医療ガバナンス学会 (2023年10月18日 06:00)
福島県医師会報8月号に掲載された原稿を転載しました。
公益財団法人ときわ会常磐病院乳腺甲状腺外科・臨床研修センター長
尾崎章彦
2023年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
その流れをさらに後押ししようと始まったのが、「めひかりプロジェクト」だ。唐揚げが人気のいわき名物の深海魚「めひかり」を冠し、地域の医療機関が連携して臨床研修医を育てる取り組みだ。
お手本にしたのは、「福島市臨床研修“NOW”プロジェクト」である。福島市では以前から、福島赤十字病院、大原総合病院、わたり病院が連携して研修医教育を行ってきた。
初期研修医の立場に立てば、研修そのものはもちろん将来のキャリア選択に向けても、多くの指導者に話を聞く機会に恵まれた方が良い。そこで昨年、各病院院長以下が「いわき版“NOW”プロジェクト」の立ち上げに合意し、この7月7日に満を持して第1回のイベントが実施された。
当日はいわき市医療センターで、京都市立病院放射線診断科・IVR科の谷掛雅人部長による急性腹症の画像診断についての講演が行われ、その後、懇親会として市内の飲食店になだれ込んだ。笑顔に溢れた皆の写真を見ていただけば、このイベントが大成功だったのはご説明するまでもないだろう。ベテランから若手までがうち解け、控えめに言っても良い会だったと思う。
筆者の考えでは、今回のプロジェクト成功の最大の要因は、新型コロナウイルス対応を通じて培われた病院間の連携だ。新型コロナの流行中、いわき市では「新型コロナウイルス感染症対策協議会」という会議が立ち上がった。市の担当職員といわき市内の主要病院の院長が毎週集まり、日々変わりゆく新型コロナ問題を議論し、適切な落とし所を探ってきた。実際、当院の新村浩明院長も、「この会議がきっかけで病院間の連携が急速にスムーズになった」と明言されている。コロナ禍は地域にとって大きなチャレンジだったが、その際のネットワークが、ポストコロナにおいて全く異なるレイヤーで病院間連携を助けているのは、示唆に富む。
欲を言えば当日、病院間を超えた研修医と指導医の交流が進めば、という思いもあった。そのような病院間の交流がプロジェクトの本来の趣旨だから、という意味だが、そんな押し付けは“今時”ではないのかもしれない。たしかに回数を重ねれば、少しずつでもお互いに見知った関係になっていくものだろう。
だからこそきっと、継続することに価値があり、継続が価値を生んでいく。そんな前向きな、たしかな予感と手応えを得られた会だった。今後もプロジェクトの発展を楽しみつつサポートしていきたい。