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Vol.23181 母の報告「勇斗、マスコミにも味方になってくれる人がいたよ」(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第13回)

医療ガバナンス学会 (2023年10月16日 06:00)


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Tansa リポーター
中川七海

2023年10月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

福浦さおりに警察から電話があったのは、2017年4月21日朝9時半ごろだった。

息子の勇斗(はやと)が、昨日の朝に学校に送り出して以来、帰ってこない。心当たりを捜しても見つからず、警察も引き揚げた後の自宅で、さおりは一睡もできずに朝を迎えた。

「息子さんのものと似た服装の子どもが遺体で見つかりました」

さおりはその場で崩れ落ちた。

ほどなくして、警察官が自宅にやってきた。地元の大浦署に連れて行かれ、遺体が安置されている部屋に通された。遺体の顔には、白い布が被せられている。警察官が布をめくった。

息子の勇斗だった。

さおりは泣き崩れた。あとのことは、よく覚えていない。

夕方5時、夫の大助が大浦署に到着した。朝、警察から連絡を受けたさおりが、福岡県に単身赴任中の大助に連絡していた。大助は仕事を早退し、電車を乗り継いでようやく着いた。

横たわる勇斗と対面した。事故か何かに巻き込まれ、顔や身体が傷だらけだと思っていたが、そうではなかった。表情も、まるで眠っているかのように穏やかだった。

警察官が大助に言った。

「死亡推定時刻は、20日午後11時頃。首を吊って亡くなったと思われます」

この時初めて、自殺だと知った。勇斗の首には、ロープの跡が残っていた。

●「マスコミにかぎつかれないようにして」

その後、さおりと大助は、警察官から遺体発見時の状況を聞かされた。

勇斗が亡くなったのは、自宅から歩いて15分ほどの公園だった。住宅街の奥にある、袋小路になった場所だ。

公園の奥に進むと、高台につながる階段に差し掛かる。91段。上りきった広場に遊具はなく、雑草が生い茂り、木が数本あるのみ。勇斗は、その中の一番大きな木の枝にロープを巻きつけ、首を吊った。

勇斗は、ショルダーバッグを身につけたまま亡くなっていた。バッグの中には、勇斗の字で綴られた、A4のコピー用紙が入っていた。その一部を引用する。(原文ママ)

“第1発見者へ

もし見つけたら、けいさつ(警察)を呼ぶとき、もしできるならサイレンなしとかにして、マスコミにかぎつかれないようにして、周囲の人や家族に迷惑かけてたくないし、静かにしたいし、なかったことにできるだけしたいから。

<中略>

どこか誰ひとりぼくを見てない場所に行きたい”

●石川記者に託した録音

「マスコミにかぎつかれないようにしてほしい」という勇斗の気持ちを、さおりと大助は理解できた。マスコミは騒ぐ。プライバシーも関係なく被害者の自宅に押しかけるイメージで恐怖感さえあった。

ただ親としては、わが子と同じ思いを、これからは誰にも絶対させたくない。海星学園に再発防止への姿勢が感じられない中、マスコミにも頼った。西日本新聞など、助けになる報道をしてくれたところもあった。

だがやはり、どこか物足りなかった。信頼できないなと感じる場面がしばしばだった。担当の記者がころころ変わり、自分たちの顔を見るたび「裁判はしないんですか」、「訴訟が決まったらすぐに教えてください」と言ってくる。報道機関として海星学園を追及すればいいのに、裁判の報道という体裁をとって責任を回避したいのかと思った。

そこへ現れたのが、共同通信の記者・石川陽一だ。2019年5月、大助の携帯に電話がかかってきた。

大助とさおりは、他の記者への対応と同様、石川の取材に応じた。何度か取材を受け、2019年8月、共同通信から石川が書いた特集記事が出た。

しかし、共同通信から配信した石川の記事を使用した加盟社は2紙だけ。反響もなかった。

石川が他の記者と違ったのは、「このままでは、遺族に申し訳ない」と、取材を続けたことだ。

さおりと大助は、その後も石川からの取材を受け続けた。2人は共働きだ。土日を使って共同通信の長崎支局を訪れた。だいたいは、昼1時から夜7時頃まで、週に1度か2週に1度のペースで取材は進んだ。さおりと大助は、いつしか石川に対して心を開いていた。自宅での取材も受け入れるようになっていた。

「この人なら信頼できる」

さおりと大助は、学校や県とのやりとりを全て録音していたことを石川に打ち明け、託した。

録音の一つが、海星学園による勇斗の死を「突然死」とする提案を県が追認した時の音声だ。石川が2020年11月に放ったスクープの証拠である。

さおりは、勇斗の仏壇にご飯を供えるときなど、折に触れて石川のことを報告している。

「勇斗、マスコミにも味方になってくれる人がいたよ」

ところが、遺族の思いは共同通信には届かない。石川を審査委員会でどんどん追い込んでいく。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月5日時点のものです。

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●シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」https://tansajp.org/investigativejournal_category/hoshin/

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