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Vol. 371 (続)捏造報道の正当化・議論すり替えを図る朝日新聞(2010/12/06)

医療ガバナンス学会 (2010年12月8日 14:00)


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医療報道を考える臨床医の会 小松恒彦
2010年12月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


11月26日朝日新聞朝刊37面社会面に「東大医科研の抗議 本社が抗議回答書」と題する記事、さらには11月30日朝日新聞朝刊37面社会面に、「ワクチン臨床試験報道」と題する記事が掲載されました。
しかしながら以下に述べるように、これらの記事は、10月15日、16日の記事に寄せられた多数の抗議と事実誤認の指摘に対し、誠意ある回答になっていません。

私たちはここに再び抗議いたします。
また、当該記事の訂正と謝罪、朝日新聞社のガバナンス(組織統治)体制の再構築を求める署名募集を継続いたします。10月27日の署名開始以降、4週間 で20000名を超える皆様からのご署名をいただいております。署名は朝日新聞社の社長及び『報道と人権委員会』(社内第三者機関)に提出いたします。

【1】事実関係の誤りは、いつ訂正するのでしょうか

10月15日付記事で触れられたペプチドの開発者は、朝日新聞社から東大医科研にあてた回答書を見ても、明らかに中村祐輔教授ではありません。訂正しないのでしょうか。

【2】私たちの質問には答えていただけないのでしょうか

当会では11/12の声明で、朝日新聞記事の事実誤認、黙殺されている重要な事実について言及しましたが、11/26、11/30の記事で回答は行われていません。
以下、特に問題と考える箇所を再度列挙します。
また、回答を求めないとお返事いただけないようなので、今回は以下の質問(下線・太字で記しました)に対して、朝日新聞社に誠意ある回答を求めたいと思います。

1)
・医科研病院の消化管出血は、膵頭部癌進行による門脈圧亢進に伴う食道静脈瘤からの出血であり、がんペプチドワクチンとの関連はなく膵癌の進行によるもの と判断され、外部委員を含む治験審査委員会で審議され、問題なしと判断されていました。消化管出血がワクチン投与との因果関係が疑われる「副作用」である かのような誤解を読者に与えることに朝日新聞は執着しています。(11/12の我々の声明)

11/30の記事では、「出血が起きた患者は、評価が定まっていない、薬になりそうな候補物質の被験者です。有害事象が起きた時に『この病気ではありう る症状だから』で片づけてしまえば、被験者の安全を守ることも、候補物質の適正な安全性評価も難しくなりかねません。被験者保護の観点から、重要な事実と 考えています。」と記載していますが、患者さんが進行膵癌を有している、という大前提を無視しています。

●『膵頭部癌進行による門脈圧亢進に伴う食道静脈瘤からの出血』は、ワクチン投与との因果関係が疑われる『副作用』ですか?

2)
・消化器癌進行に伴う消化管出血は医学的常識であり、臨床研究を行う臨床医の間で周知であり、臨床試験実施の如何に関わらず、患者さん・ご家族にも説明さ れていること。進行した消化器癌に伴う、既知の合併症として通常説明される事象を、朝日新聞が「臨床試験のリスク」の「説明義務」ありと誤認していま す。(11/12の我々の声明)

●『末期の消化器癌進行に伴う消化管出血』は、『臨床試験のリスク』の『説明義務』ありとお考えですか?

3)
・2008年2月に、他のがんペプチドワクチンを用いた臨床試験を実施している和歌山県立医大山上教授により、がんペプチドワクチン投与後の消化管出血が 報告され、がんペプチドワクチンの臨床試験を行う臨床医の間で、情報が共有されていたこと(この消化管出血も、ワクチン投与とは関連なしとされましたが、 念のために発表されたとのことです)。(11/12の我々の声明)

●がんペプチドワクチンの臨床試験を行う臨床医が全員参加する研究会、(Captivation Network)で、消化管出血の情報が共有されていま した」が、それでも医科研病院は他施設(Captivation Network)に、『末期の消化器癌進行に伴う消化管出血』を伝えるべきだったと、お 考えですか?

4)
・医科研病院の消化管出血は、2008年2月から遅れること8ヶ月、2008年10月であったこと。(11/12の我々の声明)

●Captivation Networkの消化管出血の情報共有の8ヶ月後に、医科研病院の末期の消化器癌進行に伴う消化管出血は生じましたが、それでも医科研病院は他施設 (Captivation Network)に、『末期の消化器癌進行に伴う消化管出血』を伝えるべきだったと、お考えですか?

