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Vol. 345 現場からの医療改革推進協議会第5回シンポジウム 抄録から(1)

医療ガバナンス学会 (2010年11月10日 14:00)


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2010年11月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


第5回シンポジウム
林 良造(東京大学公共政策大学院教授)

協議会も第5回を迎える。この場での議論をきっかけに社会の関心も高まり、さまざまな改革につながったケースも多く出てきている。他方、この問題の根本的解決には道半ばとの感も強い。この機会に提起された問題を、骨格的体系の中に位置づけてみたい。
過去多大の成果を上げた日本の医療が、医療現場の荒廃とDrug Lag, Device Gap等急速に劣化した背景には、医療関連の技術の大幅な革新と、Globalizationの進展がある。
すなわち、急速に進んだ低侵襲性の新たな技術・新たな医薬は、治療法を変え、患者の予後・QOLを大きく変えた。これは、人類にとって大きな利益と同時にリスクと費用の増大も意味し、各国政府は、ふたつの大きな政策課題に直面するようになった。
第一は、医療現場での早期活用と副作用の防止の両立である。この二つの目標は相反するものではなく、その本質は、審査承認制度をどの様に設計し、運用することによって社会の便益を極大化できるかという問題である。しかし、その具体的設計については各国毎に異なっており、その洗練を競っている。遅れていた日本も一定の改善を行っているが、まだ、他の主要先進国と並ぶレベルには達していない。
第二は、高齢化が進む中で、技術開発の促進、新技術の利用の拡大と同時に医療費の膨張の抑制が強く求められるようになったことである。この点については、「公的負担とそれに伴う価格規制」と「私的負担と市場価格を基本とするやり方」に大きく2分される。日本は前者に属するが、その運用に当たり総医療費の抑制と静的な利害調整に引きずられるあまり、国民経済的な価値の適正な評価や動的な価格のシグナル効果が軽視されてきていた。このような政策に対し、企業も、医師も、場合によっては患者も制度環境を選び、活動場所を選択するようになってきており、これがDrug Lag, Device Gapや医療資源の偏在を大きくしている。
このほかに、医師などの人数や配置、病院の設置などの規制、医療事故被害の責任・負担を決める法的枠組みなどがさまざまな主体の行動に影響を与えている。これらが、全体として「よりよい医療をより効率的に」提供する方向に誘導するようになっていない。たとえば、公立病院は交付税によって赤字をまかなえるため首長が過剰に造ることとなりやすく、他方医師数は医療費削減のために抑制されていたことから、その間のアンバランスを招き医師不足、患者の分散による医師の専門性の不足、治験の困難性、流通コストの増大などを招いている。さらに、医療事故について、医師や審査官に対し刑事責任の追及が行われることが、関係者を萎縮させ、医療の提供そのものを危うくしている。
現在、これらすべての面で世界各国は工夫を競っている。この場での議論が、よりよい医療に向かって整合的なインセンティブを生み出すような制度の基本的な改革の加速につながることを期待している。

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周産期医療の崩壊をくい止める会 佐藤章先生 追悼
佐藤章先生に誓う言葉

鈴井直子(超低出生体重児出産育児経験者)

8年前、私は予期せぬ緊急帝王切開手術を受け、小さく産まれた我が子を全力で育ててきました。そこでまのあたりにした周産期医療の現状に衝撃を受け、できることはないかと考えました。
実際の行動に移すきっかけは福島県立大野病院事件でした。テレビ画面に映し出された加藤克彦先生の姿を見た時、何かをせずにはいられませんでした。当初、報道は加藤先生に不利な内容ばかりだったからです。「医療ミス」という言葉、医師への批判、辛辣なコメンテーターの意見-。裁判の行方を決めるとしたら、世論しかないと考えました。医療関係者以外の一般市民の力が必要だと思いました。朝日新聞が意見を募集していることを知り、夫にも協力してもらい書いたものを送りました。夫は佐藤先生にもお送りするよう私の背中を押しました。それが小さな奇跡を呼びました。募金活動をはじめ、このような活動に参加させていただくきっかけとなったのです。
私はこれまでの経験から、医療者と市民のすれ違いがどこから生じ、深い溝となるのか知っています。募金活動の精神を広く理解していただくことは、医療界だけでなく、社会にとっても、大きな意味を持つと考えてきました。そのような思いから、私は自分の経験と募金活動を様々な立場の方に紹介してきました。今年2月、一つの転機が訪れました。父の友人が、電気新聞という業界紙に「周産期医療に関心を持とう」というコラムを書いて下さったのです。周産期医療の現状は、ご自分の経験からも、決して人ごとではないと関心をお持ちになったそうです。6月には、日本経済新聞が「お産の悲劇に寄り添う」という記事で募金活動を取り上げて下さいました。少しずつ広がりをみせています。
私の活動の原点は佐藤章先生が加藤先生を支える姿です。一生懸命正しいことをやってきた人を支える姿です。私は佐藤先生に直接教えを受けたことはありませんが、その姿は胸に刻み込まれています。何を変えて、何を変えてはならないかを教えて下さいました。私はこの活動に込めた先生のお気持ちを忘れずに、小さな力ですがお手伝いしていくことを誓います。

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「れぎゅらとりぃさいえんす」とともに日本沈没は続く
小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科准教授)

なんという偶然か、「れぎゅらとりぃさいえんす」とレギュラトリーサイエンスは、日本語での発音が同じである。しかし、その違いを理解できぬ人々が蔓延し続けているという事実と、日本の医薬品産業・研究開発が地盤沈下し続けているという事実が共に観察されているのは偶然ではない。
適応外使用されている抗がん剤等の使用を当面保険で認める方針や、学会や患者の要望を踏まえて製薬企業に未承認薬の開発を依頼する動きは、むろん患者にとっては喜ばしいことだが、いずれも見えている天井の穴をふさぐだけの泥縄式の雨漏り対策だ。ドラッグラグと言われる現象の本質である新薬の研究開発の日本離れは着々と進行している。これまでの政策(国内供給側の補助金等の対策と需要側への無策)は失敗しているのだが、誰も反省の弁を語らない。水に流す文化は実に素晴らしい。
日本離れはおそらく加速する。製薬企業は、泥縄式の対応を好む政府の存在を前提にこれからのビジネス展開を考えるからだ。「ドーンと売れる大型新薬は「ドラッグラグが生じぬよう国際共同開発します」とPMDAに宣言すれば、金がかかる日本人向けの薬の最適化(用法・用量の設定等)抜きで承認してくれる。ろくに売れない新薬は、放っておけばそのうちに「苦しゅうない。既存のエビデンスで承認してつかわすぞ」と厚労省の方からすり寄ってくる」のだからグローバル企業は安心して中国とインドでの開発に専心できる。日本の開発部門が廃止されるのも時間の問題だ。意味もわからずに叫んでいた「治験の空洞化」がやっと実現しそうだ。
足りない知恵をフル稼働して、(a) 現在・将来の日本の患者をどう救うか、(b) 新薬研究開発で日本人・日本資本の貢献をどう高めるか、という二つの超難問に取り組まねばならない。 (a)と(b)の関係を意識すらしない「れぎゅらとりぃさいえんす」などにうつつを抜かしている場合ではない。

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