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Vol. 354 現場からの医療改革推進協議会第五回シンポジウム 抄録から(7)

医療ガバナンス学会 (2010年11月14日 14:00)


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医療供給体制

2010年11月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


日本版IHNの構築による医療サービスの効率化
亀田隆明(医療法人鉄蕉会理事長)

米国では、医療費が名目GDPを上回るスピードで増加し続けてきた。にもかかわらず、病院数と病床数は逆に減っている。この一見矛盾する現象を説明する キーワードは「機能分化」である。この「機能分化」を広域医療圏の中で重複を避けながら実践している事業体がIHN(統合ヘルスケアネットワーク)であ る。
日本においても、一定範囲の地域で網羅的かつ重複を避けつつ医療サービスを提供する事業体「日本型IHN」を仕組みとして構築することが、医療の効率化につながる。
医療施設間の連携の重要性は以前から強調されているが、過疎地域ではそもそも連携すべき医療機関が無いか、あるいは連携すべき病院が縮小、閉鎖されてし まうといった問題が起きており、これが医療崩壊につながっている。この事象を解決するには、その地域における基幹病院が中心となって周辺医療機関の経営を 統合すること、または、医療施設間の情報ネットワーク連携を構築することによって効率の良い医療提供体制を構築する必要がある。医療はあくまでも地域に密 着したもので、統合すべきは地理的に目が行き届く範囲で医療の質および経営管理がきめ細かくできることが条件である。
「日本型IHN」を進展させるためには、ITシステムの統合やデータ連携が重要であるが、効率的にITを活用する上でネックになる現実的な問題がある。 3つ挙げると、(1)患者IDナンバーの統一、(2)ITベンダー間の囲い込み(エゴ)、(3)患者情報のプライバシーリスク、などである。一患者一カル テに向けて、診療情報システムの共通フォーマットの整備とプライバシー保護のためのガイドライン作成など国策として推進していく必要がある。

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付加価値の高い医療への転換を
久住英二(ナビタスクリニック立川院長)

1日利用者数50万人のJR東日本立川駅エキナカで、平日夜9時までの診療を開始して、2年4ヶ月が経過した。2万3千人の新規ユーザーが来院した。内 科でのコアユーザーはサラリーマンであり、受診者の90%を20-49歳が占める。この年代は、転勤や引っ越しが多く、かかりつけ医を持ちにくいため、利 便性の高いクリニックが支持を得ているのだろう。医療に対する先入観は少なく、サービスに対して正当な対価を払う用意がある。
新規受診者全員が対象の無記名調査では、18時以降も通常の診療が受けられる利点は、貨幣価値で千円以上の価値があると79%が回答している。診療報酬 での時間外加算は500円であり、3割負担では150円の負担増に過ぎない。よって、受診者の8割は、850円以上の付加価値を感じている。医療は価値を 創造する業種ではないとされるが、日常的医療のレベルでも、価値創造が十分に可能である。ちなみに、当院では、受診者から感謝いただくことが多く、スタッ フの士気向上につながっている。
当院は、スタッフにとっても利便性が高い。まず、通勤が楽なこと。仕事帰りの買い出しにも便利であり、よって求人への応募が多い。そして、多様なライフ スタイルに合わせやすいこと。医師では、勤務医が午後のバイトをするにも、まとまった額になる。また、午前だけ外来をしてスキルを維持したい、ママさんド クターも働きやすい。ナースでは、6人が非常勤で、うち4人が子育て中である。人数が多いため、家族の急病による欠勤をカバーすることが可能だ。出勤して いるスタッフへの過剰な負担を避けられるため、医療安全も高まる。
受診者とのコミュニケーションには、対院外ではホームページ、メール、ツイッター等を利用している。ウェブを使いこなす受診者は、社会でのネットワーク においてハブの可能性が高く、情報提供先としては有用性が高い。対院内では、スタッフはインカムを装着し、迅速な情報共有を図っている。
当院は、医療者側がユーザーのニーズにきめ細かく対応し、その結果として受診者からも良いフィードバックが得られており、医療における良循環の一つのモデルケースであろう。

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医療における栄養管理の重要性と管理栄養士の役割
中村丁次(神奈川県立保健福祉大学教授、日本栄養士会会長)

人間は、生命を維持するために常にエネルギーと栄養素を補給し続けることが必要である。栄養補給の停止は、生命の停止を意味する。従って、適正な栄養補 給はどのような状態においても必要であるが、特に疾病時においては重要であり、医療の基本となる。しかし、人間は病気をすれば、食欲や味覚が低下して摂取 量が減少し、消化・吸収機能の低下や代謝亢進による必要量の増大により、多くの場合にやせ細り、入院患者の4-6割が低栄養状態にあることが報告されてい る。従来、病人がやせることは当然のように扱われてきたが、近年、hospital malnutritionやdisease related malnutrition と言われ、新たな栄養失調症として注目されている。このような低栄養状態を放置すると、薬物効果の低下、手術後経過の悪化、免疫力の低下、入院期間の延長 等が起こり、結局、QOLが低下し、医療費や介護費が増大することが明らかになってきたからである。
従来、医療において、管理栄養士、栄養士は、病院食を提供し、生活習慣病の食事療法を実践する専門職として位置づけられ、病院給食の管理と栄養食事指導 の業務を担う者と考えられてきた。薬物療法の発展により食事療法が軽視されるなかでは、管理栄養士の業務も注目されることは少なかった。従って、我が国の 病棟には、栄養の専門職が常駐しておらず、患者さん個々の栄養摂取量も、必要量も算定されず、栄養状態の評価も判定も行われていなかった。
しかし、患者さんの栄養状態の悪化そのものが重要な課題になることにより、栄養補給の方法は、食事による経口摂取のみならず、経腸栄養や静脈栄養などの 栄養補給技術が発展し、栄養状態の改善を目的とした総合的な栄養管理の必要性が叫ばれるようになった。平成18年に「入院栄養管理実施加算」、平成22年 に「栄養サーポートチーム加算」が始まった。しかし、管理栄養士の数が圧倒的に少ないために十分な対応ができていない。管理栄養士が行う栄養指導料も 30-60分実施しても1,300円、栄養管理実施加算も120円/日と低価であり、管理栄養士を雇うことも困難である。病棟業務を専従する管理栄養士の 数を増やせば、患者個々の栄養アセスメントが実施でき、必要栄養量の算定、栄養指導や栄養補給を含めた栄養ケアの計画、介入後の評価等を実施することがで きる。もちろん、食事や栄養補強に対する患者さんの要望にも即座に答えることができる。ところで、栄養の分野では以前からNSTに見られるようなチーム ワークによる栄養管理を目指し、そのためのエビデンスの積み重ねがある。チーム医療で重要なことは、それぞれの領域の専門職が尊重され、必要なメンバーが 揃い、連携による優れたチームプレイができることである。このことは強い野球チームを作るのと同じである。

