医療ガバナンス学会 (2023年5月19日 06:00)
この原稿はWeb医療タイムス(2023年4月19日)からの転載です。
医療ガバナンス研究所
上昌広
2023年5月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
コロナパンデミックで、医療はどう変わるのか。私が注目するのは、オンライン診療の普及だ。特に小児科は相性がよさそうだ。
2023年1月、米スタンフォード大学の医師たちは、12~18歳の診療の43%がオンラインだったと「家庭医学会誌」に報告している。
この傾向は、私が勤務するナビタスクリニックでも顕著だった。川崎院の場合、20年にオンライン診療を利用した人の63%は小児科患者だった。
オンライン診療の普及は、小児医療の進歩を加速させた。その象徴が、3月16日に米国・コロラド大学の医師らが米「ニューイングランド医学誌(NEJM)」に発表した臨床研究だ。
彼らは、「クローズドループコントロールシステム」を用いて、小児の1型糖尿病の血糖管理を改善したと報告した。
この研究は、2〜6歳児を対象として、コロナ禍の21年4月〜22年1月にかけて実施した。「クローズドループコントロールシステム」の取り扱いは、81%の患者がオンラインでトレーニングされた。
このようなことが可能になったのは、コロナ禍でオンライン診療の社会インフラが整備されたからだ。
昨年9月以降、NEJMが、1型糖尿病に対する「クローズドループコントロールシステム」関連の論文を掲載するのは4回目だ。編集部は、オンライン診療の普及による医療提供体制のプロセス・イノベーションに注目しているのが分かる。
●診療と問診がデジタルデータとして蓄積
オンライン診療の影響は、これだけではない。診療での問診や診察の記録はデジタルデータとして蓄積される。これは宝の山だ。NEJMは、最近、マイクロソフト社と連携して、「NEJM AI」というオンライン媒体を立ち上げると発表した。
マイクロソフトは21年4月、AIを用いた音声認識ソフトなどを開発するニュアンス・コミュニケーションズを買収し、同社は今年3月21日に、Chat-GPTの最新版であるGPT-4を用いた新バージョンを発表した。
患者と医師とのやりとりが自動的に蓄積され、AIを用いて解析される。その成果が学術論文として、NEJM AIで発表される。われわれも、この流れに乗らなければならない。
●小児科不足を補う駅ナカクリニック
ただ、小児科医療はオンライン診療だけでは完結しない。ナビタスクリニックの場合、小児科のオンライン診療利用者のほとんどが対面診療も利用している。
わが国の問題は、小児科のクリニックが不足していることだ。特に都市部で著しい。「病院なび」を用いて、港区で開業している小児科クニックを調べると、小児科専業は3軒しかない。固定費が高い都心部では、小児科専業ではやっていかれないのだろう。
どうすればいいのか。私は、ナビタスクリニックのような駅ナカのコンビニクリニックが参考になると考えている。その特徴は、生活動線上に存在するため、患者・医師双方にとって便利なことだ。
川崎院の場合、コロナ前の19年には1日平均374人が受診。このうち114人が小児科だ。高橋謙造医師(小児科)は「電車を使って、近隣の駅から受診される人がいます。その中には、仕事が終わった後に、託児所に預けていた子どもを連れて来る人もいます」という。受診者の約1割が鉄道を利用して、10キロ以上離れたところから受診している。
遠方からやってくるのは、「夜9時まで診療しているから」(保護者)だ。ナビタスクリニックが遅くまで営業できるのは、利便性がよいため、非常勤医師を確保しやすいためだ。高橋医師も本職は帝京大学大学院教授で、自宅は松戸だ。川崎駅から松戸駅まで約50分だ。
●駅にクリニックを開設するという医療モデルを
ナビタスクリニックは、「ステーションルネッサンス」の一環として、08年6月に立川駅に開業したのが始まりだ。主導したのは、鎌田由美子・エキュート社長(当時)だ。
鎌田氏は、「利用者に優しい駅にしたい。そのためには、子どもと女性を診療するクリニックを設置したい」と繰り返し語った。詳述しないが、ナビタスクリニックは、JR東日本の方たちにさまざまな面で支援をいただいている。
私は、このモデルを普及させてはどうかと思う。鉄道会社も医療機関も公益組織だ。子どもたちのために、協力したらどうだろう。わが国の子育て支援に貢献するはずだ。