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Vol.22231 現場からの医療改革推進協議会第十七回シンポジウム 抄録から(8)

医療ガバナンス学会 (2022年11月9日 06:00)


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2022年11月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月27日(日)

【Session 09】ジェンダーを考える 11:20~12:10 (司会:小川 久仁子)
パネルディスカッション形式

●ジェンダー格差解消に資する経済学
竹内 幹(一橋大学大学院経済学研究科准教授)

日本で女性が参政権を得たのが77年前、採用や昇進での女性差別が法で禁じられたのは、つい25年前です。それまでの理不尽な女性差別の負の遺産は、いまも日本社会の至るところに残っています。経済界だけでなく、学界も、過去の性差別の罪から無縁ではないはずです。手のひらを返したように都合よく「女性活躍」を謳い、若者にその清算を押し付ける前に、一度は公式に謝罪をしたほうがよいとさえ私は思います。
社会に残る文化的・社会的な性差別は、これからも時間をかけて解消されていくことでしょう。ただし、制度的な差別とは異なり、社会的文脈によって発生する差別的状況は見えづらい点に注意が必要です。また、意思決定にジェンダー差が埋め込まれており、それが男女格差の解消の妨げとなっているのであれば、それらの可視化が必要になってきます。 経済学は、社会における性差別をデータで実証するだけでなく、経済的意思決定のジェンダー差についても多くの分析をしてきました。例えば、平均的な傾向として、女性のほうがリスクを避けがちであるとか、男性のほうが実力以上の自信過剰であるとか、男性のほうが競争を好むといったことが知られています。こうした傾向は、職場等で求められる資質や能力と関連するとは限りません。したがって、職場での男女格差の解消を目指すのであれば、採用・昇進システムにどういったジェンダーバイアスが埋め込まれているのかを精査することも重要になるはずです。そのためには、経済実験を通じて、リスク選好や自信過剰のジェンダー差を調べたり、どのような社会的文脈が経済的意思決定のジェンダー差に作用するのかを調査したりする必要があると考えます。
私たち一人ひとりが、身の回りにあるジェンダー規範をみつけ、改めてそれらを意思決定の観点から見つめなおすことも求められているでしょう。

●生殖に関する権利とジェンダー平等
大西睦子(内科医、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部研究員)

世界経済フォーラムの発表している、各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022」で、米国は146か国中27位と他の欧米諸国に比べてレベルが低い。さらに2022年6月24日、米最高裁は、米国における妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決(1973)」を覆し、州が独自に州法を作って中絶を禁止・制限することを認めた。
米国立女性法律センターは、「中絶へのアクセスは、女性の経済、教育、職場での機会を向上させ、平等とジェンダー正義にとって極めて重要であることが、何十年にもわたり示されてきた」「しかし今、最高裁はロー対ウェイド判決を覆し、政治家が中絶を違法化したり、厳しく制限できるようにした」と批判した。
ところで、ガットマッハー研究所によると、米国では、薬による中絶が中絶全体の54%を占めている。さらに数年前から「オンライン医療を利用した、薬による自己管理中絶」が広がり、皮肉にも中絶規制、そして新型コロナの流行で、「自宅での中絶」が増えている。マサチューセッツ州では22年7月29日、「性と生殖に関する権利」に関して包括的に規定した、新しい法律を制定した。これは中絶に携わる医療従事者を強力に保護する法律だ。州外から来る女性に中絶をしても、遠隔医療で中絶薬を処方しても、問題は起きないようになっている。米国では「中絶の権利を拡大する州」と「厳しく禁止する州」の分裂が激化している。
さて、日本のGGI 2022は146か国中116位。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果だ。厚生労働省は、ようやく経口中絶薬の承認審査を行っているが、審査中の22年5月参議院厚生労働委員会で「(経口中絶薬の使用には、妊婦の)配偶者の同意が必要」とする見解を示した。配偶者が女性の体をコントロールするのはアンフェアだ。生殖に関する権利なくしてジェンダー平等

●心理職から見た「ジェンダー」
藤井淳子(航空自衛隊心理療法士)

