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vol 16 「異種臓器移植は可能なのか」

医療ガバナンス学会 (2006年8月21日 04:02)


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2006年8月20日発行
山田和彦
Kazuhiko Yamada, M.D., PhD.
Associate Professor of Surgery, Harvard Medical School,
Head, Organ Transplantation Tolerance and Xenotransplantation Laboratory,
Transplantation Biology Research Center, Massachusetts General Hospital
MGH-East; 13th Street, CNY-149, 9019, Charlestown, MA 02129
Transplantation Biology Research Center
Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School
Email: kaz.yamada「あっと」tbrc.mgh.harvard.edu
(「あっと」を @ に変えてください)

 

I.はじめに

移植医療の成績向上に伴い、移植用臓器の不足は世界各国共通の問題となっている。日本でも1997年10月に「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が施行され、脳死患者からの臓器移植が始まった。しかし、2006年4月現在、脳死下での臓器提供は45例に留まり、毎年多くの移植待機患者が移植を受けることなく亡くなっている。近年、末期臓器不全に対して人工臓器による置換や再生医工学を用いたアプローチが試みられているが、現在のところ臓器移植に代わる治療法として臨床応用に定着するまでには至っていない。そこで、ドナー不足を解決する最も有効な手段のひとつとして、異種移植(Xenotransplantation)が注目されており、実用化に向けて研究が進められている。我々の施設(Transplantation Biology Research Center, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Director David H. Sachs)では、異種移植の臨床応用を目指した研究を行っている。本稿では、α-1, 3-galactosyltransferase(GalT)ノックアウトブタの誕生までの試みと、筆者の研究室(Organ Transplantation Tolerance and Xenotransplantation Laboratory, Head Kazuhiko Yamada, M.D., PhD.)が中心として進めている、GalTノックアウトブタを用いたブタ・ヒヒ間異種移植の知見を踏まえ、今後の課題および異種移植の臨床応用への可能性について解説する。

 

II.臨床異種移植におけるドナーとしてのブタの意義

異種移植の歴史は古く、1682年にロシアの貴族が頭蓋骨を損傷した際に、イヌの頭蓋骨を使用して治療したのが始まりといわれている。腎移植の最初の臨床例は、1906年にフランスで行われており、ブタの腎臓と女性患者の肘との血管吻合が試みられたが、血栓のため腎臓は機能しなかった1。1960年代に入り、アザチオプリンやステロイドなどの免疫抑制剤の使用によるヒト同種腎移植の成功が背景となり、再度、異種移植への関心が高まった。1963年にはアメリカで、ヒヒやチンパンジーといったnon-human primateの腎臓を用い、ヒトへの異種移植が試みられた。この時期に行われた異種移植によって、霊長類(primate)間の異種移植であれば超急性拒絶反応が起こりにくく、月単位で腎臓が生着することが明らかになった。しかし、(1)ドナーとしてnon-human primateを用いる場合の問題点(次段落参照)、(2)その後欧米ではCadaverからの臓器移植が開始されたこと、更に(3)血液透析また血漿交換技術の進歩も伴い、ヒトへの異種移植は行われなくなった。ところが、この20年間の免疫抑制剤と移植技術の進歩に伴い、臨床同種移植が医療としての定着したため、提供臓器不足は深刻な問題となった。そのドナー臓器としての供給問題がほぼ解決されると思われる、ブタをドナーとしたnon-human primateへの前臨床異種移植実験が再び注目を浴びている。

異種移植はconcordantとdiscordantに大別されるが、ブタからnon-human primateやヒトへの移植はdiscordant異種移植である。両者の違いは自然抗体の有無により区別され、discordant異種移植では移植直後に超急性拒絶反応が起こる。免疫学的観点からは、concordant間異種移植のハードルはdiscordant間異種移植に比べて超急性拒絶反応が起こらない分だけ低い。しかし、ドナーとしてnon-human primateを用いる場合、その供給数が限られること、ヒトに対して危険なウイルスに感染している可能性が高いこと、また倫理的な問題などにより、現実の治療法としての確立は困難と考えられている。一方、discordant間異種移植では、これらconcordant間で挙げられる問題点は克服可能と考えられる。特に臓器の大きさ、解剖学的類似点、繁殖の容易さ、遺伝子操作の可能性、そして倫理面において、ブタが臨床異種移植でのドナーとして最適であると考えられている。

