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vol 15 「米国南カリフォルニア大学留学体験記その7」

医療ガバナンス学会 (2006年8月10日 22:10)


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2006年8月10日発行
~米国南カリフォルニア大学留学体験記その7~
南カリフォルニア大学に学んで
(米国におけるメディア・キャンペーン並びに情報源の事例)
別府文隆
南カリフォルニア大学(USC)
医学部附属健康増進・疾病予防学際研究所(IPR)客員研究員
ならびにHollywood, Health & Societyリサーチインターン

 

○はじめに
日本は猛暑だと聞いています。読者の皆様のご健康と少しでも涼が得られることを祈念しております。米国も記録的な熱波に襲われ、特に東部の一部では停電も含めひどいことになっていたようですが、LAは現在比較的落ち着いています。本原稿がLA近郊海沿いのさわやかな風をお届けできるようなエッセイでなくて恐縮ですが、今回から計4回は医療健康関連のメディア・キャンペーンに関するウェブ・リソース等を中心にご紹介します。

○メディア・キャンペーンやそれに伴う情報源の特性
メディア・キャンペーンは日本国内でも豊富に行われていますし、世界各国珍しいことではありませんが、多民族国家におけるキャンペーン構築のノウハウの蓄積(集積性の高さ)やウェブ上で誰にでも手に入る情報源という形になっている(公開性の高さ)という点では、米国が突出していると思います。英国・豪州も比較的充実しています。その他欧州や他のアジア諸国にも注目すべきものは多々あるのですが、まだ自分自身が整理し切れていないので英語圏の事例を中心にご紹介します。

メディア・キャンペーンの目的や実施背景は様々ですが、それに伴ったウェブリソース(インターネット上の情報源)はその目的・特性より2つに大別することが出来ると考えます。①専門家・関係者支援のウェブと、②直接市民にアプローチするためのウェブの2つです(②をより効果的に広く浅く実現するためにテレビやラジオなど各メディアを活用します)。本原稿では①を、次回原稿で②を紹介します。

○日本において
日本における例は具体的には第10回の原稿で整理しますが、現時点での印象としては②が少ないように感じています。①はあるにはあるのですが、キャンペーンをデザインする側の専門家・関係者でも使い勝手がいいとは言えないものもあります。エビデンスに基づいて専門家が国民の健康度を上げる上で「より望ましい」と考える知識・生活習慣・行動を確固とした信念の下「普及させるのだ」、という姿勢で実践的で実務に足る情報源を構築することが重要だと感じます。

つまり、これまで述べてきたようにソーシャル・マーケティングやメディア・アドボカシー等の考え方を活用し、情報を普及させる上でキーパーソンとなるのは誰なのか、キャンペーン・デザインのノウハウが日本のように医療・健康の専門家側に無い場合どういった支援が必要なのか、といったことについて担当官庁や情報を持っている専門家側が考えることが重要です。
○事例紹介
まず今回は上述した①専門家・関係者支援のウェブを今回みてきます。その特性上①はトピック横断的な情報源、②は各トピックに対応したものになっています(筆者の恣意的な分類なので重複はありますが)。

①専門家・関係者支援

The Communication Initiativeのサイト

http://www.comminit.com/index.html

ヘルスコミュニケーションやメディア・キャンペーンのポータルサイトとして有名です。The Communication Initiativeは情報量が多すぎて最初わけがわかりませんが、右フレームを上から順に見ていくと構成団体それぞれの活動や得意技が見えてぼんやりと全体像がわかってきます。研究者や学生をはじめ、行政関係者やキャンペーン・デザインに関わる人全てにとって非常に充実した情報源といえます。構成団体はWHO世界保健機構をはじめとして英国の放送局BBC、Johns Hopkins大学公衆衛生学部、フォード財団、USAID米国国際開発局など多様な24団体ほどです。
米国疾病管理予防センター(CDC)関連

