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Vol.23021 コロナワクチンの接種は続けるべきか、もう打ち止めにしていいのか

医療ガバナンス学会 (2023年2月2日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2023年2月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

これからもコロナワクチンを打ち続けた方がいいのだろうか。これは多くの国民が抱いている疑問だと思う。今回の寄稿では医療従事者の立場ではなく、患者さんの立場で考えてみたい。

まず現状から考えてみると、1-2回目ぐらいまでは大多数の人がコロナワクチンを接種したが、3回、4回、5回目となるに従ってだんだん接種するひとは減ってきて3割前後に落ち着いてきている。これは欧米でも同様の状況のようだ。

ほんとうは、ワクチン接種が有効かどうかとか、打つことのメリット、打たないことのデメリットなどを考えた上で、接種するかどうかの判断をしたいところだが、どうも「続けてワクチンを打つことが有効なのかどうか」のきちんとした説明は聞こえてこないし、現在のコロナの感染状況をみても、コロナに感染してどうかなったという話もあまり聞かれなくなってきた。そんなことを考えて、もうワクチンは打たなくてもいいのかなと感じている人が大半なのではないだろうか。

ワクチンを打つ打たないは本人が決めることだから、いくら感染症の専門家と呼ばれる人にワクチンは有効だから接種を続けなさいと言われても 多くの人はなかなかその気にならないというのが現状だろう。でも残りの3割ぐらいのひとは、高齢者であったり病気を抱えていたり、重症化すると大変だという思いが強い人達で、政府の助言に従ってそれを信じてある意味機械的にワクチンを打ち続けている。

それではインフルエンザのワクチンはどうだろうか。実はコロナ禍以前、毎年インフルエンザワクチンを接種している人は2,500万人ぐらい、国民全体の4分の一か、5分の一程度。内訳で見ると助成金を利用してワクチンを打てる高齢者が多く含まれていて、受験生やその家族とかインフルエンザにかかりたくない事情がある人などがそれに続く。でも裏を返せば健康で働き盛りの年齢層の多くの人たちはワクチンを接種していないのだ。

となるとコロナウイルスもだんだん季節性の市中感染症の一つとして扱われるようになれば、ワクチン供給は続けられていくとしても実際接種を受けるのは一部の国民、おそらく毎年インフルエンザのワクチンを接種する集団などにだんだん限定されていくのではないだろうか。

実はコロナもインフルエンザも高齢者が罹患すると重症化するリスクが高く、そのためワクチンで予防しておくことのメリットが大きい。だが、コロナに関しては国民全体に対して感染拡大防止対策(行動規制やワクチン接種の励行)を求める段階はとうに過ぎ去っていて、これからは国民一人一人が自分でコロナに罹患してしまった場合のリスクを考えて、「自分の身は自分で守る」というスタンスで感染防御対策の中身を自ら選択して実施していくことになる。しかし、ワクチンを打ちたい人や検査や病院受診をしたい人が滞りなく医療の恩恵を受けられるようにすることは為政者や医療機関の果たすべき役割だし、逆に必要以上にすべての人にワクチン接種の励行や過度のコロナ対策の実施を求め続けるべきでもない。

また、国や都道府県はコロナワクチン接種を受けるべきかの判断材料はきちんと国民に提示して説明すべきだし、マスコミも一夜漬けで記事を作らず、あるいは専門家の意見を横流しして記事にするのではなくて、じっくり時間をかけて下調べをして正しい情報を国民に伝えるように研鑽を積むべきだ。

最後に、ワクチンの有効性に関する感染研の発表内容について概説しておく。

「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第五報):オミクロン対応 2 価 ワクチンの有効性」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001024250.pdf

研究対象となったのは4,473人、2022年9月20日から11月30日までの間に、関東地方の10の医療機関の発熱外来などを受診した患者さんで、このうちPCR検査でコロナの感染の有無を調べた方々が対象となっている。さらに条件として
「37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、 嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか 1 症状のある者」に限定して解析が行われた。

この結果をみてまず驚くことは、解析に含まれた 4,040 名のうち陽性 が2,089 名でなんと陽性率が52%だったことだ。上の条件を読むと熱がなくても鼻水が出ていただけでも、あるいは風邪症状がなくて嘔気や下痢などのおなかの症状がある人も解析対象に含まれていたということだから、これはとんでもない陽性率だ(しかしそのことは結果の解釈のところでは何も触れられていない)。

