医療ガバナンス学会 (2023年3月29日 06:00)
京都大学医学部
斉藤良佳
2023年3月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
鹿児島は3回目。1,2回目は美味しいものと史跡を巡りつつ楽しく旅行していたが、その時から他の県とはなんとなく違う気がしていた。
今回は、その違いの根本を知りたいと、島津義秀さん・久崇さん親子が主催する鹿児島ツアーに参加させていただいた。
一日目の最初は、加治木神社にて野太刀自顕流という剣術の体験をさせていただいた。飾りや儀式ではない、実戦を意識した動作の数々である。老いも若きも、身分も関係なく懸命に声を上げ木刀を振るさまは、強く印象に残った。
次の西郷隆盛や大久保利通が訪れたという大慈寺では、お話を伺い坐禅を体験させていただいた。大慈寺のある志布志は中世からの港町で、中国・朝鮮との交易が盛んに行われていた。大慈寺も12000巻もの宋版の経を取り寄せていたそうだが、中国との繋がりを感じさせる。
その後、若潮酒造を見学させていただいた。屋外に並ぶ焼酎のタンクが圧巻で、工場のような印象を受けた。「焼酎は度数が高く雑菌も繁殖しづらいため、常温保存が可能」とのこと。非常に合理的だと感じた。
二日目は鹿児島の東・大隅半島へ。内之浦という港町にやってきた。JAXAの内之浦宇宙空間観測所は日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上がった場所であり、今も小型ロケットが打ち上がっているという。アンテナや発射台、どれもスケールが大きい。維持資金や、広い土地、輸送港がないとできない。改めて鹿児島の強さを感じた。
そして最後に訪れたのが島津氏に反抗した氏族・肝付氏の城である。「ここは自顕流発祥の地です」。敵のものでも良いものは取り入れる。なんと合理的だろうか。
今回の旅を通じて、「なんとなく違う」・強い鹿児島の根本にあると感じたのは、 (1)合理性・実戦を重視していたこと、 (2)外の情報を手に入れられたこと、 (3)自分たちでやらねばならないという主体性があったことではないだろうか。
(1)一つ目の合理性・実戦重視であるが、これは今回のツアーで何度も出てきたことである。自顕流では常に敵と相対することを考えるし、焼酎も機械工業のためのアルコールが起源で、大量備蓄が容易である。考えてみれば薩摩芋も作物として優秀だ。京都にも武道・茶道など「〜道」は多くあるが、儀礼的なものも多い。また日本酒も有名だが、戦に使うなどという話は聞いたことがない。
(2)また、大慈寺の住職によれば、「多くの地域は日本の中を見ていたが、日本の端である薩摩は日本の外を向いていた」という。志布志をはじめとした様々な港があり、国外からの情報収集により、新しいものに目を向けていたからこそ、幕末の近代化・軍事力の強化や現代の宇宙開発がある。宇宙で言えば、人工衛星により地球を俯瞰できるし、宇宙機は航空機に代わる超高速輸送手段としても注目される。鹿児島はこれらの最新の知見・経験を有していることになる。
(3)さらに、自分達でやらねばならないという主体性であるが、中央政府から離れた土地、というのは重要な点であると思う。港には海賊も現れる。中央からの応援は頼れず自分達で撃退しなければならない。特に江戸時代は、関ヶ原の戦いのいわば敗戦国として近隣の藩や幕府を警戒して、一層主体性が強くなったそうだ。
私の育った大阪は、全体の統治者がいたのはわずかな期間で、主に中央の権力者とうまく付き合ってきた歴史があるので、島津氏のような強いリーダーがいて彼らを尊敬する、という雰囲気は新鮮であった。今回大慈寺の方が時間をとってお話しくださったり、酒造の方が定休日にも関わらず案内してくださったりしたのも、島津さん達のおかげである。この場を借りて、このような意義深いツアーを企画・運営してくださった島津義秀さん・久崇さん、並びに今回の機会を与えてくださった上先生、鹿児島でご縁をいただいた全ての皆様に御礼申し上げます。