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Vol.23020 新型コロナは感染症法「5類」へ。ワクチンの集団接種はどうなる?どうすべき?

医療ガバナンス学会 (2023年2月1日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2023年2月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2023年1月20日に、岸田文雄首相は、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染症法上の扱いについて、今春に季節性インフルエンザと同じ「5類」へ移すよう指示し、5月8日には「5類」移行がほぼ決定しました。コロナは2020年の2月に法改正で、「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ、外出自粛要請など「2類」よりも厳しい措置がとれるほか、緊急事態宣言のような強い行動制限ができるような感染症に指定されていました。この「2類」、「5類」という感染症法上の分類は、法律が成立するまでに知られていた、既知の感染症、ウイルスに対して設定されたものです。それを、新型コロナウイルス感染症という未知の性質(初期ウイルスの高い致死率、長いウイルス生存時間、長い潜伏期間、高率な無症状感染)をもった感染症に、ある意味では「強引に」当てはめていたものです。
今春から、「5類」へ移行した場合に、気になるのは無料のコロナワクチン接種がどうなるのか?という点です。

これまでのコロナのワクチン接種は、「まん延予防上緊急の必要がある」として、予防接種法の「特例臨時接種」として無料での接種が進められてきました。それが「5類」へ移行した場合には、まん延予防上の「緊急の」必要性は認められなくなってしまう可能性があります。つまり、法的な根拠が曖昧になってしまうのです。
この点について、東京都医師会の尾崎治夫会長などは、「高齢者や基礎疾患を有する人だけでも無料接種を継続すべき」と提言されています。
現時点で、ワクチン接種による重症化、死亡の予防効果は明らかになってきています。有料化すれば、接種率は下がってしまうでしょう。つまり住民を守ることが難しくなる可能性が出てくるのです。

よしんば、無料接種が継続されたとしても、集団接種がどうなるのかも気になるところです。現状では、集団接種として集約的に行われているワクチン接種ですが、これが、もしも個別接種の扱いで、各クリニックに委託されるようになった場合を想定してみます。日本の自治体の約8割は人口7.5万人未満の規模です。クリニックの数も決して多いとはいえないので、集団接種に頼っているところが多いでしょう。

都市部などで、すでにワクチン保管の設備を持っているクリニックであれば、問題はありません。しかし、新たに委託を受けることになるクリニックにおいては、-70度でワクチンを保管できる超低温冷凍庫を入手する必要があります。更に、接種当日にワクチンを溶解して、注射器に詰める作業も必要になります。すでに慣れている施設もあるでしょう。しかし、そのような施設はほんの一部です。多くのクリニックではこれらの手技は煩雑になるはずです。「煩雑になるのであれば、当院ではワクチン接種を行わない。」という判断も出てくることになりかねません。つまり、全体としての接種率が確保できなくなる可能性が出てくるのです。

別な方法として、これまで集団接種、ワクチン管理を担当して来た自治体が、ワクチンを溶解して注射器に詰めて、クリニックに配布するという方法も考えられますが、これは、行政の権限を超えた業務になってしまいかねません。また、仮に、任意の有料接種となったとしても、行政が業務の一部を担当している以上、現在のインフルエンザワクチンのように自由に価格を設定することは難しくなります。つまり、現場のクリニックでは、一般の診療を中止してまでワクチン接種を行うメリットが減ってしまうのです。

いずれの可能性を考えても、現在の集団接種体制を維持した方が最も効果的、効率的であるように考えられます。5月になって、なし崩し的に「5類」指定されてしまえば、混乱が生ずることは間違いありません。新たな感染拡大、重症者、死亡者の増加という「人災」を招くことにもなりかねません。

繰り返しになりますが、新型コロナウイルスは、これまでになかった新たな感染症です。既存の「5類」分類に押し込めれば、様々の軋轢が生じて来かねません。日本のごく一部のエリートが考えた「感染症法」の縛りが、国民を苦しめることになりかねません。新たな人災を生じてしまう可能性さえあります。

国民視点で考えましょう。クリニック接種以外に自治体の集団接種の仕組みは維持していくべきであると考えます。

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