医療ガバナンス学会 (2022年11月17日 06:00)
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2022年11月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
【Session 12】原発事故後の福島の今とコロナ対応 14:25~15:25 (司会:坪倉 正治)
●放射線災害における災害関連死の特徴
内 悠奈(福島県立医科大学医学部4年、放射線健康管理学講座MD-PhDコース生)
大規模原子力発電所事故に伴う放射線災害では、放射線被ばくによる直接的健康影響だけではなく、間接的な健康影響も生じます。2011年に起きた福島第一原子力発電所事故では放射線被ばくによる直接的な健康影響はほとんどないとされ、もっぱら間接的な影響が見られました。
日本には災害関連死という概念があります。これは災害弔慰金制度という法律に基づいており、災害による間接的な影響により死亡したと市町村が認定した場合に災害弔慰金が遺族に支払われるものです。認定の指標の一つとして用いられてきたものとして長岡基準があります。従来、長岡基準では災害発生から6か月以降の死亡は災害関連死の蓋然性が低いとされてきました。
今回、福島第一原発事故の影響を大きく受けた南相馬市の災害関連死のデータを分析するという貴重な機会を得ることができました。分析の結果、放射線災害では災害発生直後のみならず6か月を超える長期間にわたって災害関連死が起こりうることが明らかとなりました。これは、放射線災害によって周辺住民が長期間の避難などの間接的な影響を受けることを反映しており、放射線災害における間接的災害死を防ぐ上で長期的な対策が必要であることを示唆しています。
●福島第一原子力発電所事故後の原子力防災
高原 省五(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
●福島ワクチンコホートのデータ解析
岩見 真吾(名古屋大学大学院理学研究科異分野融合生物学研究室教授)
新興感染症の流行時には、治療薬やワクチンの開発および使用に即時対応が求められる。特に、ワクチンの供給量は限られているため、“優先順位” に関しても厳しい決断が迫られる。
通常、WHOの勧告に従って、医療従事者、高齢者、合併症がある人々を優先的に接種する。しかし、個人と集団レベルの防御効果を最大化するため、その他の脆弱な集団を特定し、この集団にも優先接種を同時に行うべきである。また、耐久のある集団を発見することができれば、追加接種を後回しにするなど、限られたワクチンを有効活用できる。このような脆弱集団や耐久集団は多数派ではないことが予想され、検出には大規模コホートの縦断的なデータセットが必要となる。
本研究では、44.3%の非医療従事者を含む2,526人の世界最大規模/最長調査期間かつ追跡可能な福島ワクチンコホートから得る、ヒト検体を中心とした異分野融合解析を実施した。具体的には、数理モデルや機械学習を中心としたデータ解析アプローチを開発・駆使し、抗体価の時間経過パターンを再構築・層別化した。その結果、抗体価の誘導パターンが6種類であることを見出し、抗体価の誘導が極めて低い脆弱集団を特定した。また、抗体価が持続的に高い耐久集団も特定し、その割合はわずか5.7%であることも示した。このことは、小規模なコホートではこの耐久性のある集団が見落とされている可能性があることを意味している。
本講演では、このような福島ワクチンコホートのデータ解析について報告する。
●福島原発事故後における健康課題、放射線被ばく対策、放射線教育の今
坪倉 正治(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授)
東日本大震災および福島原発事故から11年以上が過ぎた。放射線災害による住民への健康影響は、放射線被ばくによるものにとどまらず、生活・社会環境の変化に伴長期的かつ多面的となり、2次的影響(secondary health issues)あるいは間接的影響などと呼ばれる。このような健康課題は、社会生活環境の変化が繰り返し起こることで、被災者の生活が何度も揺さぶられることに起因する。健康課題心は、放射線以外の、日本中の地方が持つそれと同じであり、災害によってさらに顕著となっていることはよく指摘される。
このように書くと放射線はなりを潜めているようにも聞こえるが、まだまだ課題は残っている。浜通りといっても、地域によって11年の経過や避難指示の解除時期が異なり、つい先日ようやく避難指示が解除された地域もある。福島県外の差別偏見の問題はコロナによって固定化され、新しい情報発信の形が模索されている。放射線教育は一定の効果をもつものの、震災から時が経つにつれて、指導の形骸化や外部講師への任せきり、何にポイントを絞って教えるか定まりづらい、といった課題も生じている。
本講演では、これまでの事故の影響を俯瞰しまとめ、現状における放射線に関する長期的な課題について議論したい。