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Vol.23050 コロナ禍において低い世帯所得が医療の受診控えにつながる可能性

医療ガバナンス学会 (2023年3月17日 06:00)


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国立成育医療研究センター 社会医学研究部 研究員
小児科医
帯包エリカ

2023年3月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医療受診の遅れは、診断や治療開始の遅れにつながり、時に生死に関わることがあります。患者の医療受診控えは、「医療受診の遅れ」に先行して起こり、医療費の負担や医療受診に関わる時間的な負担、医療保険の状況、医療受診の必要性の認識等が関係すると言われています。
コロナ禍以前より、“世帯所得の低さ”と“医療の受診控え”に関係があることは知られており、コロナ禍においても医療受診に関する所得による格差が存在することはいくつかの研究により示されていました。しかし、これらの医療受診における所得格差が性別や居住地、基礎疾患の有無によりどのように違うのかなどはまだ明らかになっていません。
日本では、2020年には1回目、2021年には2回目の緊急事態宣言が出され、日本全体が日常生活における変化や制限を経験した時期でした。新型コロナウイルスのパンデミック時に、世帯所得の低さが医療受診控えにどのように影響を与えたのか、コロナへの不安を調整した上でも関係性があるのか?また、学歴や居住地などの社会的要因によってその関係性がどのように異なるのかを調べることは、適切な医療受診を促進するために必要なものだと考え、我々の研究グループ(研究代表者:大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部 田淵貴大部長補佐) は研究を行いました。

本研究は「コロナ禍の社会・健康関連の要因への影響を明らかにするためのインターネットコホート調査(JACSIS調査)」の2020年および2021年の調査データを使用し、この調査に登録している日本在住の20~79歳の19,672人を対象としました。今回は、2020年の世帯所得を世帯人数で調整し、その中央値の半分未満(今回は300万円未満)を低所得世帯と定義しました。また、年齢、学歴、雇用形態、コロナ不安といった要因の影響を受けないよう調整した上で、男女別で分析しています。医療の受診控えは、(1)定期的に通っている医療の受診(定期受診)、(2)新たに出た症状に対しての医療の受診(新規受診)の2つについて聞きました。

その結果、低所得世帯の群は、そうでない群と比べて、男性で約1.3倍、女性で約1.5倍、コロナ禍において定期受診を控えることが分かりました(グラフ1)。また、低所得世帯の群の新規受診を控える割合は、そうでない群と比べて男性で約1.3倍であった一方、女性では有意な関連は認めませんでした(グラフ2)。
その理由についてですが、低所得世帯の男性は、新たな症状や症状の変化により予定外の医療受診を行うことが、経済的、時間的に負担になっていたり、仕事を休むことを懸念して受診を控えていた可能性があると考えています。
また、基礎疾患を持っている場合、低い世帯所得が医療受診控えに与える影響はさらに大きくなることが示されました。基礎疾患を有している場合、コロナ禍に医療受診をする際に公共交通機関を避けて自家用車・タクシーを利用したり、混雑する時間帯を避けて通院をしていた可能性があります。その場合、医療受診に伴う経済的・時間的なコスト負担は大きくなり、低い世帯所得の影響が基礎疾患を持っている人ではより大きく表れた可能性があります。基礎疾患を持つ人々が定期医療受診を控えた場合、原疾患の増悪や合併症のリスクにつながる可能性があり、医療受診控えをしないように注意喚起を呼びかける必要があります。さらに、緊急事態宣言が発出されている地域では、低い世帯所得が医療受診控えに与える影響は大きい傾向が示されました。必要な受診は控えないよう呼びかけるとともに、オンライン相談・診療といった感染症のリスクを増やさずに、まずは医療従事者に相談を行うことも解決法の一つであると考えます。

(グラフ1)
http://expres.umin.jp/mric/mric_23050-1.pdf

(グラフ2)
http://expres.umin.jp/mric/mric_23050-2.pdf

以上より、我々の研究では、コロナ禍においても、低所得世帯が医療受診を控える傾向にあることが示されました。医療受診控えは基礎疾患の悪化や、新たな疾患の診断や治療の遅れにつながる可能性があり、合併症や死亡率の増加につながる可能性があります。今回の我々の研究では、低所得世帯の方はコロナ不安という要因を別にしても、定期受診、新規受診を控える傾向があり、支援が必要な集団であることが明らかになりました。また、その理由として、低所得世帯の方は、世帯所得が高い方と比べ、コロナ禍に医療受診をすることの経済的・時間的・心理的な負担がより大きかったためと考えられます。

低所得世帯の方が適切な医療を受診できるよう、受診に関わる経済的負担や心理的負担を軽減し、コロナ禍であっても適切な受診を呼びかける政策が重要と思われます。また、世帯所得が様々な種類の医療受診に与える影響や、医療受診控えが長期的にどのような健康への影響を与えるかについて、さらなる研究が必要です。

【発表論文情報】
論文タイトル:Association between Poverty and Refraining from Seeking Medical Care during the COVID-19 Pandemic in Japan: A Prospective Cohort Study
雑誌名:International Journal of Environmental Research and Public Health
著者:Erika Obikane, Daisuke Nishi, Akihiko Ozaki, Tomohiro Shinozaki, Norito Kawakami and Takahiro Tabuchi
DOI: https://doi.org/10.3390/ijerph20032682

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