本題の有効性についてだが、検査結果の最後に記載されている解析結果(表4)では、なんと発病予防効果はオミクロン対応 2 価ワクチンに限定すると有効率として69~73%にもなるというのだ(ただし、有効率をどう定義したかは細かな記載がない)。「コロナワクチンの効果は主に重症化を防ぐことにあって発病予防効果はわずかだ」と認識していた筆者にとってはこれまた驚きの数字であった。そこで実際の数字を細かく見て行くことにした。

「研究対象者のワクチン接種歴」という表がある(表2)。これを見ると接種歴で細かく分けられているのだが、単純化するために接種の有無でざっくり分けてみると、未接種者435人中陽性者は268人(62%)、接種者の合計は記載されていないので手計算で合算すると、3,566人中1,801人が陽性(51%)と少し差があるように見受けられる。次に接種1回から5回までの陽性者と非陽性者の数字を比べてみる。
21人対25人(接種1回)、492対435人(接種2回)、1,010人対999人(接種3回)、262人対288人(接種4回)、16人対18人(接種5回)
上述したように対象者全体の陽性率は52%すなわち約半分だから、この内訳の比率も納得の数字である。しかしワクチン接種回数にかかわらずどのグループでも陽性者と非陽性者がほぼ半分だから、接種回数を多くしていっても感染予防効果は上がっていない。平たく言えば1回打っても5回打っても同じ。というのも今回の解析では対象者を登録した約2か月間という短い期間内のコロナ発症予防効果を見ているだけで、ワクチン接種後の全期間におけるコロナ感染の有無を見ているわけではない。要するにワクチンを打ってからある程度の日数が経過してしまったら(おそらく3か月以上)、それまで何回ワクチンを打っていても元の木阿弥になってしまうということだ。つまり、少なくとも発症予防に関しては長期的に持続するような蓄積効果はなさそうで、この報告の中でも「接種回数よりも接種か らの期間が有効率に影響を与えることが示唆されている」と説明されている。

それでも特にオミクロン対応 2 価ワクチンに限定すると、発病予防効果が高い(有効率で69‐73%)と報告しているので、これに関してもう少し詳しく見ていくことにしよう。そもそも解析対象となった4,040人中、オミクロン対応 2 価ワクチンを接種した人は192人しかいないのだが、このうちコロナ陽性者87人(45%)に対して非陽性者105人(55%)という結果だった。ここで注意しなければいけないことは、オミクロン対応 2 価ワクチンを接種した人はすべて接種後3か月以内でワクチン効果がもっとも高い時期にあるということだ。しかし、この報告には従来型の1価ワクチンを接種した人でも接種後3か月以内の人が最大で492人含まれていて(最大という意味は、なぜか接種1回のグループのみ接種後経過期間で分けられていないため)、その陽性率はコロナ陽性者206人(42%)、非陽性者286人(48%)だった。

未接種者435人の陽性者268人(62%)と比べればワクチンの有効性は少なからずはありそうだが、2価のワクチンが際立って良いというわけでもない。専門的な解析では絶対有効率(未接種者と比較)と相対有効率(1価ワクチン接種者と比較)というものを設定して比較しているようだが、ここから先は統計の専門家でないとなかなか解釈が難しい。しかし、誰もがわかる直観的な比較結果と専門家による解析結果の解釈があまりにもかけ離れているとしたら、その解析方法の設定に問題があるかもしれないと考えるべきだ。

最後にこの報告書の結語をそのまま転記すると、「本報告からは、オミクロン対応 2 価ワクチンの高程度の発症予防効果が示唆されており、接種を検討することが重要である。ただし、有効率は 100%ではない ため、接種後も、場面や流行状況、医療逼迫の程度等に応じた適切な感染対策を継続すること も重要となる。」として、ワクチンの接種を勧め、感染対策を継続するように促しているが、検査結果自体とその結果の解釈、さらにはそこから導き出された提言内容には残念ながらかなり乖離があるような印象だ。少なくとも、私が当初持っていたコロナワクチン全体に対する認識、「発病予防効果はわずか」という評価は当たらずとも遠からずであるように思われる。

このように、統計報告の結果解釈やその報道内容というものには十分注意を払って見ていかなくてはならない。でもそうなるとますます国民は何を信じていいのかわからなくなるのも事実だ。そうなると現在の感染状況を動物的な嗅覚で嗅ぎ取ってワクチン接種の有無を静観していくという国民の判断はむしろ健全な流れに見えてくる。それは世界のワクチン接種率が何よりも物語っているのではなかろうか。

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