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Vol.23001 2023年新年によせて

医療ガバナンス学会 (2023年1月1日 06:00)


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上昌広

2023年1月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

明けましておめでとうございます。新しい年を迎え、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

お陰様で、2004年1月に始まったMRICは、今年で丁度20年目を迎えます。ここまで続けることができたのは、皆様のお陰です。この場をお借り、感謝申し上げます。

新型コロナウイルス(以下、コロナ)のパンデミックが収束を迎えつつあります。流行は当面続きますが、世界は日常を取り戻しつつあります。年始にあたり、まずは日本のコロナ対策を検証したいと思います。

私が注目するデータは、厚労省の「人口動態統計」です。このデータを用いて、コロナ流行期間の死因を分析すると、興味深い事実がわかります。人口10万人あたりの死亡数は、2019年の1111.6人から21年には1172.7人へと61.6人(5.5%)増えていますが、死因別で、この間に最も増加したのは老衰で25.3人(26%増)です。ついで、誤嚥性肺炎7.7人(24%増)、心疾患7.0人(4.1%増)、悪性新生物6.5人(2.1%増)と続きます。コロナ感染の主な死因である肺炎は、この間、77.2人から59.6人へと23%減少しています。日本の死亡者の増加の54%は、老衰と誤嚥性肺炎によるものです。過剰な自粛が、高齢者の健康を害したのでしょう。

実は、日本の超過死亡は、先進国で最大です。2022年3月10日に、米ワシントン大学の研究チームが、英『ランセット』誌に74ケ国と地域を対象に、2020年1月から21年12月までの超過死亡を推定した論文を発表しました。この研究で、日本の超過死亡数は11万1,000人と推定され、確認されたコロナによる死者1万8,400人の6.0倍でした。この数字は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中で最大でした。

これは由々しき問題です。ところが、厚労省や周囲の専門家は、このことを問題視しません。昨年12月22日の読売新聞は「致死率過小評価の可能性 コロナ専門家慎重な見方」と報じています。

この報道こそ、日本のコロナ対策を象徴しています。厚労省や感染症/公衆衛生の専門家は、コロナ対策には関心がありますが、国民の健康は二の次なのです。まさに「専門家の暴走」です。専門家が暴走し、メディアが支持するという構造は第二次世界大戦と同じです。いま、日本に求められているのは、専門家に対するシビリアン・コントロールです。

では、どうすればいいのでしょうか。私は国民目線で議論することだと思います。この点で海外の経験は参考になります。コロナ流行当初、感染を恐れた世界中の患者と医師は「会いたくない」と希望しました。この要望に対応して、各国政府はオンライン診療の規制を緩和しました。オンライン診療の規制を継続したまま、発熱外来や在宅医療を推進した日本は例外的な存在です。

オンライン診療が解禁され三年が経過し、医療は予期せぬ進歩を遂げました。オンライン診療は、どうやら精神科医療とプライマリケアとの相性がよさそうです。

精神科については、対面診療を嫌がる引きこもりの若者でも、オンラインなら診療を受けるという感じでしょうか。コロナ禍ではオンライン診療の普及により、精神科医療が急速に進歩しました。そして、幻覚剤LSDの心的外傷ストレス障害(PTSD)への応用など、かつては想像もつかなかった治療が開発されました。2021年末、米サイエンス誌は、同年の重大ニュースの一つとして、この分野での研究の進展を取り上げていますし、昨年は英ネイチャー誌も特集を組みました。

プライマリケアも同様です。この領域では、すでに実用化が進み、営利企業も進出しています。米国では、ユナイテッドヘルスケア社などが、オンラインに限定したプライマリケアを提供する保険の販売を開始しました。同社によると、利用者の4人に1人は主治医と直接会うより、オンライン診療の方が良いと回答しています。

アマゾンも進出しました。同社は米ワンメディカル社を約 39 億ドルで買収しました。同社は、利用者が年間 199 ドル支払えば、プライマリケアをオンライン診療と対面診療で提供するサブスクリプションモデルで提供する企業です。昨年 3 月時点で約 77 万人と契約し、 188 の診療所と提携しています。

オンライン診療の普及は地域医療のあり方を変えるでしょう。手術は兎も角、大抵の医療なら、離島だろうが、僻地だろうが、どこにいても名医の診察を受けることが可能になるからです。

日本は、この対応に遅れました。医師会の地域独占が崩れることに加え、医師偏在対策を重視し、その解消のために様々な事業を実行している厚労省や周辺の人々が、利権が壊れることを嫌がったのでしょう。コロナの三年間で日本の医療は世界から大きく取り残されました。

どうすればいいのでしょうか。私は患者のために役に立つことを地道にやっていくしかないと思います。この視点でやれば、世界と一緒に議論できます。

残念なことに、現在の日本で、患者中心の議論は困難になっています。冒頭にご紹介した高齢者の多くが老衰や誤嚥性肺炎で亡くなっているのに、コロナの危険性を声高に主張し、いまだに感染症法二類に留め置くなど、その典権です。

我々は権力に忖度せず、国民視点に立った科学的で合理的な議論を積み重ねなければなりません。私は、このような議論をするプラットフォームとして、MRICがお役に立てればと願っています。「ここが問題だ」「こうすればよくなる」という現場からの御寄稿をお待ちしています。本年も宜しくお願い申し上げます。

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