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JR東日本が取組む子育て支援事業について
松澤一美(東日本旅客鉄道株式会社)

JR東日本は、駅から概ね5分のアクセスの良い立地を中心に認可保育園等保育園の開設を進めている。通勤途中に保育園があれば、子どもを預けやすく、帰 宅時に子どもと帰宅ができ、効率よく時間を生み出せる。利用者からの「ありがとう。ここがあったから仕事を続けられた。」という言葉に支えられ累計36ヵ 所となっている。
利用者目線に立ち、駅へのアクセスや、通勤と勤務時間に配慮した開所時間の提供、認可・準認可保育園の開設、子どもが長時間過ごすことを前提とした施設整備(園庭の確保等)を開発コンセプトとして、「子育て支援のワンストップサービス」を目指している。
近年、駅へ向かう通勤途中にあることから、父親と登園する子どもが頻繁に見られ、仕事と子育ての両立支援策として、地域社会における男性の育児参加の機 会にも繋がり新たな役割を担っている。こうした当初の想定を越えた利用者は、新しいビジネスの可能性を示している。駅や駅ビルなどの商業施設に保育園やク リニック、コミュニティの場を整備して鉄道利用者の利便性向上を図っていくことは、待機児童解消やワーク・ライフ・バランスの実現等社会的な意義を達成し つつ、「交通結節点」である駅に個々の利用者の「生活動線」を集約することになり、それは、鉄道会社だからできる”ライフ・サポート・ビジネス”の集積を 形成していくことになると考えている。

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医療と経済の循環システムへの挑戦一地域と医療・福祉がともに支え合う連携モデルの構築一
松田 学(大樹総研執行役員、元財務省官僚)

現在の多くの医療問題に根本的な解決の道を見出すために欠かせないのが、医療と経済の間に良循環を起こす仕組みの構築である。日本の医療システムは、少 なくとも二つの大きな問題、すなわち、マクロ面では医療システムそのものの持続可能性の問題、ミクロ面では現実の医療提供とエンドユーザーのニーズとの間 のミスマッチの問題を抱えているが、これらの解決もその例外ではない。
前者については、超高齢化社会の進展の中で医療の持続可能性を確保するためには、医療の世界に「価値」を組み立て、高齢世代がその大半を保有する日本の 個人資産ストックが、各々の価値選択を通じて医療に投じられるような財源システムを構築する以外に道はない。この点については、昨年の第4回の本協議会 で、「三層構造の医療財源システム」を提案した。これは、いわば「凍結」状態にある日本の個人資産ストックを、「健康」を含めた21世紀型の新たな価値創 出へと、いかにフロー化できるかという、日本経済最大の課題解決と表裏一体の関係にある。そこに、世界初の超高齢化社会を迎える日本の新たなストーリーを 構築することで初めて、日本は次の経済成長のチャンスをつかむことができる。
今回は、こうした点にも触れながら、特に後者のミクロ面の問題を取り上げる。その解決に向けて、地域が医療と福祉の連携を支え、それが地域そのものを再 生するモデルの構築を提案したい。具体的事例として、横浜市の某商店街で事業化を進めている「医療ニューディール」モデル構想を紹介する。日常の健康増進 や見守りから、開業医・病院・在宅医療の三位一体、段階ごとに提供される介護システムなどの機能が、いずれもシームレスにつながり、住民であるユーザーに 健康や安心といった価値を提供し保証する。そのようなシステムとしてまちを組み立て、超高齢化社会の拠点として地域を活性化する。そこには、「まち」が経 済的にも元気であることに高齢者支援が成り立ち、高齢者が元気で活動的であることによって「まち」が元気になるという良循環が成立する。
すでに、医療圏の議論にもみられるように、医療を地域全体で支える方向が打ち出され、そこにおける「機能分化と統合」も唱えられているが、上記のような 理想型が現実化するにはまだほど遠い状況にある。ブレークスルーのためには、有為な事業者たちが地域の現場レベルから事実を積み上げていく形でチャレンジ を実際に進めていくことが、最も有効なのかもしれない。エンドユーザーに対する価値提供システムとして日本の社会システム全体の再設計が求められている今 日において、地域医療が出し得る答や、それを阻害するネックは何かを議論する材料を提起したいと考える。
最後に、こうした医療ニューディールの実践に不可欠なファイナンスの問題についても、最近の新たな動きに言及したい。

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