医療ガバナンス学会 (2023年10月13日 06:00)
この原稿はweb医療タイムス(10月4日)からの転載です。
福島県立医科大学 放射線健康管理学講座 研究員
趙 天辰
2023年10月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
近年、YouTube、Instagram、TikTokなど、さまざまなSNSが若者を中心に急速にシェアを拡大している。企業による広告費も、以前はテレビ・インターネットを中心としていたが、現在はSNS広告も欠かせないマーケットとなっている。
特に医療および学術分野では、伝えたい情報をいち早く一般の人たちにも届けるために、SNSの拡散機能は非常に有効な手段であると考えている。
私が所属する大学の主任教授である坪倉正治先生も、学術的な情報を一般の人たちにも知ってもらうため、主に1分間以内の通称「ショート動画」を中心とするSNSの更新を約1年間試みてきた。
もちろん、目的が学術情報の発信だったとしても、その話題に関するものだけを投稿しても誰も見ることはない。視聴者はあくまでも一般人で、学業の合間、もしくは仕事の終わりなど、自分が疲れているときに「癒やし」を求めて視聴するのである。
つまり、面白くてくだらないコンテンツや、食事や料理などの日々の生活に密接するもの、動物や趣味に関わる内容の動画などが多く視聴されるのである。
●処理水放出の動画が「バズった」
坪倉先生は日々の生活や食事、健康に関する疑問を医師として解決するといったコンテンツを中心として投稿してきたが、先日の福島第一原子力発電所の処理水放出に関しても動画を作っていた。これはまさにわれわれが伝えたい本当の内容であった。
このような動画を処理水放出前のタイミングに合わせて投稿した結果、見事にTikTokで30万以上の再生を得ることができ、「バズった」のである。
幸いなことに、通常の時事ネタはいつどのタイミングで起こるか分からないのに対し、今回の処理水問題は必ず起こるし、日にちまで決まっていたことだ。そのため、それに合わせて動画を作ることができたので、比較的バズりやすい内容だったことは間違いない。
●心ないコメントは恐れるに足らず
このようなセンシティブな話題を投稿する場合、必ず視聴者の中でも賛否両論が起こる。つまり、言い換えれば「炎上」だ。TikTokアカウント名「つぼ先生」を調べてみれば分かるように、よく見られている動画は600以上ものコメントが残されている。
内容としては、「よく分かった」、「処理水放出はデータから安全だ」といった賛成意見がある一方、「処理水海洋放出反対」、「国はデータを隠蔽している」という反対意見も多く存在する。
中には、「こいつは国からの回し者だ」、「お金をもらって発信している」といったものや、中国人からのアンチコメントも見受けられた。
しかし、このような心ないコメントは恐れないでいただきたい。視聴数を増やすためには、実はこのような「アンチ」は非常にありがたい存在なのである。TikTokのアルゴリズムを解説すると、無数ある動画でどの動画をお勧めに出すかは、視聴された時間や、いいね・コメント数などでAIが判断している。
反対派の意見を残した人に、多くの場合賛成派が反論する。逆も同じである。このように、コメントで「けんか」していれば、必然と他の人にもお勧め動画として出てきやすくなり、結果多くの人に情報を届けられるのである。
●新しいコミュニケーションツールとしての可能性
また、視聴数を維持するためには、短いスパンで同じような内容を投稿し続ける必要があると考える。今回は放出2日前の8月22日から9月9日まで、約19日間で合わせて15本の動画を投稿した。
そのおかげで、すべての動画は1万以上再生、10万以上再生も5本あった。短期間で多くの動画を作る場合、コンテンツを思いつかないことが最大の困難ではあるが、今回は視聴者からいただいた質問に答えるような動画を作ることを意識した。
コミュニケーションは双方向であるため、コメントやフィードバックに対して積極的に応じることで、視聴者とのつながりを深め、長期的な関係を築くための土台を作ることができるのである。
TikTokをはじめとするSNSは、今後もその影響力を増していくことが確実である。医療業界もこの波に乗り遅れないよう、新しいコミュニケーションツールとしての可能性を最大限に活用することをぜひ考えてみてほしい。
※つぼ先生のアカウントはこちら
https://www.tiktok.com/@tsubo_sensei