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Vol. 389 日本医師会長への手紙

医療ガバナンス学会 (2010年12月27日 06:00)


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小松秀樹
2010年12月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


日本医師会長 原中勝征先生

謹啓

先生が日本医師会長に就任されて9カ月になろうとしています。本格的な仕事ができる環境が整いつつあるのではないかと推察いたします。
先生はかつて東京大学医科学研究所に在職され、がん研究者として活躍されていました。ご承知のことと思いますが、東京大学医科学研究所と研究所に勤務されている中村祐輔教授が2010年10月15日、16日、朝日新聞の1面、社会面、社説で強く非難されました。

医科研のホームページには、これまでの医科研の反論が掲載されています。私自身、非難に根拠がないとする意見を発表しました(「朝日新聞医科研がんワク チン報道事件:正当な非難か誹謗中傷か」MRIC by 医療ガバナンス学会, 2010年12月6日)。当事者の医科研所長や中村教授だけでなく、患者団体や様々な医師から抗議の声があがりました。関連する学会、すなわち、日本癌学 会、日本癌免疫学会、日本消化器病学会に加えて、日本医学会の高久史麿会長も抗議声明を発表しました。事件を機に結成された「医療報道を考える臨床医の 会」は12月22日、抗議の署名が4万を超えたと発表しました。

事件について私が書いた文章を11月28日に先生にお送りして、日本医師会として朝日新聞社に抗議するようお願いしました。メールが届いていないようで したので、かつて中央公論誌上で「小松秀樹医師よ、共に戦おう」と私に共闘を呼びかけられた今村聡常任理事にも、推敲を加えた文章をお送りしました。同時 に、日本医師会雑誌に掲載していただくようお願いいたしました。今村常任理事からは、約束はできないが検討してみたいとのご返答をいただきました。1カ月 近くになりますが、日本医師会から抗議は表明されておりません。文章について問い合わせたところ、担当常任理事のところでとどまっているようでした。

先生は、日本のマスメディアが、これまで、医療に対しどのような影響を及ぼしてきたのか、ご存じだろうと思います。今回の報道がまかり通れば、臨床試験全般に多大な支障をきたします。結果として、多くの患者の希望を奪うことになります。
加えて、元NHKの和田努氏が『新医療』12月号の記事(「『患者出血』伝えずの新聞記事 記者の”悪意”は不在だったのか?」)で述べられているように、記者に”悪意”があったと思われます。

これまで、勤務医にとって切実な問題に、日本医師会が、勤務医と共闘する形で本気で取り組んだことは、勤務医側から見る限りありませんでした。大野病院 事件で逮捕された加藤先生の弁護に関して、日本医師会が大きな貢献をされたと最近うかがいました。これには、一勤務医として深く感謝します。残念なこと に、このことは公表されず、勤務医との共闘場面もありませんでした。

朝日新聞がんワクチン報道事件は、医師を代表する団体が立ち上がるべき象徴的な問題です。人々の記憶にとどめ、時代を進めるために、歴史的モニュメント としての「首塚」が必要です。これまでの善悪フィルターで歪んだ医療報道を、冷静な科学的認識に基づく報道に変えられる可能性すらあると思っています。

事件の発端から2ヶ月以上経過しました。日本医師会の沈黙に対し、日本の医療の維持運営責任を担っていないのではないかと、問題視する意見が強まりつつ あるように思います。このままでは、日本医師会は開業医の経済的利益にしか関心がない、というステレオタイプな見方を裏付けることになります。結果とし て、開業医に不利に働きます。態度を明らかにしないこと自体、決定的な態度表明です。

これまで、朝日新聞社は、非を認めておりません。逆に、抗議活動に立ちあがった医科研所長、がんワクチンの臨床研究グループである Captivation Network、「医療報道を考える臨床医の会」、個人として活動してきた上昌広医科研教授に対し、「捏造」と述べたことを撤回しなければ法的措置を検討 するとの威嚇を伴う内容証明の手紙を送り付けました。抗議の先頭に立っているのは、当事者である医科研所長、中村教授を含めて、実質的に、個人あるいは、 小さな団体です。第四の権力の代表格である朝日新聞と比較すると、象に対するアリのような存在です。中村教授とオンコセラピー社が提訴した民事裁判を別に すると、もっぱらネット上の言論だけを武器に戦っていますが、物量では到底かないません。

