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Vol. 349 現場からの医療改革推進協議会第五回シンポジウム 抄録から(3)

医療ガバナンス学会 (2010年11月12日 06:00)


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薬害問題とラグ問題
(ワクチンラグ・ドラッグラグ・デバイスラグ)

**シンポジウムは事前登録制となっており、参加受付は終了しております

2010年11月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ポリオは今、日本に常在している
小山万里子(ポリオの会代表)

日本で生ワクチンの緊急輸入がされてから50年、ポリオは影をひそめ、いま、急性ポリオ患者の医療にあたったことがある医師は一ケタだろうか。いま、ポリオは片足マヒという思い込み、ポリオとCPの混同など、医療者はポリオという疾患を知らない。
しかし、この5月にも1歳の女児がマヒ性ポリオを発症している。毎年、実は数人、いやひょっとしたらこの10倍ほどのポリオ患者が日本で発生していると 思われる。生ワクチンによるものだ。2月に神戸で2歳の男児が生ワクチンによるポリオウイルス2型の二次感染でマヒ性ポリオを発症した。今、生ワクチンに しか2型ウイルスは存在しない。日本は2002年に不活化ワクチン切り替え方針を立てながらその後、治験失敗などから、生ワクチン接種を続けている。国産 にこだわり4種混合ワクチン製造と言うが、数年先になるだろうし、世界はすでに6種混合の時代になっている。WHOはポリオ流行地域での不活化ワクチン切 り替えを検討している。生ワクチンによるマヒ性ポリオの発症と強毒化による流行の危険の方が、生ワクチンでの制圧効果よりも重大と判断しているのだ。
日本では、生ワクチンによるマヒ性ポリオ患者数のきちんとした報告はない。厚労省はウイルス検出数、ワクチン出荷数などから450万人に1人、100万 人に1人などと言うが、平成20年にマヒ性ポリオ発症数は7例、内ウイルス検出は2例である。ポリオウイルスの検出には小児科医と保健所が迅速な診断と便 などの検体を調べることが必要だ。ポリオウイルスは1カ月たったら検出できないが、きちんとその間に診断できる医師はどれだけいるだろうか。そしてワクチ ン被害救済制度は実際のところ有名無実である。
一方で世界の大勢は不活化ワクチン接種である。不活化ワクチンはポリオを発症することは全くない。免疫獲得率においても生ワクチンより勝っている。医療 現場は生ワクチン神話を信奉し続け、危険性はほとんどないと言い続けているが、毎年少なくとも数人、ポリオと診断されなかったマヒ性ポリオ患者は10倍は いるだろう。全く安全なワクチンがあることを知りながら、不活化への切り替えの必要を言いながら、あえて生ワクチン接種を続けるのは、薬害エイズと同じ構 造である。早急な不活化への切り替えと国産化がかなうまでの緊急輸入を求める。とともに、日本はポリオウイルスを垂れ流して常在化させ、大流行の危険を抱 えていることを認識すべきであろう。

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薬害肝炎事件の検証を通して感じたこと
坂田和江(薬害肝炎九州訴訟原告、薬害肝炎検証委員会委員)

「私達は、なぜ被害者にならなくてはいけなかったのか」このことを知りたくて被害者の立場として、「薬害肝炎の検証および再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」のメンバーとなった。
また、事件の具体的な背景等を当時に遡って把握するため、検証委員会の下にあった研究班に参加し、国(10名)、企業の関係者(3名)に対してヒアリング等を行った。
ヒアリングを通じて感じた点は次のとおりである。
・行政に関しては、一部の課を除いて文書が残されていなかった問題。HIV事件の反省が活かされてなく、ずさんとしか言えない。これでは検証できない。
・昭和61~62年の青森で起きた集団感染での医師からの報告の際、行政の対応にも見られるよう、被害拡大・被害者救済の思想のなさを感じた。
・担当者間の引継ぎの問題、関係課の連携の問題、彼らはちゃんと連携していたと言っていたが、事実ではなく裏切られた。
・企業に関しては、昭和62年頃の時代であったにせよ、生命に関わる仕事に対する危機感の希薄さをとても感じた。
これらの点を基に、検証委員会の最終提言書に(1)関係機関の連携、(2)製薬等の長期保存、(3)GMP等の強化と企業の基本精神、(4)薬害資料館 の設置を明記させるとともに、机上で考えるだけでない現場主義と、重要な情報の管理、その活用および公開の重要性を訴えた。
残念なことであるが日本は薬害大国であることに間違いない。サリドマイド、スモン、ヤコブ、エイズ、肝炎及びイレッサ等の事件が起こり、被害者の貴い健康や生命(尊厳)を犠牲にして小手先の薬事法が改正されてきた。
検証委員会の最終提言書には、2年間の委員会・研究班の協議内容と活動を基に、予防原則の考えに基づき、薬事行政を見守る第三者監視・評価組織の設立が明記され、厚生労働大臣もその設立に向けた決意を示されている。
本格的な少子高齢化を迎え、健康と生命を守ることに貢献すべき医薬品等の開発に国を挙げて取り組まれている今こそ、薬害という貴重な経験を踏まえた、安 全を第一義とする薬事法の改正をはじめとする、徹底した薬事行政のシステムや関係者の精神の改革が求められており、その引き金となった委員会の提言の実現 が欠かせない。

