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Vol. 361 新型インフルエンザワクチン有害事象に関する学術誌上での議論

医療ガバナンス学会 (2010年11月23日 06:00)


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東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携部門
中田はる佳
2010年11月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.はじめに

2010年10月1日から、新型インフルエンザワクチンの接種が開始されている[1]。
私たちは、新型インフルエンザワクチン接種後の有害事象に関する論文を2010年6月1日にアメリカ感染症学会誌(CID; Clinical Infectious Diseases)上に発表した[2]。本論文に対して、アメリカ疾病対策予防センター(CDC; Centers for Disease Control and Prevention)からコメント[3]が同誌に投稿され、これに対する私たちのコメント[4]と合わせて2010年10月1日に掲載された。本稿で は、一連の議論についてご紹介する。

2.新型インフルエンザワクチン接種と接種後の死亡件数

2010年6月1日掲載の私たちの論文では、2010年1月7日までの厚生労働省の公開データを用いた。それによると、2009年10月19日に新型イ ンフルエンザワクチンの供給が開始され、2009年12月21日までに推計約150万回分のワクチンが接種されたという。
2010年1月7日時点で、新型インフルエンザワクチン接種後の死亡例107例が報告された。107例のうち98例(91.6%)が60歳以上であっ た。107例全てに基礎疾患があり、そのうち22例では基礎疾患の悪化が死因とされた。新型インフルエンザワクチン接種と死亡との因果関係について、因果 関係ありと判定されたケースはなく、因果関係なし34例、評価不能73例であった。そして、1日当たりの死亡例数は接種後24時間以内をピークに急速に減 少しており、64%の死亡例が接種後4日以内に含まれていた。
この結果は、新型インフルエンザワクチン接種と接種者の死亡との間に時間的関連性があることを示唆している。

3.CDCからのコメント

2010年10月1日掲載のCDCのコメントでは、一般的な自発報告の意義と限界について述べられていた。自発報告から有害事象の発生率や因果関係の有無を正確に評価することは難しいが、まれな有害事象を発見し、さらなる研究に導くという重要な役割がある。

4.私たちのコメント

CDCのコメントは自発報告に関する一般論について述べられていたが、わが国の新型インフルエンザワクチン接種後の有害事象報告は、実態として「自発」報告ではなかったため、そのコメントはあてはまらないということを論文報告した。
新型インフルエンザワクチン接種は、医療機関と国(厚生労働大臣)との「新型インフルエンザ予防接種業務委託契約」により行われた。医療機関が行う業務 は、必要量ワクチンの購入(契約書第3条1号)、優先接種対象者等であることの確認(同条2号)、優先接種対象者等に対するワクチンの接種(同条5号)な どのほか、厚生労働大臣に対する重篤な副反応の発生に係る情報の報告(同条11号)も含まれていた。本契約には、以下のように国が契約を解除することがで きる旨が定められていた。

(解除等)
第九条 甲は、次の各号のいずれかに該当するときは、催告なしにこの契約を解除することができる。
一 乙がこの契約に違反したとき
二 乙の委託業務の実施が不適当と甲が認めたとき
三 乙がこの契約を履行することができないと甲が認めたとき

※甲:厚生労働大臣、乙:医療機関

この規定から、本契約の解除について、厚生労働大臣の裁量の範囲が非常に広いことが読み取れる。医療機関は「契約に定められた重篤な副反応の発生に係る情報の報告」をしなければ、契約を解除される可能性があった。

この実態から、国家政策によって現場医療従事者の臨床判断に介入したことがワクチン接種直後の死亡例数の増加の一因になった可能性が考えられる。わずか なワクチンしか供給されず、ワクチンを無駄なく使わなければならなかったにも関わらず、10mlバイアルを開封後24時間以内に使い切れなければ残りを廃 棄しなければならないことや、ワクチン接種の順序を厳格に定めたことにより、個々の患者に合わせた臨床判断が阻害された可能性がある。ワクチン接種順位が あまりに厳しく非現実的だった時期と、ワクチン接種後の死亡例数が最も多かった時期が一致しているのである。このようなプレッシャーのある状況下では、ワ クチン接種機会を逃して新型インフルエンザに罹患するリスクよりも、基礎疾患があってもワクチンを接種することを選択したのかもしれない。
さらに、輸入ワクチンは臨床試験データに基づく通常の薬事承認プロセスを経たが、国産ワクチンは臨床試験データが不要だった。そのプロセスは十分に公開されていない。

5.おわりに

ワクチン接種に関する臨床判断に国が介入しないことが国民の命を救うかもしれない。今後わが国においては、緊急時に対応できるワクチン接種方式や薬事承認についての法整備を議論する必要がある。

【References】
1. 厚生労働省「新型インフルエンザワクチン接種事業(平成22年度)のお知らせ」

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_vaccine22.html

2. Nakada H, Narimatsu H, Tsubokura M, et al. Risk of fatal adverse events after H1N1 influenza vaccination. Clin Infect Dis. 2010 Jun 1;50(11):1548-9.
3. McNeil MM, Broder KR, Vellozzi C, DeStefano F. Risk of fatal adverse events after H1N1 influenza vaccine: limitations of passive surveillance data. Clin Infect Dis. 2010 Oct 1;51(7):871-2
4. Nakada H, Narimatsu H, Tsubokura M, et al. Reply to McNeil et al. Clin Infect Dis. 2010 Oct 1;51(7): 872-3.
5. Centers for Disease Control and Prevention. Safety of influenza A (H1N1) 2009 monovalent vaccines – United States, October 1-November 24, 2009. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009 Dec 11;58(48):1351-6.

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