医療ガバナンス学会 (2023年8月18日 06:00)
Tansaリポーター
中川七海
2023年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
国連の「ビジネスと人権」作業部会の調査団が7月下旬に来日し、大阪・摂津の住民や科学者らへのヒアリングを実施した。今日8月4日には日本記者クラブで記者会見を開き、こう指摘した。
「汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したい」
今回の調査結果は、2024年6月の国連人権委員会で報告される予定だ。
●国連部会・議長「PFAS問題は重要」
ダイキンは1960年代後半に、大阪・摂津市にある工場で、PFASの一種であるPFOAの製造・使用をスタートさせた。以来、敷地外に大量のPFOAを放出してきた。2021年にPFOAの製造・輸入が法律で禁じられた後も、すでに放出され蓄積したPFOAによって、工場周辺の地下水、河川、用水路の水、土壌、農作物が汚染されており、近隣住民の血液からも高濃度のPFOAが検出されている。
しかしダイキンは、汚染が広がる工場周辺の浄化や、被害を与えた住民に対する補償を一切行っていない。
来日した調査団は、国連の「ビジネスと人権」作業部会の議長であるダミロラ・オラウーイ(Damilola Olawuyi)氏と、アジア太平洋地域メンバーであるピチャモン・イェオパントン(Pichamon Yeophantong)氏だ。PFAS汚染、ジャニー喜多川氏による性暴力、性的マイノリティへの差別など日本での人権侵害の状況を調査するため、7月24日から日本に滞在していた。
摂津住民へのヒアリングは、7月29日に大阪市内で行われた。「ビジネスと人権」分野に関わるNGOスタッフや大学教授、科学者らも加わり、参加者は約40人に上った。
摂津住民の代表者は5分ほどのスピーチで、ダイキンによるPFOA汚染の実態や、政府や行政の対応の酷さを訴えた。
「大阪府も国も、摂津市のPFOA汚染の主たる原因がダイキン工業の淀川製作所であるとの見解を示しています。ところがダイキンは、PFOAの使用は認めつつ、自身が汚染源であることを認めず、汚染された地域のPFOA除去も拒んでいます。また、『PFOAに起因する健康被害は認識していない』とまで言い、地域住民の健康調査にも後ろ向きです」
議長のオラウーイ氏は「PFAS問題は重要だと認識しています。解決のために何が必要だと思いますか」と問うた。
摂津住民の一人が代表して答えた。
「現在は、水の基準しかないが、土や食物、人の健康に関する基準や調査が必要です。企業などPFAS排出者に対して責任を取らせることは大事だと思います」
住民らは、ダイキンが米国で引き起こしたPFOA汚染についても説明した。摂津の汚染よりも低い値にもかかわらず、2018年にダイキンの米国法人が、原告の住民らに400万ドルを支払い和解している。日本では責任を取らないのはあまりに理不尽だという思いが、摂津の住民たちにはあった。
●ダイキンからは返答なく
今日の記者会見は午後3時、東京・日比谷にある日本記者クラブで開かれた。
調査を担当したオラウーイ氏とイェオパントン氏が登壇した。PFAS汚染被害に苦しむ地域住民の声を反映して報告した。
「不安を感じるステークホルダーは、地方自治体も政府も、水道水中のこれら永遠に残る化学物質の存在について、十分な対策を講じていないとして、水と土壌のサンプリング調査や健康に対する権利への影響に関するモニタリングを求めています」
「私たちとしては、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したいと思います」
ダイキンは国連からの指摘をどう捉え、どう対応するのか。Tansaはダイキンに尋ねたが、2023年8月4日22時現在、ダイキンからの返答はない。回答が届き次第、報じる。
※この記事の内容は、2023年8月4日時点のものです。
【Tansaについて】
Tokyo Investigative Newsroom Tansaは、探査報道を専門とする報道機関です。当局発表を右から左に流す「記者クラブ報道」とは違い、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。広告収入を受け取らず、独立した立場を守ります。誰もが探査報道にアクセスできるよう、購読料もとりません。NPO法人として運営し、寄付や助成金などで成り立っています。
●公式ウェブサイト:https://tansajp.org/
●シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/
●取材費を寄付する:https://syncable.biz/campaign/2070