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VPD被害は不作為の被害と認識を~ワクチン・ギャップ解消に向けて
高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長)

我が国は「ワクチン後進国」と揶揄されるほど、ワクチン施策において他の先進諸国から立ち遅れている。この遅れを称して「ワクチン・ギャップ」と言われている。
ワクチン・ギャップの解消は喫緊の課題である。なぜならば、ワクチンで防げる疾病(VPD=Vaccine Preventable  Diseases)に罹患するという健康被害を生じ続けているからだ。とりわけ乳幼児期のVPD被害は深刻で、ヒブ感染や肺炎球菌感染による細菌性髄膜 炎、麻疹、ムンプス、水痘、B型肝炎、ロタ胃腸炎など、枚挙に暇が無い。また、不活化ポリオワクチンの導入の遅れによる2次感染被害も深刻だ。細菌性髄膜 炎は他の先進国では「過去の病」とされているし、麻疹は「日本は輸出国」と嘲笑される状況。生ポリオワクチンによるポリオの2次感染は、先進国にあっては ならない被害といえる。細菌性髄膜炎と麻疹、水痘の3つの疾病に限っても、毎年数十から100名近くの乳幼児が死亡していると推計され、VPDに罹患した ことによる後遺障害は数百名規模で生じていると推計されており、決して看過できる被害ではない。
ワクチンの積極的な利用により防げる健康被害を予防できていない現状は、過去に繰り返した薬害被害の構図と酷似する。官僚の無謬神話と司法による責任追 及からの防衛反応としての過失責任回避のため、過去の施策の正当化と保持に努め、能動的・積極的に直面する危険回避行動を選択しない。結果として、不作為 による被害の拡大は放置され続ける。
予防接種の恩恵は「疾患に罹患しないこと」であり、VPD被害を生じないことにある。疾病治療のように既に被害を生じている状態から被害を軽減しあるい は被害を取り除くのではなく、被害がゼロの健康な状態を保つことが目的となる。つまり予防接種がもたらす恩恵とは「変化をもたらさないこと」であり、一見 すると「当たり前」の状態を維持することといえる。この「一見すると当たり前」というのが曲者で、犬が人を噛んでもニュースにはならないが人が犬を噛めば ニュースとなるように、予防接種はその恩恵の大きさに反し、恩恵そのものがニュースとなることは殆ど無く、一方で、接種後に起きた変化、すなわち「接種後 有害事象」は、その原因が予防接種やワクチンに拠るものか否かを問わず、衆目を集めることとなる。
「任意接種のワクチンなんて受けなくてもいいんじゃないか。定期接種のワクチンだけで十分だよ」。これは、私が家内から息子に水痘ワクチンを接種するかど うか相談されたときの答えである。私も息子がヒブによる細菌性髄膜炎に罹患しなければ、予防接種の恩恵に気づくことが無かった一人かもしれない。VPD被 害にあって、初めてVPD被害の存在を知り、ワクチン接種という予防策の恩恵を実感した一人として、子どもたちの健康という一見すると「当たり前」の状態 が、実はVPDの脅威に晒されている危険な状態であること、「当たり前」の状態を維持するために、ワクチン接種の恩恵を子どもたちにもたらさなければなら ないことを、一人でも多くの方々に伝えなければならないと感じている。
予防接種の恩恵は目に見えず実感しがたい。だからこそ、その恩恵と、もたらされる「当たり前の健康」を脅かすVPD被害の実態を、私たち大人は社会とい うmassとして共有し意識し続けなければならない。そして、子どもたちをVPD被害から守るために何が必要なのかを自ら考え、行動しなければならないだ ろう。我が国のワクチン・ギャップは、不作為の被害者を生み続けている。そして、ワクチン行政における不作為を容認してきたのは、社会を構成するすべての 大人達の不作為に他ならない。これ以上、不作為を繰り返してはならない。これ以上、子どもたちをVPD被害に遭わせてはならない。多くの皆さんと共有した い気持ちである。