心理職から見た「ジェンダー」を考えてみました。心理職は、「忘れられる」ことが使命と言われるように、クライアントの主体性を支える日陰の職種で、臨床心理士の大半を女性が占めています。そんな私たちは“オモテ” の意識だけでなく、“ウラ” にある無意識の領域にも関心を払います。
日本人の無意識や深い心性に触れる媒体として、『古事記』などの神話や昔話があります。それらの中では、「生み出す」「身を挺して世話をする」という女性性が称賛されてきました。しかし一方で、繁栄を支えることによって傷つき、苦悩する女性性は「見るなの禁止」によって目を背けられ、封印されてきました。『イザナギ・イザナミ伝説』然り、『かぐや姫』『鶴の恩返し』然りです。
ここで留意すべきは、これらの神話は単純に性別としての男女の枠におさまらないということです。人間は等しく「男性性」と「女性性」を備えています。たとえばよく耳にする「滅私奉公」という姿勢や「過労死」のような事象は、身を挺して組織に搾取される労働者の「女性性」と、疲労困憊する社員を顧みず、その利は得るが責任は引き受けない組織の「男性性」、という構図で捉えることができます。心理職は、このような分断された“オモテ” と“ウラ”、「男性性」と「女性性」の統合や共存、無意識の意識化を願う立場に居ます。
「ジェンダー」の問題が、近年、正面から取り上げられるようになりました。それは、一人ひとりが社会、家庭、そして自分自身における“ウラ” の領域にかけられていた「見るなの禁止」の封印を解き始めた様相にも映ります。私たちの祖が目を背けていた領域に目を逸らさずに向き合い、排除せず共存しようとする時、神話は新たなフェーズへ移行し、より高次な精神性として次の世代に託されていくのではないかと思います。

●4分の3と、4分の1
中川七海(報道機関Tansaリポーター)

Tansaは、探査報道(調査報道)に特化した報道機関だ。スクープを放ち、権力や不正に虐げられた人々の置かれた状況を変えることを目的としている。探査報道は、ファクト主義だ。事態を動かすには、「~すべきだ」といった「論」ではなく、事実に基づいた強力な証拠がものを言う。
ファクトを掴むには、手元の調査や、被害者への取材だけでは足りない。企業などのあらゆる「加害側」の懐に入り込み、動かぬ証拠を得たり、それを突きつけたりしなければならない。不正が蔓延るのは社会システムの歪みによるところも大きい。法を司る行政機関や政治家への取材も必須だ。つまり、どの取材でも、権力や加害側との応酬が待っている。重要な取材になるほど、企業ではトップや役員クラス、行政では役職級が応じる。 その際、出てくるのは男性ばかりだ。過去3年間で取材時に交換した名刺を数えたところ、9割が男性だった。日本の社会構造をよく表している数字だ。
世界経済フォーラムが公表した2022年のジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中116位を記録した。経済、政治、教育、健康の4要素から評価されるが、中でも経済と政治で男女不平等が際立った。この状況に内閣府・男女共同参画局は、「先進国の中で最低レベル」と発信している。
実際、報道業界にも男女差がある。日本新聞協会は、全国の新聞社・通信社の女性記者の数と割合を調査している。2021年の調査では、94社1万7148人の記者のうち、女性はわずか23.5%だった。
一方、Tansaは女性記者が75%、男性記者が25%だ。役員も女性と男性が半数ずつである。もっとも、Tansaは10人以下の小さな報道機関なので、他社に比べて均衡が取りやすいとの指摘もあるだろう。
だが、この数字は報道機関としてのスタンスを表しているのだ。今や、報じなければならない不正は国境を越えて発生する。連帯し、国を跨いだ取材・報道が必要とされる2022年に、世界の標準からかけ離れた実態の報道機関は時代に逆行している。公益に資する存在の報道機関が男女不平等を体現してはいけない。
Tansaの男女比率は、スタンスの問題だけではない。強力な証拠を掴むのに性別は関係ないことも示している。Tansaはこれまで数々のスクープを放ってきた。国会で取り上げられ、法改正につながった事例もある。
私自身、大阪での化学物質汚染を描いたシリーズ「公害PFOA」がジャーナリズム大賞を受賞した。権力監視の実践が評された。汚染源であるダイキン工業の会長や社長の突撃取材を行った際、相手はどちらも男性だった。私は女性だが、追及の手を緩めることはなかった。

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