医療ガバナンス学会 (2023年4月11日 06:00)
この原稿は医療タイムス(2023年1月11日配信)からの転載です。
公益財団法⼈ときわ会常磐病院 乳腺外科医
尾崎 章彦
2023年4月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●クラスター発生を機にクチコミが増加
最近、わが常磐病院で大きな問題になっているのは、Googleクチコミでの悪評です。元々Googleでの常磐病院に関するクチコミはそれほど多かったわけではありません。ただ、昨年の記事で紹介した7月のクラスター発生を契機に、クチコミが著しく増加しました。
現在、Googleで常磐病院の名前を検索すると、低評価と辛辣なコメントが多く並んでいますが、私の考えでは、大まかには、過剰な混雑に関することと接遇の悪さをとがめるクチコミに2分されるととらえています。
施設のキャパシティーを超える多くの患者さんを病院として受け入れており、待ち時間などについては、多少やむを得ない面もあるかもしれせん。ただ、地域医療を支える医療機関として、1つひとつの指摘に真摯に向き合うことが重要だと考えています。
●自身の治療に対してのクチコミも
ところで本稿で、この案件を取り上げようと考えたのは、つい年末に、Googleクチコミで私も辛辣にたたかれたからです。
これまでは直接自分自身がたたかれたことがなかったため、どこか他人事のようにとらえていましたが、この件についてもっと真剣に向き合わなくてはならないと感じたわけです。
実際のクチコミでは、診療中の私を批判する言葉が並んでおり、自業自得ではありますが、読み進めるのは、精神的になかなか辛いものがありました。
ただ、その要点をまとめると、乳房の痛みがあり、いろいろ事前準備も行った上で私の外来を受診したものの、どこか小馬鹿にする態度で、不安に真剣に向き合っていないという内容でした。
心配しながら受診した患者さんに対して、このような思いをさせてしまったのは、単に私の不徳の致すところであり、反省するほかありません。
加えて、今回の件は氷山の一角ととらえたほうがよく、同様の思いをさせてしまった患者さんは、おそらくほかにもいることでしょう。
●「あしらう」診療が失敗の本質
以上を踏まえた上で、重要であるのは、同じ轍を踏まないことです。そのためには適切に問題を分析する必要があります。
まず、私の見立てでは、今回の事例は、「医学的には軽症」であり、そのため、どこか「あしらう」ように映る診療になってしまったのが失敗の本質だったと考えています。
乳房の痛みは、さまざまな調査で乳がんを疑うような症状ではなく、実際に私の経験上も、乳房の痛み単独で乳がんを指摘したことは多くありません。
そのため、さまざまな重症患者さんを診療する中で、箸休め的な対応になりがちです。
もちろん診察中、患者さんの表情を確認しながら、不安がないか確認するようにはしています。しかし、忙しいなど⾃分に余裕がない場合や、患者さんの不安を読み誤った場合には、このような失敗につながっていくのだと思います。
軽症の患者さんに対しては、自分がこういう対応になりがちであるという事実を認識し、改めて丁寧な診療を⼼がけていこうと考えています。
●「先生、チャンスですよ」
また、もう1ついえるのは、この患者さんは、高い期待を持って、私たちの医療機関を受診してくださっていたということです。その期待に私が応えることができず、今回おしかりを受けることになりました。
ある元製薬企業職員に今回のことを相談したところ、「先生、チャンスですよ」と告げられました。
彼によると、彼も製薬企業に在籍していたころ、医者によく怒られることがあったそうです。ただ、そのような医者に対して、その後真摯に向き合った場合、自分たちのファンになってくれることがよくあったとのことです。つまり、「怒りは期待の⾼さ」の裏返しということです。
そこで、彼の経験を今回のケースに当てはめるのであれば、次この患者さんがいらしてくださることがあれば、そのときに、期待に応えるいい診療をすることで、まだ挽回するチャンスがあるということです。
現在、この患者さんが具体的にどなただったか、カルテを振り返っているところです。なんとか次にいい診療をできればと考えていますし、より広く多くの患者さんに、今回の経験を還元していきたいと思います。