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vol 14 「医療と品質管理」

医療ガバナンス学会 (2006年7月27日 18:51)


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2006年7月20日発行
◇◆ 医療と品質管理 ◆◇
多摩大学 医療リスク研究所教授
(医師、MBA) 真野俊樹先生

 

●品質管理

経営学の1分野に品質管理というものがある。質管理などということばを使うと、医療は品物ではないという批判を受けることがある。また、医療はサービスである、という言葉を使うと、医療を、「サービス業と同じにするとはけしからん」という批判を受けたりする。わたしの見るところ、医療はサービス業である
と思われるが、品質管理の手法が医療に適用できるのであろうか?

 

●米国病院での品質改善の取り組み

今回、2006年4月18日から4月27日まで、米国において医療の質改善への取り組みを経営学の視点で調査する機会に恵まれたので報告したい。前半は、質向上活動に熱心ないくつかの病院を訪問し、後半は質向上活動のひとつとして注目されている、MB賞(マルコムボルドリッジ賞)の授賞式であるクエスト会議に出席し、医療機関や医療関連組織における取り組みのプレゼンテーションを受けた。

今回の調査において明確になったのは、米国ではさまざまなかたちで、医療機関が「外部からの目」を取り入れていること、そしてそれに対応するために内部での組織の成熟のために多くの経営管理・品質管理手法を取り入れていることであった。

米国で「外部の目が」医療の質に介入するきっかけとなったのは、1999年の米国医学研究所(Institute of Medicine: IOM)が発表した「年間最大98,000人が医療ミスで死亡」という事実を報告したレポートである。日本語訳では「人は誰でも間違える」という書籍になっている。このレポートが医療の質を向上させる活動への大きな原因となったといえる。

医療におけるMB賞への試みがおおくなったこともこの流れに乗っかっていると考えられる。すなわち、権威ある第三者の評価を受けないと病院が生き残れなくなっているのである。

高い評価を受けるエッセンスとしては、チーム医療、看護師の活用、組織の方向性を同じにする、プロジェクトチームの活用、といったことがあげられる。また、経営手法としては、経営手法をミックスして使いこなしていることが印象的であった。すなわち質の管理においては、企業と医療機関の違いは感じられなかったのである。

おもしろい話としては、訪問先の一つのSSMヘルスケアでは、多くの病院でMissionがばらばらであったのを単純化して統合した。そのときに多くの従業員の意見をもとにしている。すなわち、Through our exceptional health care services, we reveal the healing presence of God.というものを作り上げたという。なお、神様という言葉が出てくるのが日本人にはなじみにくいが、米国では非営利病院の多くは宗教系の病院である。

これで、自信を持っていたところが、その後に、審査員が、ところで、Exceptinalはどうやって定義するのかと質問してきた。残念ながら、その場で答えることができなかった。

という話があった。

 

●MB賞とは

ここで、MB賞について簡単にまとめておきたい。

1980年代、日本経済は絶好調で、日本の経営がもてはやされた。書籍では「Japan As NO1」などが上梓されたのである。それに対して、アメリカは、1980年代前半の経済活動の大幅な落ち込みの原因分析と根幹的な対策の確立に国を挙げて取り組み、日本の強さは品質にあると結論された。そこで、1987年のレーガン政権下、競争力強化のための法制化でマルコムボルドリッジ賞の設立を決定し、1988年からマルコムボルドリッジ賞のスタートとなったのである。著名な受賞企業としてはボーイング、テキサスインストルメンツ、ゼロックス等があり、大統領自らが受賞の表彰を行うことでも知られている。また、MB賞に限らず、シックスシグマなどもこの頃に誕生している。品質と並んで顧客志向も経営品質賞の重要なキーワードになっている。

さらに社会的に大きな問題となっている病院や学校の経営の分野でもマルコム・ボルドリッジ賞を対象とすべく1994年からパイロットプランがスタートしている。1995年には、46の医療機関と19の学校が審査に応募し、評価とフィードバックが行われた。そして、 2000年度からは「教育」と「ヘルスケア(医療・福祉)」の2部門が新設された。

一方、日本では(財)社会経済生産性本部が日本版マルコムボルドリッジ賞として、日本経営品質賞を設立し、1996年からスタートした。毎年12月に受賞企業が発表される。第一回目の受賞企業は「NEC半導体事業グループ」、97年度はアサヒビール、千葉夷隅ゴルフクラブなどで、必ずしも大企業ではない。また1997年3月26日地方自治体として第一号の経営品質賞が板橋区役所で誕生した。現在千葉県、新潟県、福井県が県としての経営品質賞を設置している。
この考え方の特徴は4つである。

