医療ガバナンス学会 (2010年11月9日 06:00)
【諸外国のグリベック自己負担】
先進7カ国(日、米、加、独、仏、伊、英)を対象とし、グリベックの薬価と患者負担を調査した。調査は、製薬企業、各国の大使館や日本人会、および現地 医療関係者へヒアリングした。価格の国際比較では、購買力平価(Purchasing Power Parity Theory ,PPP(2008年))を用いた。
私たちの調査では、先進7カ国におけるグリベック 100mgの薬価中央値は$24.9(21.8-34.4)、日本は$26.0であった。
患者の自己負担に関しては、英、仏、伊は、公的保険が完全にカバーしており、患者負担は無かった。独では、処方の10%が患者負担であるが、年間負担額 は約$270の上限が決まっていた。米国では、加入している保険により患者負担額は異なり、年間約$5-23,000も幅があった。日本では、70歳未満 では年間約$1,200-4,000、70歳以上は年間約$1,000であった。
以上より、米国以外の先進国と比べ、日本では著しく患者負担が重いことがわかった。
【自己負担軽減へ企業からの支援】
グリベックの販売元であるノバルティスファーマが患者の自己負担軽減に努めている国もある。
例えば、韓国では同社が患者の自己負担を支払うため、患者の自己負担はない。これは、患者たちが、デモ行進や座り込みといった闘争を通じ、勝ち取った権利だ。詳細は過去の記事をご覧いただきたい。
http://medg.jp/mt/2009/06/-vol-133.html 、http://medg.jp/mt/2009/06/-vol-134.html
また、ノバルティスファーマは、年間930億円の資金を使い、世界各地で社会支援事業を展開している (http://www.novartis.co.jp/csr/atm.html)。例えば、低所得者支援プログラム(米国)、グリベック米国患者支援 プログラム(米国)、グリベック・グローバル患者支援プログラム(開発途上国)などがあり、貧しい患者が治療薬を入手できるように配慮されている。
2010年10月、日本でも、患者会を中心として、グリベックの自己負担支援プログラムが始まった(http://kikin.tsubasa- npo.org/)。製薬会社などから集めた寄付金、約2500万円を原資としているらしい。患者発の活動として、高く評価したい。しかしながら、70歳 以下、1年以上の罹患期間、世帯所得が132万円以下等、適応基準は厳しく、恩恵を受ける患者の数はまだまだ少ない。さらに、この支援はグリベック服用の 患者に限られていて、同様に保険医療の範疇でありながら高額な自己負担が続く他の疾患、例えばリウマチや一型糖尿病患者の悩みには対応していない。これに 続く、第二、第三の活動が必要だ。
【長期間にわたる高額な自己負担】
患者会、メディアの度重なる要望を受けて、漸く厚労省も動き出した。高額療養費制度の見直しが始まっている。彼らの素案は、年収300万円以下の患者の限度額を引き下げ、そのかわり、年収800万円以上の高額所得者の負担を高めた。
しかしながら、これでは不十分だ。今回の案では、疾病や治療にかかわらず、初回から所得に応じて一律に減額するが、利益を受けるのは収入が300万円以下の世帯に限られる。多くのサラリーマン家庭の負担は変わらない。
普通の国民にとっての問題は、延々と高額の自己負担が続くことだ。手術や怪我での短期間の負担には耐えられる。両者を一律に論じるべきではない。高額所得者に負担を強いるなら、ばらまきではなく、本当に困っている家庭に還元してはどうだろうか。
例えば、闘病生活が長期化した場合、疾病や治療法とは無関係に、数ヶ月目以降は自己負担を大幅に軽減してはどうだろうか。短期間の負担には耐えてもらうかわりに、負担の長期化を避けることができる。
この話、結局は財源の議論だ。国民を巻き込んだ広範な議論、そして政治主導の決着が必須だ。予算編成を考えれば、年度末がタイムリミット。メディア、および櫻井 充 財務副大臣の活躍に期待したい。