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Vol. 346 大丈夫か朝日新聞の報道姿勢 II

医療ガバナンス学会 (2010年11月10日 20:00)


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東京大学医科学研究所 所長 清木元治

2010年11月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2010年11月10日付朝日新聞東京版第17面に、「臨床試験を考える」とした「オピニオン」記事が掲載されました。先端医療振興財団臨床研究情報セ ンター長の福島雅典氏への朝日新聞東京本社大牟田科学医療エデイターによる取材記事として、我が国における臨床試験の二重基準に対しての意見が紹介されて います。その隣には大牟田エデイターにより、東京大学医科学研究所におけるがんワクチンをめぐる臨床試験に関する一連の報道に対する朝日新聞の立場が説明 してあり、最後に今回の報道に対して多方面から抗議があったことを報じています。また、この主張の終わり付近には、「現在の患者の利益を損なわず、新しい 薬や治療を一刻も早く実用化するにはどうしたらいいか。その知恵が問われています。今回の報道がそのための重要な一石になると信じています。朝日新聞はこ れからも患者や研究者などの多様な意見を報じていきます。」と述べています。なかなか力の入った記事ですが、「今回の報道」が10月15日の記事を指すも のだとすると、この記事について多くの方々から寄せられている抗議への本質的な意味が理解されていないと言わざるを得ません。

10月15日から始まった一連の朝日新聞報道の問題点は、11月10日付の「オピニオン」記事まで、その病根を引きずっているようです。特に象徴的で判 りやすい例は、10月20日に発表されたがん患者41団体の声明を伝える朝日新聞の記事です。声明には、「臨床試験における有害事象等の報道には、がん患 者を含む一般国民の視点を考え、誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実を判り易く伝えるよう、冷静な報道を求めます」とありました。15日付の記 事を見て大変動揺した患者の気持ちを代表する形で、報道への要望が強く表れた内容です。しかし、翌10月21日(朝刊38面)の記事では、声明文の中から 「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分が削除されていました。一方、他紙では削除されることなく正確な報道がなされています。また、15日の 記事に対して、ペプチドワクチンの臨床研究グループ(Captivation network)は、記事中の関係者のコメントはねつ造されたものではないかと指摘しましたが、朝日新聞からは何らコメントがありません。つまり、朝日新 聞は「誤解を与えるような不適切な報道」も、自説を貫くためにはやむを得ないとの考えるのでしょうか。まさに、沖縄のサンゴ礁事件を連想させます (MRIC掲載の前回記事 Vol. 332 大丈夫か朝日新聞の報道姿勢 http://medg.jp/mt/2010/10/vol-332.html#more)。

臨床試験にかかわる制度上の問題は、多面的な角度から冷静に議論することが重要であることは、ほとんどの人が理解をしていますし、現行制度の中で我々を 含めた関係者は患者の皆様と懸命の努力をしているのが現実です。また、臨床試験にかかわる多くの関係者は、より良い方向への制度の改善は図られるべきだと 考えています。しかし、我々だけでなく多くの方々が指摘している問題は、全国紙という媒体を用いて、出河・野呂両記者の論点を主張する材料として、事実を 誤認させるようなエキセントリックな記事を書き、取材対象者および患者の皆様に誤解と不安を与えたということです。それでも10月15日付の記事掲載を擁 護しなければならないとすれば、記事の目的は何だったのでしょうか、不思議に思えます。社会の矛盾を指摘し、真摯な調査と改善を社会に対して要求し続けて きた朝日新聞が、自らはその対象外であると考えているとすれば看過できない傲慢な思い違いです。現在は、「多様な意見を掲載する」よりも、社内での真剣な 検証とその結果を読者および関係者に説明することが必要とされています。

日本を代表する全国紙として、朝日新聞は大きな影響力を持っており、掲載される記事は直接あるいは間接的に人命にも影響しうるものです。このことを考え れば、朝日新聞には臨床試験における被験者保護の観点とまったく同様に、医療報道における取材対象者の人権保護や患者の権利への配慮に対して真摯に向かい 合うということが求められています。

以上の点から、今回のオピニオン記事は、医科学研究所が11月5日付で朝日新聞社に送付した抗議および謝罪・訂正請求書(医科研HPに掲載)に対する回答には相当しないと考えます。

以上

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