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Vol.22263 福島県南相馬市、新型コロナワクチン接種率の躍進に関する考察

医療ガバナンス学会 (2022年12月31日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2022年12月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2022年の12月の段階で、日本中でオミクロン株対応ワクチン(2価ワクチンと呼ばれる従来型:武漢型ウイルスとオミクロン型の2種類の抗原を一つのワクチンにしたもの)の接種が急ピッチで進んでいる。
このような中、福島県南相馬市では、2022年12月25日の段階でオミクロン対応ワクチンの接種をほぼ完了した。その接種率は、69.1%というものであり、全国815市区の中で最上位となった。

「年内にワクチン接種を完了させるべし」、という国の意向があったものの、南相馬市の達成度には目を瞠るものがある。
筆者は、この南相馬市のワクチン接種に協力して来ており、以下のような報告も掲載させていただいて来た。

相馬野馬追は、日本のウイズコロナ時代移行の試金石である
http://medg.jp/mt/?p=11068
相馬野馬追が示す一律の行動制限からの脱却:パンデミックの終焉に向けて  http://medg.jp/mt/?p=11134

今回は、この高接種率をいかにして達成したのかについて、当事者の視点から分析してみたい。ポイントは、計画、戦略、人材マネージメントである。

1.迅速な計画設定
当初、2022年10月13日の時点で2価ワクチン接種が周知された段階では、まだ、接種間隔として許可されていたのは、前回接種から5ヶ月以上空いていることが条件であった(10月下旬から接種間隔3ヶ月以上に変更となっている)。この段階から、接種を開始している。また、当初の予定では、2023年2月での接種完了を目標としていたが、年内での接種完了(過去2年間、年末年始の感染拡大があったため)という国の意向があったため、接種計画は前倒しして再調整された。
このような接種計画と同時並行で、生後6ヶ月~5歳未満の乳幼児向けコロナワクチン接種事業も進められていたのである。南相馬市の新型コロナ対策課のスタッフの皆さんの活躍は言うまでもない。

2.過去の経験を活かした臨機応変な戦略
これまでの経験から、以下の3点に留意した戦略が取られた。
(1)高齢者施設入居者等を最優先に接種:クラスターが発生すると困難であり、クラスター発生を少しでも抑えるために最優先とされた。
(2)60歳以下接種を高齢者施設の次に優先:3回目接種から日数が経過してることから、接種間隔が5ヶ月という条件に合致していたためである。12歳以上を対象に接種が進められた。
(3)最後に高齢者や基礎疾患のある方への接種:既に4回目接種をされた方が、当初5ヶ月経過後とされていたことから、最後の接種対象とした。しかし、その後に3ヶ月となったことから接種全体の前倒しが進んだ。高齢者接種の最盛期には、問診に医師2名、経過観察1名という3人体制で、一日に約1日の接種者は750から800名、多いときで、900名の接種が行われた。
また、過去の経験から、高齢者等の接種に関しては、予約システムを活用いただくのが困難であると考え、日時指定で接種会場にお越しいただき、そのために、送迎バスも配車していたのは以前と同様である。

3. 全員参加型の事業推進
今回の推進役としても、南相馬市の新型コロナ対策課のスタッフは、課長のリーダーシップのもと的確に動いていた。しかし、それだけではない。医師会や南相馬市立病院の先生方も積極的に接種に参加されていた。会場のスタッフは、最初の書類確認等の担当は、医師会から派遣された医療事務スタッフなどが担当し、医師の問診を介助していたのは、市の保健師さんや看護師さんであった。ワクチンの溶解、シリンジ詰めや接種も、現役の看護師更にはOGの看護師を募り、人員を確保した。医師会関連の人材を主にマネージメントされたのは元相馬郡医師会南相馬支部長の新道医師(現相馬郡医師会長)である。また、依頼を受けたものとして、私自身も、接種問診部隊をリクルート担当として、かつての同僚の先生や医師である大学院生等を積極的に関わっていただいた。コロナ対策課課長、新道医師、筆者である私は、頻繁に情報の共有を行った。情報の行き違いは、接種遅れにつながる可能性があったからである。
全員参加という意味では、市長の存在も重要である。市長は、何度も接種会場にいらして、接種スタッフに挨拶していた。

このように、迅速な計画設定、過去の経験を活かした臨機応変な戦略、全員参加型の事業展開の3点により、南相馬市のオミクロン株対応ワクチンの接種率69.1%は達成されたのである。現場に関わったからこそ、気づきを得ることができ、貴重な経験をさせていただいた。ここに報告するものである。

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