医療ガバナンス学会 (2022年11月3日 15:00)
Tansa リポーター
辻麻梨子
2022年11月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
千代田区は2020年冬、全区民に一律12万円を支給しました。給付金の支給にかかった77億4200万円のうち、5億7737万円は地方創生臨時交付金です。しかし、区はそのことを明らかにしていませんでした。
千代田区の平均所得は985万円。全国の自治体の中では、港区と並んでトップを争う水準です。都会の繁栄の象徴のような街で、なぜ「地方創生」の交付金がばらまかれたのでしょうか。
●千代田区民の98.5%が受け取り
千代田区には「番町」と呼ばれる昔ながらの高級住宅地や、タワーマンションが立ち並ぶ。総務省の統計をもとに計算すると、2021年の平均所得は985万円。2020年と2019年は1000万円を超えている。
だが千代田区は2020年夏、区民全員に現金12万円を配る方針を固めた。国から10万円の定額給付金が支給されたばかりの時期だ。同年11月頃から支給の手続きを始めた。
給付金は区から郵送で送られてくる書類を記入し、返送することで受け取れる。対象となる全区民約6万6000人のうち、約98.5%が申請をして給付金を受け取った。
●財政課長「質問がなければ説明しない」
千代田区の給付金に対して、「ばらまきではないか」と批判する報道が相次ぐようになった。2020年9月1日のウェブ版東京新聞は、東京23区の区長でつくる「特別区長会」の会長である、山崎孝明・江東区長の会見での発言を伝えている。
「税金をじゃぶじゃぶ使っていいのか。本当に困っている人に配るのならいいが、金持ちも一緒くたにするのは面白くないという人もいる。慎重にならざるをえない」
「五年、十年先を考えた財政運営をするならいかがなものか」
これに対して千代田区は、区の貯金にあたる「財政調整基金」を給付金の財源にすることを前面に打ち出した。自前で財源を用意するのだから構わないという理屈だ。
例えば、2020年9月2日付の東京新聞朝刊には、区の石綿賢一郎・財政課長の説明が掲載されている。
「区の財政運営は健全で区債は2年後に全て償還できる。財政調整基金を充てることができるので、85億円(当初の予算額)を投じても問題ない」(カッコ内はTansaが補足)
ところが、石綿課長はこの時、5億7700万円の国の地方創生臨時交付金が給付金の原資として入っていることを新聞社やテレビ局の取材では説明しなかった。Tansaによる取材で明らかになるまでは、伏せていた。
石綿課長は、Tansaの取材に対してこう回答した。
「財源の多くは財政調整基金の繰り入れによるものであったため、財源の一部である新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金については、質問がない限り特段の説明はしていません」
●交付金もらっても使い道なく・・・
ではなぜ、千代田区は給付金に地方創生臨時交付金を使ったのか。石綿課長が給付金を区民に支給しても財政難にはならないと余裕を見せるように、区の貯金は豊かだ。千代田区では非常時などに切り崩す財政調整基金と、特定の事業のために確保している特定目的基金がある。両基金を合わせると、2020年度で1000億円に上る。
ヒントは、地方創生臨時交付金を使った他の3事業(2020年度9月末時点)にあった。いずれも数千万円の事業で、合計1億158万円。給付金事業の5分の1にも満たない。つまり、多額の地方創生臨時交付金を国からもらっても、千代田区では使い道がないのである。
千代田区が交付金を充当し、計画した事業
・新校舎を建設中の小学校で、子どもたちを仮校舎に送迎するための運行業務委託料、駐車場代・・・4762万円
・妊婦健診時に利用できるタクシーチケットの配布経費・・・1523万円
・屋外の子どもの遊び場の開放にかかる広場使用料や委託費・・・3875万円
・1人当たり12万円の一律給付金支給・・・5億7737万円(交付金充当額)
●樋口高顕区長は取材に応じず
千代田区の責任者はどう考えているのか。樋口高顕区長に取材を申し込んだ。しかし、総務課の中田治子課長がメールで回答してきた。
「交付金は地域経済や住民生活の支援、地域創生を図ることをその趣旨としており、本区事業の趣旨と合致するものと認識しております」
総務課長ではなく、区長自身に説明してほしい。再三に渡り取材を申し込んだところ、中田課長はメールでこう書いてきた。
「大変恐縮ですが、今後、何度お話をいただきましても、同様の対応をさせていただくことになります。どうぞご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます」
=つづく
※この記事の内容は、2022年5月18日時点のものです。
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