということであろうか。
この奇妙な現象を、皆さんはどうお考えになるだろう?
もしかすると、学会というのは、自分たちの領域と異なる領域との「横の繋がり」を敢えて持とうとしない人たちの集まり、究極の「縦割り集団」なのかも知れない。

さてそこで今般「看護業務実態調査(案)の概要」に調査対象となる医行為として挙げられている「創部洗浄-消毒」という項目について立ち返ってみよう。
今まで述べてきた背景を踏まえると、この創傷を清潔に保つ「創部洗浄」という行為は奨励すべきことと言えるが、その横に「何食わぬ顔でアタリマエに」登 場している「消毒」という行為は、キズ口の細菌を抹殺するという意味では、100年前の第一次世界大戦時の細菌学者によってすでに実験で「無意味」と証明 されている、「甚だ奇異」と言わざるを得ない医行為、と言えることが理解されるであろう。

例えてみるなら、昨年発生した「新型インフルエンザ」に対して行われた「水際検疫」と奇しくも似てはいないだろうか。
一時的に一部の人たちを「取り締まっても」必ずすり抜けがあって国内での感染が進んでいくように、キズに一時的な消毒液塗布をしたからと言って、創部を 完全に「滅菌し続ける」ことなど出来ないし、むしろ「滅菌」出来ないばかりか、消毒薬は少なからず創傷治癒に必要な組織さえ「傷害」してしまう。
「水際検疫」も実際多くの無実な人びとの人権を「侵害」した。
「水際検疫」と「キズの消毒」には、同じくらい無意味でムダで、しかも有害という共通点があるとは言えないだろうか。

しかしわが国では、未だ多くの国民によって「キズは消毒しなければならないもの」と認識され続けている。
「しなければならないのかわからないけれど、何かしておかないと不安だから、とりあえずしておいたほうがいいと思われるもの」と思っているひともいるだろう。
これも「水際検疫」の発想ときわめて親和性が高い認識と言える。

そもそも、先に述べた褥瘡治療ガイドラインにあるように「明らかな創部の感染を認め、滲出液や膿苔が多い褥瘡」(易感染患者の感染創)でさえ、「消毒を 行ってもよい」(行わなくてもよい)というレベルである。つまりこのガイドラインを仮に「正しいもの」であるとすると、「創部の消毒」は他のそれより条件 のよい、どのような創傷に対してもmustではないということになる。
しかし患者さんよってはもちろんのこと、医師のなかにも、さらには驚くべきことに「外科指導医」の肩書きを有する医師によっても、どのようなキズに対し ても「消毒」は「しなければならないもの」や「とりあえずしておいたほうがいいと思われるもの」として認識され続けている現状がある。

学生時代、不真面目でほとんどロクに外科学の教科書など読まなかった私だが、15年以上ぶりに当時の標準的な外科学の教科書をひも解いてみると、その「術後管理」の章には「手術創は1日1~2回消毒してガーゼ交換を行い・・・」と明記されていた。
医師になりたての頃は外科病棟に入職すると、「当てるガーゼの大きさよりも大きめに消毒液を創部から外に向かって同心円状に十分塗布すること」などとい う「正しいキズの消毒方法」を、国立のがん専門病院外科に国内留学していた先輩外科医より、さんざん怒られながら叩き込まれたものだ。
きっと当時は「創部を消毒しなければならない」ということなど、あまりにアタリマエすぎて、疑問に思うことすらなかったのだろうが、あれから15年以上 経った現在でも、当時私の在籍していた大学病院では、未だに術後創部処置に消毒薬を用いている外科系診療部門もあるという。

このように外科専門医でさえもまだ漫然と「創部消毒」という医療行為を行っている現状もあるのに、一般の患者さんたちに「創部消毒は無意味でむしろ有害」であることを浸透させていくことは至難の業だ。

