医療ガバナンス学会 (2022年11月18日 06:00)
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2022年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
【Session 13】 ポストコロナの社会と医療 15:40~17:40(司会:久住 英二)
パネルディスカッション形式
●ポストコロナの社会と医療
渋谷 健司(東京財団政策研究所研究主幹、相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長)
新型コロナ禍は、今まで潜んでいたあらゆる社会システムにおける不備を露呈させた。住んでいる国や地域、どこで働いているかによってその影響が大きく異なり、「格差」の存在を見せつけた。自治体や企業、そして私たちが、自分で自分を守らなければならない時代が来たということだ。今後は、個々にリスクを管理する必要のある、極めて不安定かつ厳しい時代になるであろう。さらに、米国のトランプ現象、英国のEU離脱、そして日本の国葬に見られるような社会の「分断」は、ポストコロナにおいてより加速されていくと考える。
身近なところでは、ワイドショーやSNSにおけるPCR検査の是非における感情的な対立は、医療のみならず社会に潜む歪みや人々の不安感を反映しているとも言える。実はコロナ禍以前から、人々になんとも言えない不安感が広がっていた。その主な理由として国連開発計画(UNDP)の最新の報告書では、「人間の安全保障」という観点から、これまでの個々人の「保護」や「エンパワーメント」だけではもはや対処できない、新たな脅威の影響を示している。さらに、これに対応するには、国境を越えた人々やコミュニティの「連帯」が必要になるとし、「保護」「エンパワーメント」「連帯」を結びつける根本的な要素として「信頼」の熟成を挙げている。実際、筆者らの研究チームも関わった英「ランセット」誌掲載の研究でも、新型コロナ対策において何が重要な要素であったかを世界177ヶ国における症例・死亡数をアウトカムとして解析し、実証的に「信頼」の重要性を示している。
歴史学者のニーアル・ファーガソンは、人類の長い歴史の中で、ヒエラルキー型組織と分散型ネットワークとの緊張関係や相互補完関係が繰り返されてきた、としている。そして1970年代以降の現代は、15世紀末から18世紀末までの期間に続き、歴史上2度目の分散型ネットワークが優位に立つ時期として論じている。筆者は社会経済・健康医療システムにおける分散型ネットワークの重要性が、今後さらに加速していくと考えている。今こそ、技術や法的な側面のみならず、社会経済システムにおける「信頼」のあり方と、新たな自律・分散・協調型の保健医療システムの構築に向けた具体的な議論が必要だ。
●クリニックは発熱外来をすべきだったのか?
久住 英二 (医療法人社団鉄医会 理事長)
●デジタルが拓く、こころとからだとの新たな関係性
松村 雅代(株式会社BiPSEE代表取締役、高知大学医学部「医療×VR」学特任教授)
COVID-19のパンデミックは、社会の在り方や働き方を激変させ、私たちは心と身体に大きな影響を受け続けている。マイナスの影響を危惧する声が大きい中、明確なプラスの変化として挙げられるのが、治療領域におけるデジタル技術の活用である。
演者は、心療内科医として臨床を担いつつ、med-tech startupであるBiPSEEの代表として、VRを用いたうつ病のデジタル療法の開発を進めてきた。以下の3点について現状と可能性をお伝えする。
1.医療におけるデジタル技術: デジタルヘルス(Digital Health)、デジタル医療(DigitalMedicine)、デジタル療法(Digital Therapeutics)
2.ひとが本来もつ力を引き出すVRデジタル療法
3.メタバースと医療
●ポストコロナとグローバル経済
中島 淳一(株式会社デジタルガレージ投資セグメント担当執行役員)