 

III.超急性拒絶反応のメカニズム

1990年代初めには、discordant異種移植後に出現する超急性拒絶反応の原因として、galactose-α1,3-galactose (Gal) 抗原がヒトのxenoreactive抗原であることが同定された3。ブタに限らず、ヒトおよびnon-human primate以外のほとんど全ての哺乳類は、細胞表面にGal抗原を発現している。一方、ヒトおよび大部分のnon-human primateはこのGal抗原を発現しておらず、自然抗体としてGal抗原に対する抗体(抗Gal抗体)を持っている。ブタの臓器をprimateに移植した場合、まずprimateの血清中に存在する抗Gal抗体がブタの血管内皮細胞表面のGal抗原に結合する。引き続き補体が活性化され、数分から数時間で超急性拒絶反応が起こり移植臓器は廃絶される4, 5。ヒトおよび一部のnon-human primate にはGal抗原以外のエピトープに対する抗non-Gal抗体も存在するが6、異種移植での超急性拒絶反応を引き起こす主要な抗体は抗Gal抗体であると考えられている。
IV.超急性拒絶反応を克服するための試み

ブタからヒトへの異種移植を成功させるためには、この抗Gal抗体による移植臓器への攻撃をいかに克服するかが重要である。この超急性拒絶反応を回避する手段として、自然抗体の除去、補体活性化の抑制、標的抗原であるGal抗原の除去が積極的に試みられてきた。
1.自然抗体の除去

自然抗体を除去する方法として、自然抗体吸着カラムを用いて吸着する方法7、レシピエントの血液をブタ臓器に環流し自然抗体をブタ臓器に吸着させる方法がある8。ABO血液型抗原の決定基は、Gal抗原と同様に糖鎖抗原である。臨床でのABO不適合腎移植では、術前に抗A、抗B抗体の吸着を行い、以後ABO適合間腎移植の場合とほぼ同様の免疫抑制療法で、良好な移植腎生着率が得られている9, 10。
このことから、ブタ・ヒヒまたはサル間での異種移植の際、Gal抗原に対してもABO不適合間と同様の成功が得られることを期待し、欧米では血漿交換法11、また我々の施設では抗Gal抗体吸着カラムを用いて、移植前に抗Gal抗体を一過性に除去することを試みた。これらの手法により異種移植前に血中抗Gal抗体はほぼ完全に除去され、超急性拒絶反応は回避された。しかし、ABO不適合腎移植の場合とは異なり、移植後に強力な免疫抑制剤を用いても、新たに産生された抗Gal抗体により、移植後1~2週間で移植臓器は拒絶された12, 13。

2.補体活性化の抑制

補体を抑制する方法としては、C3bアナログによりC3を枯渇させることで補体活性抑制作用を発揮するcobra venom factor (CVF)14 や、C3bおよびC4bに結合することで補体活性化を抑制するsoluble complement receptor type1 (sCR1) 15などの補体制御抑制蛋白の投与が試みられている。さらに、membrane cofactor protein (MCP)16、CD5917、human decay accelerating factor (h-DAF)18といったヒトの補体制御蛋白遺伝子を導入し、ブタの血管内皮細胞にこれらの蛋白を発現させたトランスジェニックブタが作製された。種特異的な作用によりブタの補体制御因子は、non-human primate もしくはヒトの補体活性を抑制できない。しかし、h-DAFトランスジェニックブタの臓器をnon-human primateに移植すると、移植臓器に反応した抗Gal抗体による補体の活性化を抑制できる18。我々の施設でも、このh-DAFトランスジェニックブタの腎臓をヒヒに移植する実験を行った。全例で超急性拒絶反応は回避されたが、胸腺と共に腎臓を移植し、T細胞免疫寛容を誘導する筆者の確立した戦略を用いても、Gal抗原に対する液性拒絶反応により、全ての移植腎は30日以内に拒絶された19。また、他施設ではh-DAFトランスジェニックブタ・ヒヒ間異種腎移植で、1例のみ血清クレアチニンが高値ながらも75日間生着という報告がある。しかし、この症例も早期に尿管が拒絶され、75日目には移植腎は完全に機能が廃絶した20。