石岡第一病院、傷の治療センター長の夏井睦氏のように、自らの著書やサイトで「消毒・ガーゼ撲滅運動」や「湿潤療法推奨」をされている創傷治療の専門家 もおられ、徐々にではあるが、これらの治療が世間に浸透しはじめている。しかし、氏らの年余にわたる努力によっても、「消毒しない湿潤療法」が日本国民大 多数の支持を受けているとは、とてもではないが、まだ言える状況ではない。

国民の消毒信奉を助長させている大衆医薬品メーカーの存在も大きい。

このところ、アシネトバクターなど多剤耐性菌の報道がメディアで取り沙汰されているが、昨年の「新型インフルエンザ騒動」も含めて、これらの「感染症騒 動」がひとたび起きると、国民のあいだでは「除菌、消毒、抗菌ブーム」が発生し、これらの関連商品の売上げが伸びると言われる。
確かに、院内感染対策における手指消毒や器材の滅菌消毒が重要であることは、言うまでもないが、これらの「消毒」と「創部消毒」をけっして混同してはならない。創部を滅菌することは不可能であるし、そうしようとすること自体、ナンセンスなのである。

街のドラッグ・ストアの「外用殺菌消毒薬」コーナーには、多彩な品揃えが充実している。40年前に発売されて今もなお、多くの国民の支持を集めているトップブランドの商品などは、年間売り上げは約15億円とも言われている。
この商品については、今まで特に大きな有害事象が報告されていないため、これだけのセールスが続いているのではないかと思われるが、中には創傷治癒のメカニズムを全く無視した「トンデモナイ」商品まで、これらの陳列棚には並べられているので、非常に危険である。

某大衆医薬品メーカーが発売している「キズ用ドライパウダースプレー」がそれだ。

この商品の「殺菌消毒剤の含まれたドライパウダーでキズをサラサラに乾かして治す」という考え方は、未だ多くの国民が信じる、
「早く乾かしてバイ菌が入らないようにしっかり消毒」
という「迷信」にピッタリはまり、さすがキャッチコピーの上手な大衆医薬品メーカーだと言わざるを得ない発想であるが、日々診療していると、この商品を使 用することによりかえって創部がひどい感染を起こし、蜂窩織炎にまで進展してしまった症例をたびたび経験する。先日筆者のtwitterで、この商品によ る健康被害について述べたところ、同様の報告と経験談を、多くの医療従事者、患者さんからreplyによりいただいた。
(この商品の健康被害の詳細ついては、下記夏井睦氏のサイトを参照されたい)

http://www.wound-treatment.jp/wound022.htm

この商品には、 組織傷害性を有する可能性があるイソプロピルメチルフェノールという消毒薬が含有されている。これらを、擦り傷などバリヤとなる上皮が欠損した創面に直接 噴霧し接触させ、さらにトウモロコシデンプン、ゼラチンなどの「人工痂皮」によって滲出液を吸収させながら覆うため、最も創傷治癒に必要な湿潤状態を作り 創傷治癒を早めるどころか、キズにとって「もっとも過酷で最悪な環境」を作り上げてしまうと言える。奇しくも140年以上前の「リスターの創傷管理」を彷 彿とさせる、まさに時代錯誤的なものであり、「あったらいいなをカタチにする」どころか「あってはならないものをカタチにしてしまった」商品と言っても けっして言い過ぎではないだろう。

このような、大衆医薬品による健康被害を調査し、国民に正しい情報提供を行う機関は消費者庁なのか、それとも医薬品医療機器総合機構なのか。ちなみに、 以前この件について筆者は後者の機関にメールで情報提供を行ったことがあるが、数ヶ月たった現在も同機構からの返信はいただいていない。メーカーが自主的 に被害状況の実態調査や消費者への適切な情報提供を積極的に行わないのであれば、いずれの機関によってでもよいから、速やかに対応されるべき問題ではない だろうか。