5)
・「患者出血なぜ知らせぬ 協力の病院、困惑」とされた関係者が存在しないこと。他機関関係者を全て含む研究団体であるCaptivation  Networkの臨床医団体から、「『関係者』とされる人物は存在し得ない」との公式抗議が出され、記事捏造の可能性が高いこと。我々臨床医の視点から も、このコメントは非常に不自然、あり得ない内容であり、朝日新聞記者の捏造であると考えます。(11/12の我々の声明)

Captivation Networkから、「『なぜ知らせぬ』と語った『関係者』とされる人物は存在し得ない」との公式抗議が出されています。これに対して11/30の記事で は、『複数の施設の関係者に対面取材しております。取材源の秘匿の原則から、詳細は説明できませんが、記事中の発言を臨床試験施設の関係者がしたことは、 揺らぐことのない事実です。』と返答しています。

●臨床医グループ関係者が名前を公表して抗議しているにもかかわらず、取材源秘匿という形でのごまかしは許されません。また、仮に、万が一こう語った関係 者が存在したとすると、このコメントは、専門家の総意(コンセンサス)、臨床医の常識からかけ離れており、その専門性と見識を疑わざるを得ません。『関係 者』とは、本当に臨床試験を実施している医師でしょうか? その存在を証明してください。

11/30の記事では、『(捏造の)指摘は全く事実無根で、朝日新聞社の名誉を傷つけるものです。』とあります。しかし、自身の10/15、10/16 の事実誤認に基づいた記事で、ナチス・ドイツの人体実験まで持ち出し、対象者の名誉を傷つけた自覚はないのでしょうか。11/30の記事の『今回の問題と ナチの人体実験を同列に論じたものでは全くありません』という記載に、自覚と反省は全く認められません。
朝日新聞記者行動基準には、「報道にかかわる一切の記録・報告に、虚偽や捏造、誇張があってはならない」「表現には品位と節度を重んじる。」とされています。

●論説記事の見出しを撤回するつもりはありませんか?

6)
・そもそも、医科研病院と和歌山県立医大他施設のがんペプチドは全く別物であり、臨床研究としても全く別であることから、医科研病院と和歌山県立医大他施 設は、共同研究者ではないこと(この点は、恣意的な解釈のもとに共同研究者と翻訳する以外にないことを記事中で認めています)。(当会注:米国政府の臨床 試験登録公開サイト、clinicaltrials.govによれば医科研病院の臨床試験はNCT00683085。一方和歌山県立医大の臨床試験は NCT00622622。用いたペプチドは医科研病院がVEGFR1-A02-770、和歌山県立医大がVEGFR2-169と、全く別になります。) (11/12の我々の声明)

11/30の記事では『被験者保護の原則に照らして、ペプチドを他施設に提供している医科研が、「重篤な有害事象」の発生を、同種のペプチドを使って臨床試験をしている他施設に伝えていないことは、医の倫理上、問題があると判断しました。』としています。

●貴社は、いつから臨床試験を管理し『医の倫理上、問題があると判断する』立場になられたのでしょうか?

7)
・記事ではペプチドを複数組み合わせたり、抗がん剤と併用すると副作用がわからなくなるとしていますが、2009年9月に出された米国食品医薬品局 (FDA)のがん治療用ワクチンガイダンスには、複数ペプチドの併用、抗癌剤との併用についての記載があること。(11/12の我々の声明)

●米国食品医薬品局(FDA)のがん治療用ワクチンガイダンスについて取材した上で、一連の記事を掲載されていますか?

8)
・記事ではがんの「ワクチン治療」はまだ確立しておらず、研究段階だとしていますが、米国食品医薬品局(FDA)は2010年5月に前立腺がんワクチン、Provengeを既に承認していること。
以上、がんワクチンに関しては世界標準から逸脱した記事内容となっていること。(11/12の我々の声明)

●世界標準のがんワクチンの情報について、取材を行っておられますか?

9)
・東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンター長、中村祐輔教授ならびにオンコセラピー・サイエンス社は、無関係であるにもかかわらず記事に記載したこと。臨 床試験のあり方、被験者保護を論じるために、何故本臨床試験と関係ない、2者を持ち出されたのか。(11/12の我々の声明)

朝日新聞の回答書には特許公報に触れた部分がありますが、特許公報には発明者が明記されており、中村教授が発明者でないことは何より貴社が最もよくご存 じのはずです。また、11/30の記事では、中村祐輔教授がペプチドワクチン「開発者」と判断した理由について、講演・著書の恣意的引用を延々と記載して いますが、科学的な根拠に基づいた理由はありません。米国政府の臨床試験登録公開サイト、clinicaltrials.govにおいて、医科研病院の臨 床試験NCT00683085、及び用いたペプチドVEGFR1-A02-770について、中村祐輔教授、オンコセラピー・サイエンス社の名前を見つける ことはできません。
さらには、中村教授は臨床医ではなく、臨床研究の遂行に関与する立場にも、有害事象の情報の扱いに関与する立場でもありませんでした。

●臨床試験のあり方、被験者保護を論じるために、何故本臨床試験の実施・遂行には関与していない、中村祐輔教授、オンコセラピー・サイエンス社2者をあえて持ち出される必要があったのでしょうか?

10)
最後に、もう二つだけ質問です。

●倫理的にも、科学的にも、ルール上も、他の施設に報告すべき必要のない、医科研病院患者さんの消化管出血を、新聞1面・社会面・社説に持ち出した意図は何ですか?

●臨床試験の問題点、被験者保護を論じるのに、倫理的にも、科学的にも、ルール上も、他の施設に報告する必要のない、医科研病院患者さんの消化管出血を、記事にした意図は何ですか?

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