自然抗体を除去し補体活性化を抑制しても、わずかに残存した、もしくは除去後に産生された抗Gal IgG抗体が、異種移植片細胞上に発現しているGal抗原と結合することにより、顆粒球、マクロファージ、単核球、そしてNK細胞による直接細胞障害が生じる。この細胞障害メカニズムのひとつとして、抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC : antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)が挙げられるが、補体による細胞障害と比較すると若干弱いと考えられている。しかし、超急性拒絶反応を回避した後に、このADCCが原因となって遅延型、慢性拒絶反応が起こってくる可能性もある。

これまでに行われた大動物の実験結果では、抗Gal抗体の制御や、補体活性化の抑制を行っても異種移植、特に実質臓器(腎、心、肝、肺)移植の成績は満足のいくレベルに達していない。このことから、Gal抗原を完全に除去することが、臨床への異種実質臓器移植には不可欠であると考えられた。

3.Gal抗原の除去

これまで我々の施設を含め、他施設においてもGal抗原に対する抗原抗体反応を抑制する手段として、様々な方法が試みられてきた。α-Gal epitopeを分解するEndo-beta-galactosidase Cを用いてGal抗原構造を破壊する方法21、alpha-1,2-fucosyltransferaseの糖鎖遺伝子を過剰発現させることで酵素拮抗阻害により糖鎖末端でのガラクトース付加を抑制し、Gal抗原の発現を抑制する方法22, 23などが試みられたが、いずれもGal抗原の発現を完全には抑制できていない。1996年にはGalT遺伝子をノックアウトしたマウスが作製され、マウスではGal抗原のノックアウトが可能であることが報告された24, 25。しかし、通常の遺伝子ノックアウト法では、ブタのES細胞が確立されていないため、ノックアウトブタの作製は困難と考えられていた。しかし、クローン技術の進歩により体細胞核移植法が確立されたことで26、GalTノックアウトブタ作製は加速度的に進んだ。そして遂に2002年11月、我々の共同研究施設であるImmerge BioTherapeutics27とPPL Therapeutics28の両施設から、世界初のホモGalTノックアウトブタの誕生が報告された。

 

V.GalT ノックアウトブタを用いた異種移植実験

2003年2月、我々の施設で世界初のホモGalTノックアウトブタからヒヒへの異種移植実験が行われた。現在はUniversity of Pittsburgh Medical Centerに移ったD. K. C. Cooperのグループが異所性心移植、そして筆者の研究室が免疫寛容導入の手法を用いた同所性腎移植を担当した。異所性心移植実験では、GalTノックアウトブタの心臓がヒヒの腹部に移植された。ほとんどの症例は細胞性または液性拒絶により、移植後50-70日ほどで拒絶されたが、最長例で179日間の生着を記録した29。この最長例は、これまでの異種間異所性(非機能性)心移植の報告において、最も長い生着日数である。しかし、維持期の拒絶反応をどのように克服するか、また臨床応用の視点からは、同所性に移植された異種心臓(生命維持機能臓器)がレシピエントの生命をどの程度の期間維持し得るかを検討しなければならない。