教育現場の意識改革も重要だ。

学校などの教育現場で怪我をする子どもたちは多い。
彼らは怪我を負うと、その教育施設内の「保健室」にまず連れて行かれ、その多くは養護教諭により応急処置として「消毒」されることとなる。そしてよほど軽微なもの以外は、応急処置後に医療機関を受診することになるのである。
筆者も、このような子どもたちを連日診療しているが、同伴の養護教諭や担当教諭はほぼ例外なく「キチンと消毒だけはさせました」と私たちに報告する。確 かに、未だ多くの国民が「消毒」は全ての処置に優先されるべき最善の応急処置と認識している現状では、怪我を一番最初に発見した教育現場の担当教諭は「消 毒しない湿潤環境理論」を仮に知っていたとしても、キズの消毒をしないことにより「保護者から非難されてしまうリスク」を背負うことなどできないのかも知 れない。

しかし、教育現場は単に授業で勉強を教えるだけの場所ではない。

学校生活の中で生じた「トラブル」にどう対応したらよいかを、子どもたちに大人が実践して教えなければならない「場」でもあるのだ。

大人たちが不適切な対処法を子どもたちに教えていけば、その誤りがさらにその子どもたちに伝承されていくのである。医療機関全体がまず適切な対処法を実 践すべきだということは論を待たないが、同時に教育機関における適切な保健教育を、まず指導的立場にある教員たちに周知徹底し、確実に実践させていくこと が重要であろう。
余談となるが、昨年流行した「新型インフルエンザ対策」についても、教育現場で広まったインフルエンザについての誤った認識や誤った感染対策指導が、医療現場の混乱を助長してしまったことは記憶に新しい。

「国」が医師たちに消毒行為を続けさせてはいないか。

小泉内閣による「聖域なき財政再建」が強行されて医療費抑制政策が断行されたそのときでさえ、医療行為のうちでもっともムダである「キズの消毒」という 行為の是非については、あまりに身近で再考に値するほどもないくらい国民に染み込んでいる「アタリマエの習慣」であるがゆえにか、それこそ「聖域」として 議論されることなく未だに放置されている、と言っても過言ではなかろう。

さらに言えば、いささか深読みすぎると言われてしまうかもしれないが、この「因習」が見直されることもなく連綿と続けられている背景には、むしろこの「医療費抑制策」が関係しているように、私には思えてならない。

患者さんあたりの単価が安い外来診療が中心である一般診療所では、患者さんに頻回に通院加療してもらうという「薄利多売」によって、かろうじてその経営を成り立たせているという現状がある。

一方、患者さんにとっては、必要性の低い通院が少なければ少ないほど、時間的にも金銭的にもメリットとなるのは自明のことだ。

例えば、自宅での自己処置可能な創傷の場合、創傷治癒メカニズムや、感染徴候など順調でない創部の状態についてわかり易く説明したうえで、その処置方法 や日常生活における注意事項を指示し、それを理解した患者さん自身も自己処置を希望しているなら、なにも毎日通院させる必要性はない。

これは、キズを消毒して処置しようと、湿潤治療で処置しようと同じことだが、湿潤治療の場合、創部の状態によっては必ずしも連日被覆剤を交換しなくても よいこともあり、消毒薬で「菌を殺す」という考え方とは相入れない。他方、消毒するということは化膿を防ぐために「菌を殺す」ための行為であり、その意味 では「毎日行うべき行為」として患者さんに認識されやすい。(先に述べたように、仮に一時的に殺菌できたとしても全く意味はないのであるが)

一般的に診療所で、創傷処置を行った場合は外来管理加算を算定できないが、処置をせず仮に創部の自宅処置方法等について「丁寧に」説明した場合には、外来管理加算を算定できると解釈できる。
しかし、現行の診療報酬においては、小さなキズの場合は外来管理加算点数より処置点数のほうが低いため、患者さんから見れば、「何もしない(手当てしな い)」で自宅処置の説明だけされたときより、「処置(手当て)してもらった」ときのほうが「安い」という不思議な現象となっている。

つまり「『消毒とガーゼ交換』を毎日行うこと」として連日通院させれば、患者さんに自己処置を教えて異変があったときのみ来院させるより、単価は低くて も算定回数は増えるし、「キズを消毒することはアタリマエ」と思っている患者さんからは、高い「説明料」を支払った挙句に「手当てさえしてくれず放置され た」と思われるもことなく、むしろ「手厚い治療をしてもらっている」と思ってもらうこともできて、お互いのメリットにもなるではないか、ということにな る。
実際現場でもこのような声は存在する。
(もちろん「キズの消毒」のための消毒薬、ガーゼのコストも考慮に入れる必要はある)