新型コロナが流行し、我々は暮らし方を大きく変えることとなった。外出が減ったことでビジネス環境も激変した。さて、それから3年弱経過し、ポストコロナがいよいよ到来する。生活やビジネスは、新型コロナ前に戻るのか? 答えはおそらく否だ。今後は、バーチャルと現実とのハイブリッド型の生活が訪れると見ていいだろう。
ジム通いを見てみよう。新型コロナの流行で、ジムに通っていた層が一定程度、自宅で運動することとなった。オンラインジムなどを手掛けるベンチャーなども各国で急速に伸びた。現在はどうだろうか? ジムを覗いてみたところ、大変な賑わいだ。オンラインジムの今後が心配になるが――投資活動を行う中で業界研究をしたところ、意外にも、オンラインジムは健闘している。消費者はオンラインジムと通常のジムを使い分けているようだ。
働き方はどうだろう? 新型コロナ流行前はオフィスに毎日通うのが当たり前だったが、新型コロナ流行中はZoom会議が当たり前になった。Zoomの業績もうなぎのぼりで、時価総額は2020年10月に1,500億ドル(現在の為替で実に20兆円相当)となり、IBMを超えた。Zoom以外のリモートカンファレンスのシステムも発展し、それを手掛けるベンチャーも成長した。さて、現在はどうか? Zoomの時価総額は最高値の7分の1以下となってしまった。人々は皆、また昔のように出勤するのだろうか? 私はそう単純には考えていない。アマゾンも一時、一律出社を求めたが実現できなかった。私もリモート勤務が生活の一部となっている。
私は、新型コロナをきっかけに消費者が「新しい生活スタイル」を学習したものと捉えている。オンラインと現実を行き来する生活を覚えたのだ。新型コロナをきっかけに流行ったもの全てが定着するわけではなく、オンライン飲み会のように廃れた行動もあるが、リモート会議のように定着したものもある。新型コロナを契機に生まれた新しいパラダイムの下、人々がサービスの取捨選択を行いながら、ポストコロナに移行していくに違いない。
●コロナ禍における音楽業界の実情と今後
ジョー横溝(一般社団法人VOICE代表理事、『 君ニ問フ』編集長)
コロナ禍により、2020年の2月から活動に制限がかかっている音楽業界。その制限の影響はどの業界よりも著しく、2020年のポピュラー音楽(ロック・ポップス)の売り上げ高は前年2019年に比べて79%減でした。飲食業界も飲食店の閉店が相次いでいましたが、それでも前年度比では27%減だったそうで、それと比べるとポピュラー音楽業界がいかに打撃を受けたか想像できると思います。
この打撃は今も続いています。例えば、ライブハウスは今でも<マスク着用><超え出し禁止><KEEP DISTANCE>の3つの自粛要請が続いていて、客足が伸びてないばかりか、すでに国や自治体からの補助金もなく、苦しい経営が続いています。また、そうしたライブハウスを活動の拠点にしているミュージシャンたちも、苦しい生活を余儀なくされています。
こうした状況を打破するためにライブハウスやミュージシャンたちも奮闘していますが、ぜひとも医師の方々のお力添えもお願いできたらと考えています。<ライブハウス・ミュージシャンたち×医師>によるウィズコロナにおけるライブの在り方を、一緒に模索していただけたら幸いです。
●幼児に対するオンライン支援の現状と可能性
小田 知宏 (認定NPO法人発達わんぱく会 理事長)
厚生労働省は202年2月20日、障害児通所支援におけるオンラインでの代替支援を許可する通知を発出し、同3月10日のQ&Aにおいて、スカイプなどの具体的な支援例を出すに至った。
当法人は準備期間を経て、2020年5-6月はZoomを使ったオンラインでの支援に切り替えた。現在でも家族が体調不良の時には、家庭と教室をZoomで繋いでオンラインでの支援を実施しており、支援回数は延べ2,231回に至る。
発達障害の幼児において、オンライン支援に高い適応を示す様子が見られる場合があり、Zoomでのオンライン支援は有効であると考えられる。一方で指導者のスキルアップなどの課題や、対面と比較した場合の限界も存在する。
オンライン支援は、実施している事業所が大手企業を中心に一定数存在するものの、まだ一般的とは言い難い。ポストコロナにおける幼児に対するオンライン支援を考えたい。