筆者は、1995年にブタ・ヒト間異種T細胞性免疫は、少なくとも同種間のそれに匹敵することを明らかにした30, 31。更にこの異種間T細胞反応を克服するための戦略の一つとして、ドナーとレシピエントの血管吻合術を用いるドナー胸腺直接移植法(thymokidney32-34およびvascularized thymic lobe35, 36)を開発した。この手法を用いたブタ同種移植にて、移植臓器の免疫寛容導入に成功している。この同種移植での免疫寛容誘導の成功から、筆者の研究室では2003年よりGalTノックアウトブタを用いブタ・ヒヒ間胸腺・腎併用移植を行っている。この戦略によりまず第一報として、複数例において移植後2ヶ月以上にわたり正常な血清クレアチニン値を維持し得たことを報告した 37。その内の最長例となったレシピエントヒヒを、内頚動脈に挿入されていた採血用カテーテルの血栓合併症により83日目に失ったが、その間、血清クレアチニン値は安定しており、移植腎は組織学的にもほぼ正常な所見を呈していた。本症例はブタからヒヒへ移植された異種腎臓(機能性異種実質臓器)における世界最長臓器生着日数となっている37。GalTノックアウトブタ腎臓を用いて移植を行った全例で超急性拒絶反応は回避され、また胸腺併用移植の症例では異種細胞性拒絶反応も見られていない。しかし同様の免疫抑制剤投与下で、胸腺移植を併用しない異種腎移植群では、細胞性拒絶反応とその後に続く液性拒絶反応(T細胞依存性液性拒絶反応)により、移植腎はすべて34日以内に拒絶されている。

これらのGalTノックアウトブタ臓器を用いた第一報において、異種移植の最大のハードルとされてきた超急性拒絶反応は全例回避し得たことを報告した。しかし、それのみでは遅延性・血管性異種間拒絶反応、特にT細胞依存性液性拒絶反応は、免疫抑制剤のみでは克服しきれなかったことを示している29, 37。このことから我々は、異種移植の臨床応用に向け、免疫寛容の戦略を更に推し進めている。また、現在世界の数施設において、このGalTノックアウトブタに補体制御蛋白遺伝子などを導入する戦略によって、新たな異種ドナーブタの開発が進められている。

 

VI. 異種移植は臨床応用可能か?

1.異種移植の利点

移植用臓器の不足を解決する手段となる可能性以外にも、同種移植と比較した際に異種移植の利点がいくつか考えられる。

(1)異種移植ではドナーの操作が可能という大きな利点がある。治療計画をもとに阻血時間を最小限に抑えることができ、先述の免疫寛容の導入に対しても積極的戦略を用いることが可能である。さらに、遺伝子治療が必要なレシピエントに対しては、ブタ臓器にその対象となる遺伝子を発現させることにより、臓器移植により遺伝子導入も可能となる38, 39。

(2)将来的に異種移植により臓器不足の問題が解決されたとしたら、移植臓器の機能不全により再移植が必要になった場合にも、異種臓器の供給は容易である。

(3)移植臓器が容易に入手可能となれば、レシピエントの選択基準もさらに拡大されることになる。つまり、今まで同種移植の選択基準から除外されていた患者にも、移植を受ける機会が訪れる可能性が出てくるということである。

(4)ヒトに重篤な感染症を起こす肝炎ウイルスやヒト免疫不全ウイルス、さらにヒトのサイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルスは、ブタには感染しないとされている40, 41。また、サイトメガロウイルスなどの外在性ウイルスに対しては、スクリーニングを早期に行い、ウイルス陽性のブタを隔離することで対
処可能である42。最も問題となるのは、ブタの遺伝子の中に組み込まれた内在性レトロウイルス(porcine endogenous retrovirus : PERV)であり、in vitroでの培養細胞レベルの実験では、ヒトへの感染の可能性が指摘されている43。しかし、ブタではこれまで3種類のPERV(A, B, C)が見出されており、PERV-Cに感染したブタをドナーから除外することで対処可能と考えられている44。実際に、我々が用いているGalTノックアウトブタは、in vitroでヒト細胞への感染性がない系を選択し飼育することで対処している。さらに、過去にブタ組織を用いた治療(一時的な皮膚移植、脾臓、肝臓の体外での使用)を受けた160人の患者の追跡調査では、PERVへの感染は1例も認められていない45。

ブタからのPERVに代表される内在性ウイルス感染の危険性を考慮したとしても、同種移植で問題となる悪性腫瘍の伝播や、ヒトからヒトへのウイルス感染の可能性を最小限に抑えられる。特に、時間的制限があるCadaverからの移植臓器提供と違い、ヒトへの感染の可能性のある病原体を持つブタを、移植臓器ドナーから事前に除外することが可能である。

 

2.どの臓器がどの患者に最初に臨床応用されるか?

