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Vol.23198 現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム 抄録から(3)

医療ガバナンス学会 (2023年11月7日 06:00)


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2023年11月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム

11月25日(土)

【Session 05】 こどもを守れー民間セーフティーネットの構築 15:15~16:05(司会:鈴木 寛)

●近藤優実
(バースハーモニー美しが丘助産院)

自分らしく産んで、子育ての好スタートをサポートする助産師

分娩施設、出産方法はさまざまありますが、子どもが生まれてきて良かったと思えるように、助産師として関わりたいと考えています。
私はこれまで病院、産科クリニック、助産院で分娩に立ち会ってきました。自然、無痛、計画、誘発、吸引、帝王切開と、分娩様式も多様です。分娩、産後と関わっている中で気づいたことがあります。「どんなお産をしたいか、分娩に携わる人が意思疎通のできているお産は、その人にとってかけがえのない経験になっている」ということです。そのため、どこでどんなお産をするのが自分にとって最高なのか考え、身体づくりをするサポートを目指しています。
病院・クリニックと助産院の違いは、医師がいるかいないかです。
病院・クリニックでは、産科医師、小児科医、麻酔科医、助産師など多職種で一つの分娩を担当しています。規模にもよりますが、初めて会う助産師がお産に立ち会うことも少なくありません。その日担当する人がどんなお産を望んでいるか「バースプラン」を確認し、担当します。出産経験は、その後の子育てに影響を与えます。そのため、「バースプラン」の実現は重要になります。病院・クリニックでのお産なら、産痛があまりに苦しい場合、途中からでも無痛を選択することで、スマホで連絡を取れるようになったり、落ち着いた状況で赤ちゃんが生まれた後に話しかけることもできたりします。取り乱すことを嫌う人にはいいのではと感じます。
助産院でのお産は、ローリスクのお産に限られ、医療介入がないことが前提です。つまり、医療的には「生理的な」、一般的には「自然な」変化が基本になります。お母さんと赤ちゃんが自然なタイミングで健康に生まれてくるのをサポートしています。重要なのは、状況が刻一刻と変化する中で、産婦自身がどれだけ自分をさらけ出せるかです。さらけ出せるように、妊婦健診からの個別ケアを通して、信頼関係を築いていきます。
最高のお産にするには、どんな設備でどんな対応を望むのか、考えてもらい、それに真摯に対応していきます。
●岡本雅之
(医療法人倫友会岡本内科医院院長)

ひとり親家庭の貧困問題と「こども食堂」

いのちを守る施策。
その一つにこども食堂がある。
稼働しているのは全国4,000ヶ所あまり。
週一回くらいのところが多く、不十分だが、多くの子供たちに夢を与えているのも事実だ。

始めてみて社会的意義を知り、毎日、365日にわたって食事提供できる事をめざしたい。

▪ひとり親家庭の貧困問題
母子家庭の61%が、年間就労収入200万円未満という状況に置かれています(2022年)。就業している母親の半数以上が非正規の仕事に就いており、子どもの看病でも休むことができず、不況の際には真っ先に不利な立場にさらされます。親の収入格差が、子どもの教育や様々な機会における貧困に繋がっており、世代間をまたぐ貧困の連鎖も起きています。
▪当院の取り組み
毎週金曜日の16:00〜19:00に夕食を100円で提供しています。みんな美味しい!と言って食べてくれます。そして、食後にはくつろいで過ごしています。初めての人が来れば、こっち!と我が家のように招き入れます。お母さんの苦境の話を聞くのも任務です。

こども食堂 おおはす東
〒577-0824
東大阪市大蓮東3-3-3
(岡本内科医院内)

●紅谷浩之
(医療法人オレンジグループ代表)

