医療ガバナンス学会 (2022年11月11日 15:00)
Tansa リポーター
辻麻梨子
2022年11月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
千代田区は、区民の平均所得が約1000万円ある自治体です。ところが、給付金の財源77億4200万円のうち、5億7737万円は国の地方創生臨時交付金でした。区はマスメディアからの取材に対し、そのことを明らかにしていませんでした。今回のTansaの取材で公になりました。
では、千代田区議会は何をしていたのでしょうか。税金の使い方をチェックする役目があるはずです。しかし、千代田区議会は区政を正す役割を果たすどころか、自らが給付金を受け取っている区議までいました。
●千代田区首脳会議の中身とは
千代田区で全区民に一律12万円を給付する政策は、2020年夏に持ち上がった。だが当時は、国から10万円の定額給付金が支給されたばかり。「なぜ今給付が必要なのか」という疑問は、区の執行部の中からも出た。Tansaが情報公開請求で入手した2020年7月20日の首脳会議の議事要旨には、以下のように記されている。首脳会議とは、千代田区長や各部長が参加する会議だ。
「区民ニーズの把握などできていない状況で、今後の財政運営の観点からも大きな財政支出を伴う給付を行うことは、非常に大きな判断だと思う」
「また金銭面で本当に困っている人を対象にするのではなく、区民に一律に給付することの理由は何か」
しかし、「新型コロナウイルス感染拡大の状況が悪化していることで、閉塞感を感じている区民の思いに応えるため、今給付を行うべきと考えている」などという賛成意見も根強かった。区の執行部は2020年度の一般会計補正予算案を議会に提出した。
●区議「億ション買える家庭にまで支給必要か」
首脳会議から1週間後の2020年7月27日。臨時区議会の初日で、石川雅己区長(当時)は区民1人あたり12万円を給付することについて、次のように説明した。
「危機的な新型コロナウイルス感染症の拡大の中で、区民生活や区民の置かれた状況を鑑み、区民1人12万円の給付金を含めた取組を行うことを決定したところであります」
財源については、千代田区の豊かな財政力を背景にした区の貯金「財政調整基金」を前面に打ち出した。
「区民の皆さんのご努力とご協力の下に、お預かりをしてまいりました財政調整基金481億円を、こういうときだからこそ活用するべきだと私は考えております」
これに対して、議員からは反対の声もあがった。自民党の内田直之区議(当時)は質問した。
「千代田区内には、当然、コロナ禍で大変つらく、苦しい思いをされている方がいらっしゃいますが、他方で比較的裕福な方も多いのではと思います。例えば、億ションを幾つも買えるような裕福な家庭にまで、なぜ12万円を支給しなければならないのか、理由を説明してください」
他の議員からも「そうだ」の声が出る中、内田区議が続ける。
「千代田区だけが全区民一律給付をしたときに、財政が乏しい他の区は、都からの財政的支援を受けることもできず、同様の給付はできないことになります。このような事態について、区長は考慮されているのでしょうか」
これに対して、石川区長が答弁する。
「どのような家庭であれ、コロナに対する不安な思いは、同じであります。区民一人一人の生活実態に合わせて、その家庭の事情に応じて、柔軟に有効的に活用できる、効果ある施策として、今回は一律給付をさせていただきました」
結局、給付金の支給を含む予算案は全会一致で可決された。
●公明は受け取り、自民共産答えず
Tansaは千代田区議会議員24人全員に質問状を送付して、給付金の是非について、国の地方創生臨時交付金が原資になっていることを明示し、見解を質した。本人・家族を含めて給付金を受け取ったかも尋ねた。
Tansaが各議員に質問状を送ったことで、議会は対応を話し合うための「各派協議会」を開催した。出席した議員たちによると、国の交付金が充当されていることを、Tansaからの質問状で初めて知った議員もいた。
自民党の議員団(13人)としての回答と、公明党など他会派の4人の議員から回答があった。自民党は、自分たちが給付金を受け取ったかどうかには触れず、次のように回答した。
「千代田区特別給付金は議会において全会一致で可決し、コロナ禍での地域経済、子育て支援を目的として区民に一律給付したものです。ご指摘の通り、国費の『新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金』を財源の一部にしていますが、国の主旨とも合致しており問題はありません。当会派としましては、給付金は地域経済活性化に有効活用されたとの認識を持っています。以上、会派全員の総意として回答致します」
公明党の議員2人は、米田かずや区議が家族含めて4人分、大串ひろやす区議が3人分受け取っていたと回答した。給付金の是非については、以下の同じ文章で回答してきた。
「昨年の当時はコロナで経済的に困窮している、また精神的にもダメージを受けている区民の方は子どもから高齢者まで多くいらっしゃいました。区独自の定額給付金は、国の定額給付金同様所得制限なしとするものです。給付金には一つには経済的に困窮している方々への支援という意味、二つ目には今回のコロナの感染拡大を防止するためには社会をあげての対応が必要であるという意味があります。所得に関係なくすべての区民の方の協力なくして感染拡大を防ぐことができないからです。よって、受け取ることは適切であると考えます」
千代田を紡ぐ会の長谷川みえこ区議は、4人分の受け取り。
「自分が受け取った給付金は、いくつかの団体に寄付しました。ひとり親支援、女性支援団体など、各団体もコロナ禍で運営が困難な状況です。給付金を寄付することで適正に使わせていただいたと思っております。家族の分については、それぞれの意思に任せました」
立憲民主新生ちよだの岩田かずひと区議も給付金を受け取った。何人分かは回答しなかった。
「そもそも千代田区特別給付金の場合は、区長選挙間近であった前区長が渦中にあった『マンション優先購入問題』から区民の目をそらせ、前区長が次の選挙に有利になるよう考えた施策であると(勝手に)考えております。よって、適切か不適切かと問われれば、適切であったとは言い難いと思います。ただ、それを区に返還すると寄付になってしまうため、『奄美大島ノネコ管理計画』を実践されている特定非営利活動法人ゴールゼロさんに給付金全額プラス数十万を寄付させて頂きました」
回答がなかったのは以下の議員たちだ(敬称略)。
小野なりこ(都民ファースト)
岩佐りょう子(立憲政策フォーラム)
小枝すみ子(ちよだの声)
秋谷こうき(千代田至誠会)
飯島和子(共産)
牛尾こうじろう(共産)
木村正明(共産)
=つづく
※この記事の内容は、2022年5月25日時点のものです。
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