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Vol.23161 起業家病院:血液内科医師の退職に感じたこと

医療ガバナンス学会 (2023年9月12日 06:00)


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この記事は、2023年9月6日に医療タイムスに掲載された記事を転載しました。

公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺外科・臨床研修センター長
尾崎章彦

2023年9月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■森先生が辞める?
「森先生が8月いっぱいで病院を辞める!?」

その知らせを耳にしたのは、つい8月頭のこと。正直、愕然としました。なぜなら森甚一先生は、間違いなく当院のキーパーソンと言える人物だったからです。

森先生は、2007年に順天堂大学医学部を卒業後、都立駒込病院で血液内科診療のトレーニングを受け、常磐病院に赴任されました。その後、7年半にわたり、いわき市の血液内科診療を一人医長として支えてこられました。のみならず、一般内科診療、新型コロナ感染症対策、他院内科専攻医の受け入れやその指導、初期研修医の指導など、実に多くの業務を担われてきました。

その重責に応える実力と使命感をお持ちだったとはいえ、陰にはきっと数々の困難やご心労があっただろうことも、想像に難くありません。

森先生の常勤としての勤務最終日であった8月31日、病棟のナースステーションで送別会が開催されました。そこで森先生から、「いわき市の血液内科患者に対してベストな治療を提供すること」をモットーに診療に従事されてきたこと、そして、患者が亡くなることが稀ではない血液内科領域において、「患者にとって、自分が人生最後に知り合うかもしれない存在であることを踏まえ、いい人間であろうと心掛けてきた」といった思いが語られました。

その一言一言から、森先生にとっても今回の離職は断腸の思いだったのだろう、ということが伝わってきました。常磐病院の血液内科は森先生が一人で診療に従事されてきたため、今回の離職に伴い閉鎖となります。森先生が診療されてきた患者の方々は、一部を残し外部の医療機関に紹介されました。

森先生はきっちりした方ですから、患者の外部施設への引き継ぎは的確になさったに違いありません。しかし、そうであったとしても、担当医が変わると不安になるのが患者さんの心理です。無論、森先生もそのようなことは百もご承知でしょう。それだけに無念な思いがあったのでは、と感じられるのです。

もしも、森先生と一緒に血液内科の診療に携わってこられた方、あるいは後任の方がいたら、状況は違っていたでしょう。森先生が一時的に当院を離れ、また戻ってくるようなことも可能だったかもしれません。

もちろん、森先生も手をこまねかれていたわけではありません。例えば、2019年4月にメールマガジンMRICに掲載された「単身赴任のススメ」では、ユニコーンのヒット曲「大迷惑」を引用しながら、ユーモアを交えつつ、いわきで血液内科診療に従事するやりがいをしたためられるなど、医師のリクルートを働きかけられていました。http://medg.jp/mt/?p=8971

実は、筆者にとって森先生は、お手本とさせていただいていた方です。乳腺外科のトレーニングを受けた後、血液内科を立ち上げられた森先生の後を追うように筆者も常磐病院に赴任し、乳腺外科を立ち上げたのでした。

そのような筆者にとって、今回の血液内科の状況は決して他人事ではありません。実際、この3月まで筆者も、一般外科ドクターの助けを借りながらも、一人で乳腺外科の診療を切り盛りしていました。もし突然離職を余儀なくされるような状況が生じたら、患者さんをどうするか、そのような不安はいつも胸の中にありました。

幸い乳腺外科にはこの4月、権田憲士医師が赴任されました。また、和田真弘先生や立花和之進先生などの非常勤の先生もいらっしゃいます。一息ついた今、筆者が考えるのは、医師が循環するようなシステムです。

すなわち、複数の職場で勤務する複数の医師が少しずつ力を出し合って、地域の医療を支えていくような体制です。痛感しているのは、「片道切符でひとり地方に移り住み、その地域の医療に身も心も捧げる働き方」に魅力を感じる医師は多くないという現実です。また、そのような体制は継続性がありません。

筆者は現在、常磐病院の他に2つの医療機関に勤務していますが、気持ちの切り替えになるのみならず、異なった患者層に関わることで、学びも多いと感じています。

医局と同じじゃないかと見る向きもあるかもしれません。ただ、筆者が理想とするのは、よりフラットな関係性の中で、地域の医療が守られ、医師もやりがいを持って働ける体制です。

森医師の退職を受けて、常磐病院は内科・血液内科医師のリクルートを進めています。筆者は臨床研修センター長の立場にあることもあり、その責任者を務めています。

ありとあらゆる伝手を頼ってリクルートを行っていますが、今の所、色良い返事は頂けていません。ただ、きっと「ピンチはチャンス」でもあるはずです。発想を転換し、なんとかこの難局を乗り越えてより良い診療体制を構築できるよう、常磐病院一丸となって取り組んでいきたい所存です。

なお当院は、▼東京から2時間半、▼住宅補助あり、▼託児所あり、▼3食付き(ビュッフェ形式) 、▼院内の研究室で臨床しながら実験可能(学位取得も可) 、▼院内に温泉あり、▼医師事務作業補助充実、▼当直月1-2回、▼症例豊富と、10年前後の医師にとっては、極めて恵まれた環境であると考えています。

常磐病院で、我々と新しい医師の働き方を模索してくださるような方がおられましたら、ぜひお声がけください。

 

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