こどもが成長していくエネルギーを地域の力に
年齢や病気の種類を問わず地域に向き合う地域医療を実践する中で、0歳から100歳超まで様々な人たちの暮らしや人生に関わらせて頂いています。
超高齢社会への対策について話し合う会議や学会に参加する機会もありますが、なかなか前向きな議論にならないことが課題と感じています。一方で、在宅医療の中で出会った「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちが、医学的には大変弱い状態(命の危機、急変のリスク)にあるにも関わらず、彼らが地域に出て行く(病院へ隔離するのではなく地域の保育園や学校に入り、公園や旅行に出かける)ことで、その地域や関わる大人を良い方向に前向きに変えていく、元気にしていく場面に立ち会うことが、とても多くあります。増えていく高齢者への対応も重要ですが、減っていくけれど未来ある子どもたちを中心に街や未来を構想することの方が重要なのではないか、とそれを見ていて気づきました。
子どもたちは、病気や障害といった医学的な弱さを持っていなくても、大人が決めた役割や仕組みの中で過ごさざるを得ないという、社会的な弱さを持っています。先ほどの医療的ケア児と地域との関わりのように、弱さを保護・管理の対象にするのではなく、弱いからこそ持つ「変化し成長していくエネルギー」を活用するべきではないでしょうか。そのエネルギーを使い、こどもと共に街や未来を造っていくイメージを持ち、彼ら自身と共創していく――それこそが重要とすれば、民間セーフティネットの役割は、公的な保護・管理といったサポートではできない、変化し成長していくエネルギーを活用したものになると考えています。「医療」「福祉」「教育」という縦割りではなく、「暮らし」「生活」「人生」といった時間軸を持った関わりを考えていきたいと思います。

●塩崎恭久
(元厚生労働大臣)

社会的養育と児童精神科医療の在り方

子どもの健全な心身の発育は、乳幼児期の親や里親など「特定の大人」との「愛着形成」(attachment)を前提に実現するという。加えて、学童期や思春期にも発達課題が多々ある。
しかし「小児期逆境体験」(ACEs: Adverse Childhood Experiences)が愛着形成やその他の課題克服を妨げ、未治療の場合、生涯にわたる心身の問題をもたらし、子どもの健全発育や人格形成を妨げる。「連鎖」の蓋然性も高い。結果、社会的養育が必要な子ども達の健全養育に失敗すれば、「タックスペイヤー」(taxpayer; 納税者)を作らず、「タックスイーター」(tax eater)を作ることとなる。
児童精神医学は、そのような逆境がもたらす精神不調を治療し、子どもの健全発育を確保する医学だ。WHOによれば、全世界の児童・青年のうち、約20%は精神疾患・問題を抱えている。米国CDC(米国疾病予防管理センター)はわが国では感染症専門組織との認識だが、実は1995年以来継続的に「ACEs Study」コホート研究を行っている。
日本では子どもへの「虐待」ばかりに目が向きがちだが、虐待に加え、離婚など親との離別や死別、家族の病気・収監、家庭内暴力、いじめ、事件・事故・犯罪、自然災害、戦争など、子どもの発達を阻害する深刻な逆境体験は広範だ。こども家庭庁や国会も、「こども真ん中」を唱えるならば、こうした全ての逆境体験の残す「心の傷」を幅広くとらえた対応が不可欠だ。
米国には、約6,500人の児童精神科専門医がおり、さらに1万2,000人余りの確保を目指していると言われている。一方、日本には400人台しかおらず、増やす機運も盛り上がっていない。児童精神科医を目指す若き医学生も当初はいるが、専攻を絞り込む時期までに、希望する人はほとんどいなくなるという。その大きな理由のひとつが、診療報酬体系と聞く。大人の精神科医療と異なり虐待を行う親・パートナーの調査に手間暇を要すにもかかわらず、成人医療と同様の「一人分」の診療報酬体系のため、病院・診療所経営を考慮すれば後回しになることは必至だ。必須な福祉対応への医療費給付はないし、人員配置も手薄で、「保護室」がいまだにある。
子どもの「心の傷」は外からは見えない。戦後児童福祉政策は、そのような「心の
傷」に焦点を殆ど当てず、「浮浪児対策」の延長線上で「保護」パラダイムで施設収容
に頼り、心のケアにはほとんど無頓着で来たのだ。
子どもの心の傷を癒し「養育」するパラダイムに初めて大きく転換したのは、児童福祉法制定からほぼ70年後、2016年の児童福祉法の抜本改正だ。今後も児童福祉法と精神保健福祉法の有機的連携化など、米国等に遅れること半世紀以上で、初めて取り組むべき課題が山積だ。

 

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