医療ガバナンス学会 (2010年11月8日 18:00)
10月21日に、総合科学技術会議で実施された、「平成23年度概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定」の審議結果が公開された。最重点化課 題である「ライフ・イノベーションの推進」の新規募集のうち、厚生労働省の『がん治療ワクチン開発(29億円)の1件のみが最低のC評価(実施すべきでな い)』と判定された。
医療報道を考える臨床医の会では、この評価判定のプロセスが不透明であり、朝日新聞の報道の影響により、がん治療ワクチン開発に対して恣意的な判定が下された可能性があることを強く憂慮し、パブリックコメントを投稿する。
2010年10月15日、朝日新聞朝刊一面に、『「患者が出血」伝えず 臨床試験中のがん治療ワクチン東大医科研、提供先に』、という記事が掲載され た。同紙の社会面にも『関連病院「なぜ知らせぬ」』と題する記事が掲載された。さらに翌16日の朝日新聞の社説では、『研究者の良心が問われる』との見出 しで研究者を批判する内容であった。これらの記事は東京大学医科学研究所が、がん治療ワクチンの副作用を隠蔽したという印象を読者に与えるものであった が、医学的誤りを多数含み、さらには、記事自体に捏造の疑いがもたれている。
朝日新聞記事に対する抗議の声、そしてがんペプチドワクチンの臨床試験の停止を憂れう臨床医・研究者が集まり、「医療報道を考える臨床医の 会」(http://iryohodo.umin.jp/)が立ち上がり、朝日新聞報道に対する抗議・記事撤回を求める署名運動が始まった。これまでに 2500名の署名が集まっている。
10月21日、朝日新聞記事の翌週に、総合科学技術会議で実施された、「平成23年度概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定」の審議結果が公 開された。新規案件で最低のC評価(実施すべきでない)は、厚生労働省の『がん治療ワクチン開発(29億円)の1件のみ』であった。
公開された判定結果によれば、外部専門家のコメントでは『7名中6名が推進すべきとの意見』を表明したにも関わらず、有識者議員のコメントでは『2名中 2名が否定的意見』を表明し、優先度判定の理由ではこの7名+2名=9名のコメントのうち『3名の否定的コメントのみが抽出』され、C判定になっている。
参考資料:平成 23 年度概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定(ライフ・イノベーション【一部AP施策】). 5-6ページ参照
http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/yusendo_h23/kekka/02-02li1.pdf
悪意に満ちた朝日新聞の記事が、有識者議員の判断に影響を与え、恣意的判定が行われたことが強く懸念される。ちなみに、ライフ・イノベーション分野にお いては、全ての案件において、有識者議員の主担当が『本庶佑(ほんじょ・たすく)議員』、副担当が『奥村直樹議員』であった。
がんペプチドワクチン療法は、がん治療の突破口として期待されている分野であり、その有効性の検証や、さらに有効なワクチン開発のために研究が必要とさ れている。また、世界中でも競争になっている分野である。厚生労働省内の審査でがん治療ワクチン開発は、有望な研究新規案件と判定され、総合科学技術会議 で審議される運びとなった。今回の判定では、『新規案件65件のうち、C判定が下されたのはわずかに1件(2%)』である。その唯一1件が、このがん治療 ワクチン開発、29億円であった。
参考資料:平成23 年度概算要求における科学・技術関係施策の優先度判定について
http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/yusendo_h23/kekka/00%20soukatsu.pdf
C判定との結果が下されたことに、署名賛同者、臨床研究者から強い怒りの声があがっている。
がん治療ワクチン開発(29億円)の1件のみが、有識者議員の間でC判定になった議論・プロセスを開示し、そしてがん治療ワクチン開発に対する評価判定の見直しを求め、署名者2500名を代表して、ここにパブリックコメントとして投稿する。
なお、本日11/8 23:59まで総合科学技術会議は「科学技術に関する基本政策について」としてパブコメを募集している。締切りが迫っているが、是非以下のフォームから、ご賛同いただける方はパブコメを投稿していただければ幸甚である。
「科学技術に関する基本政策について」へのご意見募集(10/18-11/8実施)
ご意見受付ページ
https://form.cao.go.jp/cstp/opinion-0019.html
総合科学技術会議におけるパブリックコメント
http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/index.html