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Vol.23179 ピンチをチャンスに変えた臨床研修マッチング

医療ガバナンス学会 (2023年10月12日 06:00)


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この原稿は10月4日に医療タイムスに掲載された記事を改変後、転載しました。

公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺外科・臨床研修センター長
尾崎章彦

2023年10月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■気が重かった3回目の臨床研修マッチング

今年3回目の参加となる臨床研修マッチングは、これまでの中で最も気が重いものでした。その主な理由として、前回の記事で触れた通り、今年8月に当院の内科診療の中心である血液内科医師の退職が決定したことが挙げられます(http://medg.jp/mt/?p=11861

当院はもともと内科に従事する医師の数が限られており、それぞれが日々の診療に忙殺される中で、研修医がローテートできる科が限られていました。

さらに、産婦人科や小児科、救急科などは対象外です。その状況下で、この血液内科医師の退職は、初期研修における大きな打撃になると予想されました。

「このまま臨床研修マッチングに臨むのは学生に対して不誠実ではないだろうか」。そのような思いがよぎったのも事実です。最大の懸念は、研修医が入職した際に臨床研修の修了要件を満たすことができるのか、という点でした。

■過去最高のマッチング結果に

厚生労働省が発行する臨床研修のプログラムを改めて注意深く参照し、研修要件を担保できることをよく確認した上で、臨床研修マッチングへの参加を決定しました。

それが蓋を開けてみれば、今年の臨床研修マッチングは過去最高の結果でした。まずは志望者数です。今回わずか3人の研修医枠に対して、なんと10人の学生が当院での勤務を希望してくれたのです。これは2年前の3人、昨年の5人と比べて大幅に増加した数字です。

さらに、当院を志望してくれた医学生たちは皆1人ひとり印象的で、私たち面接担当者から見ても「本当にうちでよいのか?」と感じさせるほどの素晴らしい学生ばかりでした。

当院では、医学生と実際に面接し、その結果を主要な基準として医学生の順位付けを行いますが、過去、最も順位づけに苦労したマッチングだったことはいうまでもありません。

■異文化の医療機関との連携が「刺さる」

なぜ彼らは、当院での研修を希望してくれたのでしょうか。面接で話を聞きながら感じたのは、アットホームで面倒見が良い当院の雰囲気に加え、プログラムの弱点が一部の人たちには強みに映っているということです。

前述の通り、当院ではローテートできる診療科が限られています。かといって、私の力では、当院の診療体制を研修のためだけに拡充するのは現実的ではありません。そこで、力を入れてきたのが、他の医療機関との連携です。

現在、連携医療機関での研修期間やタイミングには制約を定めておらず、当然ながら、研修先への交通費・宿泊費も当院が負担します。こうした点が一部の医学生には「刺さっている」ようです。

なお、連携をお願いする際の絶対的な条件は、私あるいはその関係者を通じて、個人的に見知った信頼のおける医師が連携先に在籍していることです。

その上で、当院でローテートできない診療科に強みがあったり、ユニークな取り組みを実施している医療機関、あるいは当院とは地理的に離れた環境にある医療機関に連携をお願いしています。

地理的に離れていることをプラスに捉えている理由は、これまでの日常から離れた場に飛び込み、現地の医療関係者や患者さん、生活を営む人たちと触れ合えるからです。

そうした異文化と出会い、視野を広げ、その環境の中で研さんを積むことが、医師のキャリアを俯瞰して見た際に、かけがえのない経験になると信じています。

■病院全体のレジリエンスを高める

例えば、来年度から新たに連携することになった愛媛県四国中央市にあるHITO(ヒト)病院は、「人を診る医療」を理念に掲げつつも、DXを中心に据えて働き方改革を推し進めているユニークな医療機関として話題を呼んでいます。

また、同じく来年から連携する島根県隠岐郡西ノ島町隠岐島前病院の白石吉彦院長は、いわゆる離島医療のイメージを打ち破る痛快なドクターであり、かの有名なマンガ「コウノドリ」で取り上げられたこともあります。

いずれも「医学生に戻れるなら、私自身が研修をしてみたい!」と思うような医療機関です。そのような医療機関で研修をさせていただいた研修医たちが、どのような感想とともに帰ってくるか、今から楽しみにしています。

もちろん、当院の研修体制をよりよいものにするべく、内科のドクターも動いてくれています。実際、11月に実施される臨床研修指導医講習会には、内科から3人のドクターが参加してくれることになりました。

「ピンチをチャンスに」を合言葉に、病院全体のレジリエンス(強靭力)を高めながら、皆で進んでいきたい、そのように考えています。

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