日本医師会は、我々にない手段をお持ちです。2ヶ月が経過した今、抗議声明を発表するだけでは、現場の医師に本気だとは理解されません。日本医師会が、 新聞にときどき大きな広告を出しているのを見かけます。朝日新聞には広告を出さないようにしていただけないでしょうか、朝日新聞に広告を出す会社の商品を 買わないように、会員に働きかけていただけないでしょうか。朝日新聞の取材を拒否するよう医師に働きかけていただけないでしょうか。朝日新聞の不買運動を 展開していただけないでしょうか。朝日新聞との戦いを、日本医師会のホームページや白クマ通信で詳細に中継していただけないでしょうか。これについては、 資料を提供するなどお手伝いできると思います。

お送りした文章については、その後も推敲を重ねております。事件についての記述もありますが、どちらかというと報道の論理の特性と時代の変化についての 文章です。日本医師会雑誌に全文掲載されれば、驚天動地、社会からみた日本医師会像が変わると思っておりました。日本医師会雑誌が多様な意見の交流の場に なることを示せたはずです。これまでの閉鎖的なイメージを変える千載一遇のチャンスになると思っておりました。しかし、日本医師会役員の想像力を超える突 拍子もないお願いだったかもしれません。簡単に判断できないということは理解できます。いずれにしても、長く待てないので、他の発表媒体を探し始めようか と思います。長文なので、媒体が簡単に見つかるとは思いません。もし、日本医師会雑誌に掲載していただけるということでしたら、可能な限り優先したいので ご連絡ください。朝日新聞との戦いは、しばらく続きます。今後も文章の掲載をお願いすることがあるかもしれません。その節もよろしくお願いいたします。対 応しにくい提案でご迷惑をおかけしていますことをお詫び申し上げます。

日本医師会は、公益法人制度改革三法によって、2年11カ月以内に新組織に移行しなければ、解散したものとみなされます。自他ともに認める開業医だけの 団体になるのか、勤務医も進んで参加する真に医師を代表する団体になるのか。これまでのような活動と組織形態では、開業医だけの団体にしかなれません。社 会への影響力はなくなります。医師を代表する団体になろうとして、すぐれた定款を作成しても、それだけでは人の心が動きません。

大朝日との戦いは、容易ではありません。たぶん長期戦になると思います。苦しい戦いと言いたいところですが、実際には、知的で楽しい多様多彩な活動にし ないと勝てません。多くの異なる立場から、様々な意見が出され、社会が動いていくことが前提です。日本医師会-日本医師連盟は、これまで、一昔前の前衛政 党と同じように、重要な政策については、中央が秘密裏に決定してきました。比較的短い言葉で表現できる利害に関する政策を、選挙や献金を通じて政権政党に 働きかけて実現させてきました。内部の議論が表に出るのは、仲間割れによる権力闘争が生じた場合だけでした。前衛政党型組織から、多様な意見を扱えるネッ トワーク型組織に転換しないと、複雑で大きな認識や意見が扱えません。多様性を許容しないと、多くの参加が望めません。かつて、日医総研で問題が生じたの も、研究者に研究の自由を与えきれず、多様な意見を保持できなかったためではないでしょうか。

朝日新聞と本気で戦い、成功体験を共有できれば、日本医師会をめぐる状況が変化します。組織改編問題に見通しが出てくるかもしれません。

話の方向がずれました。日本医師会の再編問題は別にして、純粋に、朝日新聞がんワクチン報道事件に、参戦するかどうかを、日本医師会でご検討いただきたく、伏してお願い申し上げます。参考までに、未定稿ではありますが、私の推敲中の文章の最新版を同封いたします。

抗議の署名をされた4万を超える方々をはじめ、全国の医師が日本医師会の今後の行動を期待しながら注目しています。

敬白
2010年12月25日
小松秀樹

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