パーキンソン病患者へのブタ胎児神経細胞移植46、糖尿病患者へのブタ膵島細胞移植47などの細胞移植は既に臨床で試みられている。しかし、ブタ実質臓器のヒトへの移植を考える際、どの臓器移植が最初の試みとなるかは議論の尽きないところである。ここでは、これまでブタ・ヒヒ(またはサル)間異種移植実験で評価に値する結果が得られている腎臓と心臓、更に本年に入り特筆すべき報告が見られた膵島に特に焦点をあてて論じる。

(1)心、肝移植の対象となる患者は、移植以外に生命維持療法がない末期臓器不全状態にある。そのため、例えば急速に進行する心不全や劇症肝不全の患者に、同種移植までの“bridge”として異種移植が行われる可能性がある。異種心移植の臨床応用導入に関して、2000年に発表された国際心肺移植学会の指針48では、最低10例のブタからnon-human primateへの同所性移植で3ヶ月生存率60%、さらに6ヶ月以上の生存の確認が必要とされている。この基準をクリアするには、先に紹介した異所性心移植(移植心を腹部大血管に移植する非機能性心移植)でなく、同所性異種心移植の結果が必須であり、もう少し時間が必要である。異種肝移植に関しては、ブタとヒトおよびnon-human primateとの間には免疫学的ハードル以外に、肝臓で産生される凝固因子や補体の種特異性といった生理学的なハー
ドルが改善されなければいけない49。

(2)では、腎臓はどうであろうか?末期腎不全患者は、移植の他に透析という代替維持療法が存在する。しかし、Quality of Lifeの面から、また患者の死亡率においても透析患者に比べ同種腎移植患者のそれが優れている。しかし、何らかの理由で多くのHLA抗原に対して感作された高抗HLA抗体陽性の患者は、移植に適する同種ドナーが現れる可能性は著しく低い。我々は、GalTノックアウト細胞を用いた実験から、これらの患者血清によるブタ細胞傷害反応は対照群(Normal Volunteers)と同様である結果を得ている(B. Wang, K. Yamada, etal., in press)。このことは、ブタ腎臓がこれらの患者群に移植の機会を提供し得ることを示唆している。最近、抗HLA抗体陽性間での生体腎移植の成功が報告されているが50、生体間ドナー、抗体量の問題など限られた症例が対象であり、多くの患者群に移植の機会を与えるには異種腎移植が選択手段に挙げられる。

(3)”臨床応用においてどの臓器がはじめに選択されるか”という問いに対して、移植によってのみ助けられる心臓であるという意見がある。しかしその場合、患者は重篤な状態が想定され、異種移植の術後管理の経験が乏しい第一例としては成功の可能性に疑問が生じる。腎移植の場合、患者の状態はそれに比較して数段良好であり、術後導入期を乗り越える体力は十分あると考えられる。また、腎移植の特徴として、不幸にも異種移植腎が機能不全に陥っても透析再導入により生命を維持することが可能である。特に、免疫寛容の誘導という利点が加わることで、異種腎移植が異種実質臓器移植の臨床応用の第一例となると我々は考えている。

