医療ガバナンス学会 (2022年10月26日 15:00)
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2022年10月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
11月26日(土)
【開会のご挨拶】13:00~13:10
●林良造(武蔵野大学国際総合研究所長、東京大学公共政策大学院客員教授)
岸田政権発足からはや1年、新型コロナの流行が始まって3年が経とうとしている。いわばコロナに振り回された3年であった。現在も感染力の強いオミクロン株の流行は続いているが、幸い第7波も重症者の数は拡大しないまま収束に向かっている。
振り返ってみると、菅政権から岸田政権への移行期が日本のコロナ問題の一つのTurning Pointであった。これには、ワクチンや治療薬の開発・普及が進み、重症化riskが抑制されてきたことが大きく寄与している。そして、菅政権の突破力の果たした功績は大きいが、その半面の強権性と、危機におけるコミュニケーションの軽視のために、成果が現れるまでに退陣を余儀なくされた。もちろん今後も流行は繰り返し押し寄せてくるであろうが、重症化riskは抑えられ、本格的共存期に入りつつあるように見える。この1年で世界は次々と経済活動を正常化させ、感染防止と経済との両立に大きく舵を切った。しかしこの点で、日本の遅れは際立っている。
この3年間、医療提供体制や感染防止策について国際的な比較・交流も進み、多くの問題が提起された。しかし我が国の医療提供体制を見ると、一部改善は見られるものの、根本的問題は変わっていない。特にワクチン・治療薬の開発体制の整備や、経済活動との両立に向けた柔軟な対応への移行は遅く、従来型の人流抑制や個々の行動変容に依存するところが少なくない。また、多くの病院・診療所では補助金などを得つつ患者の受け入れは行ってこなかった点など、政策実行面での問題点も明らかになっている。
我が国の医療供給制度は、スムーズな医療サービスの提供に向かって多くの関係者の知恵を生かし自主的に導くようになっておらず、多くの分権化された管理のゲートがある。そこに管理能力を超えた負荷がかかると、隘路ができ、機能不全がシステム全体に及ぶ構造になっている。この結果、少ない患者でも医療崩壊の危機に直面し、ワクチンなど新規の薬や機器の承認が遅れるなど、目詰まりを起こしてきた。リスクの管理の鉄則である、幅広いStakeholdersとの対話型のコミュニケーションの欠如も、まだ十分に改善されたとは言えない。“剛構造” を作り上げてきた基本的な問題を解決しなければ、今後また同様の事態を引き起こすこととなる。併せて、剛構造やゲートごとに存在する既得権益を放置したまま補助金などで誘導を続ける手法は、着実に財政的持続可能性をむしばんでいる。
今がこれらの問題を直視し、医療提供体制を持続可能なものとする最後のチャンスかもしれない。今回の協議会においても、これらの本質的な問題について正面からかつ多角的に取り上げられ、本質に迫る議論がなされることを期待している。
【Session 01】医療改革の現在 I 13:10~13:25(司会:上昌広)
●「医薬品の承認審査は神事」再び
小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科准教授)
これまで二十数年間私が言い続けてきたこと――医薬品の承認審査は神事である――を、コロナ禍が見事に可視化してくれた。「ほれ見たことか」と冷たく言い放ちたい気持ちはあるが、そこはぐっとこらえて、「このままでは、お上やグローバル企業や御用学者にまた騙されて、またひどい目に遭うよ」と市民に警鐘を鳴らし続けるのが、パブリックヘルスに携わる者の義務なのだろう。何を言ってもどうせムダだけど。
コロナ薬を緊急承認する仕組みができた。過去の数々の薬事制度と同様、むろん今回もアメリカ様の後追い・サル真似だが、お上は「日本は薬害の歴史があり、『米国と同じ仕組みを導入した』なんて単純な話ではない。法制度を理解できないシロウトはこれだから困る」と嘆いているらしい。私のようなシロウトには理解できぬ何やら深遠な意図があるのだろう。そうあって欲しいと切に願う。
米国政府は、3年近いコロナ禍において何度か「あ、いかん。オレたち間違えた。修正するね」と正直に告白している。役に立たなかった緊急承認薬は承認を取り消したし、司令塔ファウチも何度か失敗を認めた。一方、すばらしいのはニポンである。これまで、政府や周辺の人たちは誰一人間違いを犯していないらしい。「すまんすまん。我々の施策、間違えておったよ。修正しまーす」的な公式発言を彼らが発するのを耳にしたことは無い。人類未体験のこの状況でも彼らは決して過ちを犯さぬらしい。人知を超えた能力。ニポンの医師国家試験や国家公務員試験に合格すると、そういう神がかった能力が手に入るのね。知らなかった。
しかしそうだとすると困ったことになる。神のごとき無謬の方々には緊急承認は無理である。だって緊急承認は「間違えるかもしれないが、ベストを尽くそう」という制度なのだから。間違えても仕方のない決定をするのが緊急事態というものである。 緊急承認のドタバタの唯一の功績は、薬事食品衛生審議会での議論がYouTube上で公開されたこと。あんな意味不明な審議もどきに全国民の命がかかっていることを初めて知った一般人の多くは、背筋が凍ったのではなかろうか。気の毒だが現実は直視してもらおう。あれが昭和以来の伝統あるニポンの薬事行政の姿である。
「青年将校みたいに青臭いことを言うんじゃない。審議会が悲惨でも、この何十年間、一応は薬事行政は成り立ってきたのだ。それでいいじゃないか」という冷静な評価もあろう。その評価はむろん正しい。だって、承認審査は神事なのだから。(笑)