医療ガバナンス学会 (2023年10月6日 06:00)
Tansa リポーター
中川七海
2023年10月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ところが共同通信の幹部からなる審査委員は、石川に対して自分たちの氏名も役職も明かさなかった。規定に照らせば、総務局長の江頭建彦が委員長を務め、千葉支局長の正村一朗や法務知財室長の石亀昌郎らが委員のメンバーだ。
「覆面審査委員会」は、石川への攻勢に出る。
●共同通信への抗議を求めた人物とは
12月6日に千葉支局長の正村から石川に送られたメールでは、審査委員会側から2点の回答要求があった。
一つは、審査委員会で意見を表明する意思の有無について。
「規定では、当事者は委員会で意見を述べ、または文書で報告することができると書かれているのですが、石川君はどうしますか? 意見を述べるか、文書で報告する意思がある場合は希望日時を含めて教えてください。意思がない場合はその旨、お知らせください」
もう一つは、取材メモと録音の提供について。
「取材メモや録音テープの提出を会社からお願いしたのに対し、提出しない旨、連絡していただいていますが、審査委員会は石川君に改めて提出を求めています。提出する意思はありませんでしょうか? 」
このような回答要求をしてくる審査委員会に対して、どう対処するか。石川は頭を悩ませた。
意見なら、11月14日と24日の計3時間超にわたる聴取で述べた。だが同じことを何度言っても、会社側は理解しようとしない。警察が自白を強要し、冤罪を招く取り調べに似ている。この状況で審査委員会に意見を述べて、審査の際の検討材料にするとは思えない。「意見は聞いた」というアリバイづくりにされるだけではないか。
取材メモと録音については、再三にわたり固辞してきた。本の出版元は文藝春秋だ。共同通信は第三者である。何より報道以外の目的で取材メモと録音を使用することは、倫理的に認められない。
審査委員会の面々は記者経験者である。自分たちの石川への回答要求がいかに荒唐無稽か、よく分かっているはずだ。
それでもこのような要求をしてくる目的として、考えられるのはただ一つ。石川に責めを負わし、加盟社である長崎新聞の怒りを鎮めることだ。
この共同通信の思惑を裏付ける証拠がある。石川の主張など関係なく、共同通信がすでに長崎新聞に謝罪していた件だ。11月24日の2回目の聴取の前に、共同通信の福岡支社長・谷口誠が、長崎新聞に謝罪に行っていたのだ。
石川が情報を得た共同通信の関係者によると、長崎新聞の編集局長・山田貴己が猛抗議していた。社長の徳永英彦はそんなに怒ってないが、編集局の一部の勢力が突き上げているということも聞いた。
Tansaの取材で、「一部の勢力」の中心は、堂下康一であることがわかっている。福浦勇斗(はやと)が自殺した件で、長崎県を庇う記事を書いた、あの記者だ。
堂下には、共同通信に抗議するよう長崎新聞社内で主張したことへの見解を問う質問状を、本人のメールに送っている。だが、2023年6月2日午後9時現在、回答はない。
●育児休暇中の社員に共同通信は
審査委員会からの回答要求への対応を石川が考えていると、千葉支局長の正村からまたメールが来た。
12月8日昼12時26分、タイトルには「重要な連絡です」とある。
「6日にメールで質問した件ですが、本日午後5時までに返答がない場合は、審査委員会に意見を述べたり、文書で報告したりする意思はないと見なします。取材メモや録音テープの提出にも応じないと見なします。別の対応を検討しているのであれば、本日午後5時までに連絡してください」
正村は、12月8日の午後5時までに返答がなければ、「審査委員会に対して意見を述べる意思がないと見なす」と記している。だが、石川がこのメールを受信したのは8日の昼12時26分だ。ただでさえ短い回答期限だが、石川は育児休暇中である。生後9カ月の子どもを自宅で看ながら4時間半の間に回答するなど不可能だ。
12月8日午後4時19分、石川は正村にメールで返信し、「一方的に決められるのは承服できません」と抗議。その上で、長崎新聞と共同通信がどのようなやりとりを行ってきたかなどを、審査委員会からまずは示すよう申し入れた。審査委員会への対応の判断材料とするためだ。
審査委員会側も検討する時間が必要だと石川は考え、回答期限は1週間後の12月15日正午とした。
しかし、審査委員会は石川に対して4時間後に回答してきた。
12月8日午後8時23分、長崎新聞と共同通信とのやりとりなどについて、「審査委員会の議論の過程に関することはお答えできません」と一蹴。改めて、審査委員会での意見表明と、取材メモ・録音の提出をどうするかの回答を石川に求めた。
回答期限は、12月9日午後5時。すでに24時間を切っていた。
=つづく
(敬称略)
※この記事の内容は、2023年6月2日時点のものです。
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