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日本の子どもをVPD(ワクチンで防げる病気)の被害から守るために ―ワクチンの安全性を知ろう―
薗部友良(日本赤十字社医療センター小児科顧問)

日本の医学は安い費用で、世界レベルを保っています。不治の病と言われた小児がんを見ると、現在は70-80%の子どもは治っているのです。しかし予防 接種(制度)だけが世界から大きく遅れ、現在でも多くの子どもがVPD(ワクチンで防げる病気)で、命と健康を損ねているのです。これほどもったいないも のはありません。これは日本の社会による、ネグレクトという虐待なのです。
この数年はマスコミや国民の関心が高まってきたことは、うれしいことです。現在厚労省予防接種部会で予防接種の改革にが色々検討されていますが、予算の面以外でも大きな困難が待ち受けており、予断は許さないのです。
今回、予防接種政策の遅れの原因になっている予防接種の副作用問題、逆の意味から言えば安全性について、現在の最新の科学的知見を紹介して行きます。ま ず、皆様は有害事象という言葉をご存じでしょうか。有害事象とは、接種や服薬後に見られた総ての”悪いこと”の総称です。この中にはワクチンや薬による真 の副作用と、偶然起こった別の原因によるニセの副作用(別名紛れ込み事故)の両者が含まれているのです。日本では有害事象の総てが真の副作用と誤解されて います。どうやってこの二つを区別したらよいか、世界での大規模調査の結果や日本での最新のデータまでお見せします。たとえば接種後に脳炎が起こると、そ れはワクチンのためと考えられてきましたが、そうでないという証拠もそろってきています。結論としまして、ワクチンには大変稀ですが真の重大な副作用が存 在しますが、メリットが大きくデメリット上回るから、世界中で、国によっては強制接種にしてまでも、推進してきたのです。ただし、有害事象の科学的判定と 救済制度は米国のように別に考える必要があります。また、日本の司法(裁判など)の弱者救済のためによかれとして行ってきたことなどの方針がいかに悪い影 響を与えて,最終的にVPDの被害が減らないのかなども知って頂き、どうしたら良いのか皆様と考えたいと思います。

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データベース公開がカギ
~共通する薬害問題とラグ問題(ワクチンラグ・ドラッグラグ・デバイスラグ)~
村重直子(医師、元厚生労働省大臣政策室政策官)

薬害を繰り返さないためにも、ラグを短縮するためにも、データベースの公開が不可欠ですが、日本では大量のデータが公開されていません。
欧米では数多くのデータベースが公開されていて、誰でも自由にダウンロードして解析できるため、医師、看護師、薬剤師などが書いた医学論文がたくさん発表されています。
例えば米国では、メディケアやメディケイドなどの患者の保険請求のデータベース、薬やワクチンの副作用を含む有害事象報告データベース、SEERという がん登録データベース、メディケアとSEERを連結したデータベースなど、数えきれないほどのデータベースが公開されています。
これらは、誰でもエクセルファイルなどでダウンロードでき、患者一人ひとりのID番号(普段は匿名化)を含めた個票レベルのデータを入手することができるため、数多くの論文が発表されています。諸外国の情報量は計り知れません。
日本でも、大量のデータベースを厚労省が持っています。レセプトデータベースが患者の保険請求のデータベースですし、がん登録データベースも存在しま す。医薬品やワクチンの副作用を含む有害事象報告のデータベースもあります。ところが、厚労省が加工したわずかなデータしか公表されず、複数データベース を連結できないので、多様な専門家の視点から独自の解析をするには限界があります。ほとんど誰も活用することができない状態なのです。これらの多くは、現 場の医療関係者の尽力によって厚労省へ報告されたものですが、厚労省は宝の持ち腐れにしてしまっています。
日本では公開されている情報量が圧倒的に少ないため、薬害の可能性を早期発見することができません。また、メーカーが薬を開発しようとしても、様々なリ スクを検討しながら開発計画を立てることが難しく、ラグの原因のひとつとなっています。薬害とラグの被害者は、厚労省の方針による共通の被害者なのです。

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