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Vol. 336 患者さんのための報道か、医療か?

医療ガバナンス学会 (2010年11月1日 06:00)


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国は国民の立場に立った支援施策の確立を、マスコミには客観的で冷静な報道を望む
東京保険医協会会長 拝殿清名
2010年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


東大医科学研究所でおこなわれたがんワクチンの臨床研究を巡り、朝日新聞が 発生した有害事象(出血)を同種のがんワクチンを提供した他施設に報告しなかったと問題視し、大きく報じた。医科研側が反論し、医師主導臨床試験に大きな波紋を起こしている。
朝日新聞の報道と取材を受けて、同種のワクチンを使用した東大医科研以外の病院において臨床試験が中止されたケースがあり、10月22日にがん患者さんの団体が「がん臨床研究の適切な推進に関する声明文」を公表した。
団体有志は、がんの新たな治療法や治療薬の開発は基礎研究から臨床試験までの長い研究過程が不可欠であり、多くの予算と多くの研究者や医療者による尽力 そして、多くの患者さんの尊い参画が必要であるとしている。その上でこれら治験や臨床試験には、一定のリスクがあり、被験者の保護は十分すぎるほどの配慮 が必要と強調した。一方でリスクについては、正しい理解と適切な検証が必要であり、不確かな情報や不十分な検証に基づいて、そのリスクが評価されるべきで はないとも述べた。そして、今回の朝日新聞報道によって当該臨床研究のみならず、他のがん臨床研究の遅延という事態が生じていることに強い憂慮を表明し た。

東大医科研はがんワクチンは無償供与したが、検査費用や診察を含む全ての臨床研究費用を自前でまかなうことができなかったため、他の診療費は保険請求し ていた。今回のがんワクチンは保険診療との併用が認められる保険外併用療養の「先進医療」や「治験」ではなく、治験の前の段階である医師主導の臨床試験で あった。混合診療に当たると朝日新聞は指摘をしているが、臨床研究実施医療機関が薬剤以外の費用をがん患者に全額負担させることもできずに、やむなく保険 請求をしたものである。国の公的な支援が貧弱であるためにこのような事態が生み出されたものである。
さらに医療では、必ずしも治療結果が満足のいくものでない場合がある。ましてやがんの臨床試験では、治療法・治療薬自体が新規のものであることも多い。 このため臨床試験における出血等の有害事象の扱いについては国としては統一したルールがないのが現状である。ただし、実施機関には最大限の慎重さと計画実 施の緻密さが求められ、患者には十分な配慮と説明を行い、患者はそのリスクをも承知して、「臨床試験」が行われていることはいうまでもない。

こうした不備な公的支援体制の中であっても新たな治療法を求める患者が多数存在するのであって、それに応えるために、医療機関は継続的に治療を提供しな ければならない。今回朝日新聞が報じた東大医科研のがんワクチン臨床試験は、その面において、報道にあるような看過できない程の問題がある臨床試験であっ たのだろうか。また本事例で保険請求したことを持って「混合診療」と断罪するのであれば、国内のほとんどの医療機関は「臨床試験」を行えなくなるであろ う。さらに、臨床試験による有害事象の報道は医師主導治験を停滞させるほどの影響を与えた場合、その場合最も被害を受けるのはがん患者である可能性も否定 できない。

患者に継続的に医療を提供するという立場に立って国は早急に十分な支援体制を確立させることと、マスコミにはがん患者を含む一般国民の視点を考え、「誤解を与えるような過激な報道」でなく、客観的で冷静な報道を強く望むものである。

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