1) 顧客本位…価値の基準を売り上げや利益ではなく、顧客からの評価におく。

2) 独自能力…他組織と同じことをよりうまく行うのではなく、他組織とは異なる見方、考え方、方法による価値実現をめざす。

3) 社員重視…一人一人の尊厳を守り、社員の独創性と知識創造による企業・組織目標の達成が重要。

4)社会との調和…企業・組織は社会の一員であるとの考え方に基づいて、社会に貢献する、社会価値と調和することを目指す。

なお、日本の経営品質賞では8つの分野から、米国版経営品質では、7つの分野からアセスメントする。アセスメントを実施することで、組織の進むべき方向性と現状とのギャップが明確になる。

 

医療関連受賞企業

次いで、MB賞を受賞した医療関連企業あるいは病院の特徴を述べておこう。
メドラッド:本社ペンシルバニア州インディアノーラ。MRI装置など先端画像診療器具の開発・製造・販売及びサービスを行っている。1998年以来、平均15%の売上増を達成するとともに、従業員満足度は1999年以来同業ベストをしのぐレベルで推移している。主な顧客は全世界の病院・画像診療センターで、従業員1,194名。売上高 2億5,400万ドル。シェーリングAG社(ドイツ)の子会社で、事業所は米国内2、世界各国(日本を含む)に14ある。前回、書かせていただいたCSRに力をいれている。
Baptist Hospital<医療部門>

バブティスト病院:Baptist Health Care社傘下の同社は、フロリダ州ペンサコーラ(ベッド数492)とガルフブリーズ(同 60)2つの病院と1つの外来診療センターを運営する。職員数 2,252名。入院患者、外来患者、救急患者など全患者の満足度は過去数年間99%近くを維持。言い訳しない(No Excuses)ポリシーにより幹部職員は責任感を持って役割を遂行する仕組みがある。全収入の6.7%が貧困層患者支援のために支出され、これは競合他病院の5.2%や4%を上回っている。フロリダ州ペンサコーラ(ベッド数492)とガルフブリーズ(同 60)2つの病院と1つの外来診療センターを運営している。職員数2,252名。言い訳しない(No Excuses)ポリシーにより幹部職員は責任感を持って役割を遂行する仕組みがあり、全患者の満足度を99%近くで維持している。

 

Saint Luke’s Hospital of Kansas City<医療部門>

カンサスシティ・セントルークス病院:創業1882年の歴史をもつ同病院は、ミズーリ州カンザスシティで最大の病院。教会の付属機関であることから非営利組織でありながら、各部門24時間体制で運営されている。看護婦学校や外来センターなど様々な施設を併設している。職員 3,186名。医師 500名。収入 9億3,700万ドル。患者からの評価としては、全米4,500病院中患者評価35位(2002年)、地域内21病院中で、治療、医師、看護婦の評価が第1位(1997年)などの成果を得ている。患者の不満は24時間以内に報告するなど、12の顧客対応基準をもつ。
ロバートウッドジョンソン大学病院<医療部門>

ニュージャージー州、ハミルトンにある200床の同病院は、350,000名の地域住民に急性疾患医療サービスを提供している。従業員1,734名、医療スタッフ650名以上。救急患者が来院後、15分以内に看護師が対応し、30分以内に医者が対応することを保証する「the “15/30″ program」を1998年に導入して以来、患者満足度は2004年で90%(2001年85%)を得ているほか、患者自身をプロセス改善と戦略策定プロセスに参画・評価や提案などを受ける仕組みを取り入れ、視野を医療以外の領域にも向けて革新活動を継続している。
2005年度MB賞 受賞病院

Bronson Methodist Hospital <医療部門>

ブロンソン メソジスト病院:ミシガン州に所在。職員数3,182名。343の認可ベッド(全個室)を抱える同病院は、入院と外来サービスを行う第三次医療センターである。質改善の取り組みにより、老齢者医療における死亡率が2002年の4.8%から2005年1月から7月の3.5%まで下がるという驚異的なパフォーマンス向上を見せた。患者中心が同病院の戦略の中心であり、患者満足度調査など多岐にわたる「聴いて学ぶ」アプローチをとっており、リーダーをはじめ患者とかかわるスタッフは、患者と話し、患者から学ぶという「輪 (rounds) 」を実践している。結果、入院・外来両サービスにおける患者満足度は2002年のおよそ95%から2004年の97%にまで向上した。

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