かくして「毎日通院してもらうため」には、「キズは毎日消毒しなければならない」という「大義名分」が必要ということになるのである。

大学病院をはじめとしたDPC導入医療機関では、そのDPC導入とともにクリニカルパス導入が検討されたが、その際真っ先に外科系診療部門において、こ の「創部消毒」という医療行為が「ムダではないか」と見直されようとした。しかしそれとは対照的に、外来診療がメインで出来高算定が基本の多くの一般診療 所等医療機関では、この行為が今なお連綿と続けられている。
その理由が、こうした医療機関の「生き残るための苦肉の策」であるという可能性を、はたして否定できるだろうか?
そう考えれば、患者さんに頻回の通院を強いることがなくとも、医療機関が安定した経営をすることができる医療環境が実現するまで、医療機関、特に出来高算定の診療所の処置室から「消毒とガーゼ」が消えることはないのかも知れない。

しかし今後の「医療費高騰予測」を理由に、診療報酬の大幅増は、政権交代が実現した現在になってもすぐには望めない状況にある。確かに財源には限りもあろう。
ただその財源論を振りかざすことによる、国民にとって「本当に必要な医療」の削減は断じて許されるべきではないが、根拠のない因習により発生している 「ムダな医療」については、現場の医療者が日常診療のなかで漫然と行うことなく常に批判的に吟味し、削減できるものについては削減していくべきではないだ ろうか。
そして「因習的治療」をこれ以上新たな世代に継承していかないよう、医療者は常に最新の情報を発信しあい、個々の医師同士や医療スタッフ間で共通の認識 を持ち、さらには医療機関内、医療機関同士だけでなく、教育機関、家庭へと適切な情報提供を拡げていく努力をしなければならないと思う。
結果国民全体が、ムダな治療に気づき、それをしなくなれば、それを需要としていた企業も国民の新たなニーズに応えられる商品の開発・提供にシフトせざるを得なくなるだろう。

今回の「看護師業務範囲の実態把握調査」によって調査される医療機関は限られており、その調査結果をもとに、現在わが国のどのくらいの医療機関で「創部 消毒」が続けられているのかの実態を把握することはできない。そして仮にわが国の創傷処置が今後「現代化」された場合、医薬品市場にどのくらいの影響を及 ぼすのか、医療機関の収支にどれだけ影響するのかも、私には到底想像もつかない。
しかしこれら「因習的治療」に費やされた「ムダな医療費」が実在し、それがもし削減可能となったならば、その分を「本当に必要な医療」に有効活用すると いった、効率的な医療政策も立案されてしかるべきだし、医療者をはじめ国民全体で、それらがムダに使われていないかどうかを、十分監視していく必要がある のではなかろうか。

「チーム医療」というと、本来医療機関のスタッフ同士のコミュニケーションや役割分担、連携など、すなわち「医療機関内で実践していくもの」を指すので あろうが、もっと広い「チーム」、つまり医療機関と患者さんをとりまく環境、教育現場や家庭、これら相互のコミュニケーション、役割分担、連携といった、 「国民全体で『チーム医療』を効果的に実践していく」という考え方が、今後ますます重要になってくると思う。

今回行われた調査をひとつの「機会」として、そして「キズの消毒」という、ごくごく身近な医療行為をひとつの「題材」として、医療者が正しい情報を発信 し続けることで、医療現場から教育現場、そして家庭へと連携される「国民全体で行うチーム医療」について、国民全体が考える「キッカケ」にもなるのではな いだろうか。

さて「特定看護師」、今後「プロフェッショナル」として医療現場で活躍する日が近々来るかも知れないが、医師から「この患者さんの『キズの消毒』しておいて下さい」と言われたときに、果たして何と答えるだろうか?

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