本稿は実質臓器を中心として異種移植を解説したため膵島移植についてはこれまで触れていない。同種膵島移植では、Dr. Shapiroらにより報告されたEdmonton Protocol51を発表する以前はインスリンFreeとなる率が11%ほどで、他の臨床移植と比べその成功率は大きく劣っていが、Edmonton Protocolにより臨床同種移植の成績が格段に上がり、膵島移植の移植医療として定着しつつある。しかし、最近の長期間経過観察の成績により52、1レシピエントに対し2-3のドナー膵臓が必要である症例が多く、他の臓器と同様、おそらくそれ以上に臓器不足が絶対的な問題となっている。このことから、膵島においては再生医療と並び異種移植の成功が望まれていた。膵島移植は細胞移植であり、実質臓器移植に比べ非侵襲的である。また、ブタ膵島にはGal抗原の発現が低い事がその優位点として報告されていたが、昨年までの報告では、ブタ・サル間異種膵島移植の成績は高血糖を補正するに至るに至らなかった。しかし、本年(2006年)に入り、異種膵島移植で注目すべき好成績を示した論文が2編報告がされた。ミネソタ大学のDr. HeringのGroupはadult pig 53から、またEmory大のDr. LarsenのGroupはneonatal porcine islets 54を用いて、Sterptozotocin誘発糖尿病サルにおいて、ブタ膵島移植後3-6ヶ月正常血糖を呈した事を示した。特筆すべき点は、両Groupsとも、GalT-KOブタを用いずに遺伝子改変操作を受けていないWild Typeのブタをドナーとしたサルへの異種膵島移植において、長期生着の可能性を示した事である。今回、Dr. HeringそしてDr. LarsenのGroupsは我々も異種腎・心移植で用いた抗CD154抗体とEdmonton Protocolそして、最近開発された免疫抑制剤を組み合わせたことがその成果に結びつていると考えられる。彼らの成果は、異種膵島移植への大きなステップである。膵島移植が異種移植臨床応用に一番近い位置にあるという考えを持った移植研究者・臨床医が多いのではないだろうか。膵島移植により、患者はインシュリン投与と高血糖による合併症からは開放される。しかし反面、現時点では移植された異種膵島機能を維持するためには強力な免疫抑制剤の継続投与が必要であり、その免疫抑制剤による合併症を引き起こす可能性が生じる。この観点から我々は、膵島移植における患者のメリットを最大限にするには、短期免疫抑制療法が必要と考え、異種膵島移植においても免疫寛
容を誘導する研究に取り組んでいる。

 

VII.結語

異種移植の成功は、世界的な移植臓器不足の問題の解決につながる確実、かつ実現可能な方法のひとつとなると我々の施設は考え、その臨床応用を目指し研究を推し進めている。GalTノックアウトブタの誕生は、異種移植の臨床応用への大きな進歩であり、ブタ・ヒト異種移植の最大のハードルとされてきた超急性拒絶反応の克服を可能とした。我々の施設で行われた世界初のGalTノックアウトブタ・ヒヒ間同所腎移植では、すでに80日以上、腎機能が安定した異種移植臓器の生着を得ている。今後、さらに免疫寛容導入を確実なものとし、免疫抑制療法を改善することで、より長期間の移植臓器の生着が可能と考えている。解決すべき様々な課題が残されているが、ブタの臓器をヒトに移植する治療法が臨床応用される日が近づいていることは確かである。

 

VIII. 報告事項

本年7月第4週にBostonで国際移植学会とアメリカ移植学会のJoint CongressであるWTC2006が開催される。その中で筆者とDr. Sykesが企画したSatelliteSymposiumが7月22日に開かれる(注:本稿は2006年5月16日に受理しました。編集者)。筆者は、そのシンポジウムをADVANCES IN XENOTRANSPLANTATION:IS GALT-KO PIG ESSENTIAL TO CLINICAL SUCCESS?と題し、この分野でこの2年間Top Journalに論文報告した移植研究者・臨床医を招き、異種移植においてGalTノックアウトブタが臨床異種移植に必須であるか、そして臨床応用を現実化するには更にどの戦略が必要かを論じる予定である。そのシンポジウムのプログラムはWTC2006のwebからdownload可能である。本稿の読者の中からも参加者があることを望みたいものであるが、開催地がBostonであることから移植関係者に限られるであろう。シンポジウムの内容をメールマガジンの読者に提供する機会がまた得られれば幸いである。

 

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著者ご略歴

1986 :日本医科大学卒業
1986-1996: 日本医科大学泌尿器科(研修医-医員-助手)
1994-1997: ハーバード大学外科マサチューセッツ総合病院、Transplantation
Biology Research Center研究生
1998-2000: ハーバード大学外科 Instructor
2000-2002: ハーバード大学外科 Assistant Professor
2002-2003 (March): 国立循環器病センター再生医療部部長
2003 (April)-2004 (March): Director Organ Transplantation Tolerance, Large Animal Transplantation Section, Transplantation Biology Research Center,ハーバード大学外科マサチューセッツ総合病院
2004 (April)- present: ハーバード大学外科 Associate Professor (准教授). Head, Organ Transplantation Tolerance and Xenotransplantation Lab.,Transplantation Biology Research Center, Massachusetts General Hospital.

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