・CDCynergyのサイト
これも非常に充実したCDC内の情報源です。Health Marketingという大項目の中にResources & Toolsという項目があります。

http://www.cdc.gov/healthmarketing/resources.htm#capmaign

そこからCDCynergyのページにいくことができます。

http://www.cdc.gov/healthmarketing/cdcynergy/index.htm

CDCynergyという医療健康関連キャンペーン構築支援ソフトウェアがあるのですが、次々回の記事で詳細に内容を紹介したいと思っています。最新版のCDCynergy3.0はPhase1(Describe Problem)、Phase2(Analyze Problem)、Phase3(Plan Intervention)、Phase4(Develop Intervention) 、Phase5(Plan Evaluation)、Phase6(Implement Plan)まであって、ソフトウェアの指示や流れに従って順に作業をやっていけば、メディア・キャンペーンや地域介入プログラムの設計・実施・評価についてある程度の知識を得て、作業が出来るように配慮されています。という仕組みになっています。
こちらはCDCynergyに非常に似たフォーマットやコンセプトのEmergency Risk Communicationに関するウェブ・リソースです。

http://www.orau.gov/cdcynergy/erc/#

CDCynergy3.0の入手方法はこちら

http://www.cdc.gov/healthmarketing/cdcynergy/

・”Facing The Media”
こちらはCDCynergy に関連する”Facing The Media”というコーナー。メディア対応・メディアとの関係構築についてのビデオが誰でも無料で試聴できます。

http://www.orau.gov/cdcynergy/erc/Face%20The%20Media%20Course%20Materials/default.htm

・Media Campaign Resource Center(MCRC)のデータベースサイト

http://apps.nccd.cdc.gov/MCRC/

同じくCDC内のMCRCが管理する禁煙キャンペーンに関するデータベースです。筆者が問い合わせたところ、政府関係者・禁煙普及活動を行っている大学・研究機関・NPOなどの関係者のみ登録可能との連絡を受けました。そういった条件に合致すれば日本からでもアカウント登録および利用は可能とのことです(2005年にCDCの担当者に直接確認しました)。メディアタイプやテーマ毎にキャンペーン素材が検索・閲覧できるようです。
米国がん研究所(NCI)関連
Theory at a Glance: A Guide for Health Promotion Practice
PDFになっています(誰でも無料でダウンロード可)。

http://www.cancer.gov/aboutnci/oc/theory-at-a-glance/allpages

ヘルスプロモーションやヘルスコミュニケーションに 関する諸理論(認知科学・行動科学由来で健康保健行動科学に応用されている諸理論)が整理されています。全体を概観したい人には非常に有用です。米国がん研究所(NCI)は非常に豊富なヘルスコミュニケーション・リソースをもっています。長年の取り組みと情報提供・公開へのノウハウの蓄積が伺えます。特にここは理論をわかりやすくかつ十分な情報量で整理してあるので便利です。
無料でダウンロード可能、という点では翻訳したい書籍で紹介した通称Pink Bookも同様の無料ウェブ・リソースですね。教科書でありガイドでありマニュアルであると言えると思います。

http://www.cancer.gov/PDF/41f04dd8-495a-4444-a258-1334b1d864f7/Pink_Book.pdf

Health Communication Partnership (HCP)によるキャンペーンデザイン・評価のガイドライン
“How to Mobilize Communities for Health and Social Change” のウェブ版です。

http://www.hcpartnership.org/Publications/Field_Guides/Mobilize/pdf/index.php

HCPは以下の5組織で構成している団体です。
Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health/Center for Communication Programs.

http://www.jhuccp.org/

ジョンズホプキンス大の公衆衛生大学院にあるコミュニケーションプログラムセンターです。
ヘルスコミュニケーション業界では大御所の1つですね。以下は残りの4団体です。
Academy for Educational Development.

http://www.aed.org/

Save the Children.

http://www.savethechildren.org/

The International HIV/AIDS Alliance.

http://www.aidsalliance.org/sw1280.asp

Tulane University’s School of Public Health and Tropical Medicine.

http://www.sph.tulane.edu/

メディア側の情報について
以下はメディア企業や業界団体のPRやマーケティング・リソースでもありますが、研究者や行政担当者や教師にとっては同時に「メディアをどう活用すれば良いか」、という情報や示唆を与えてくれる情報源となっています。そういった利用者が活用しやすいように随所に配慮や工夫がされているのがわかります。

PSA:Public Service Advertisement:公共広告に関するリソース
Goodwill Communicationsがスポンサーの
Public Service Advertising Research Center.

http://www.psaresearch.com/

ポスターのサンプルギャラリーやテレビ・ラジオなど各種メディアの統計や関連団体リンク集などがあります。 ケースレポートが載っていて、PSAを行う側の人に参考になる情報を中心にしている感じです。

米国広告協議会のウェブサイト

http://www.adcouncil.org/

PSA(Public Service Announcement:公共広告)に関するアーカイブがあります。
大抵のメディア素材が閲覧できます。Social Changeのために貢献する、と明言している点が
印象的です。

Media Buying
media buying の専門企業もたくさんあるようで、サイトの内容など見ると、日本の広告代理店さんとはまた少し趣が異なるように感じます(内部事情は同じかもしれませんが)。
Political Campaign Media Buying(Koeppel Direct)

http://www.koeppeldirect.com/political-campaign-media-buying.htm

media representation firm
米国最大で最古のmedia representation firm(日本語ではなんと訳すのか知らないのですが)であるKatz Media Groupのウェブサイトです。参考情報が載っています。

http://www.katz-media.com/

Radio Advertising
このサイトはラジオのキャンペーン効果についてQ&Aで紹介しています。メディアの内情や詳細についてわからない者にとっては有用です。

http://www.entrepreneur.com/Your_Business/YB_Node/0,4507,465—–,00.html

財団の存在感
キャンペーンを成立させているdonor(出資者・支援者)としての財団の存在感は非常に大きいです。お金の流れとノウハウ(evidence-based)の蓄積の関連は、これだけで調査・考察に足る重要な部分です(論文が書けそうです)。ここではヘルスコミュニケーション関連でメジャーな2財団を紹介しておきます。

Robert Wood Johnson Foundation

http://www.rwjf.org/

ここが1996年から総額150億円(!)をかけて展開したChanging the American Way of Deathという社会事業(終了済み)があるのですが、その中のLast ActsというキャンペーンにおいてThe Last Acts Writers Projectというシンポジウムが開かれ(映像作品で「死」をどう描くか、というテーマの研究普及事業:終了済み)、人気ドラマER、Scrubs、 CSIなどのドラマ・プロデューサー達が「登場人物の死をどう描くか」、「『死』について世間の認知を変える為にドラマに何が出来るか」等について語り合いました。関連記事はこちら。

http://www.rwjf.org/files/publications/books/2003/chapter_04.html

Kaiser Family Foundation

http://www.kff.org/

この連載中でも紹介したEntertainment Educationに関する情報が載っています。

http://www.kff.org/entmedia/loader.cfm?url=/commonspot/security/getfile.cfm&PageID=34381

○ まとめに代えて
知識や情報や行動の普及のために、専門家・行政担当者・教師などの影響力を持った人たちに注意を促すような、教材や資料として普及にそのまま活用できるような、そんなコンテンツになっていることにお気づきだと思います。情報普及のハブとなる多様な領域の専門家達をいかに支援するか、という点に関して政府機関・大学・企業・財団など至る所にノウハウが浸透していることを感じます。翻って日本のリソースはどうでしょうか。第10回で見てきたいと思います。あと2回は米国の事例を中心にお付き合いください。
次回以降の予定です。
第8回 ②直接市民にアプローチするためのウェブ/情報源について
弟9回 医療健康キャンペーン設計支援ソフトウェアCDCynergy3.0の詳細紹介
弟10回 日本のメディア・キャンペーンとウェブ・リソースについて

少し長いシリーズになりますが、お付き合いの程よろしくお願い申し上げます。

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