最新記事一覧

Vol.23206 現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム 抄録から(9)

医療ガバナンス学会 (2023年11月16日 06:00)


■ 関連タグ

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。
下記、URLからお申込みください。
( https://genbasympo18.stores.jp/ )

2023年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム

11月26日(日)

【Session 11】
医療改革の現在 13:00~13:15 (司会:上 昌広)

●小野俊介
(東京大学大学院薬学系研究科准教授)

みんなが何を言っているのかがさっぱり分からない(再び)

年を取って頭がぼーっとしてきたせいか、新聞を読んでも書いてあることがさっぱり分からない。年の功で記事のバカらしさを見抜く眼力がついた可能性も1%くらいの確率であるが、どっちだろう?
朝日の朝刊一面に「日本の新薬開発がピンチ」という記事が。休日だから特にぼーっとしてたことは確かだが、記者が何を言いたいのかが根本的に分からない。ピンチというからには、誰か(あるいはその誰かにとって大切な何か)が別の誰か(何か)にひどい目に遭わされてるのだろう。そこに出てくる「誰か」って誰だ? 「日本人が、強欲だけど賢い米国人にボコボコにやられてる」ってこと? もしそれが記事の趣旨なら話は簡単だ。米国人を殴り返せばよいのだ。浅草あたりに観光に来てる米国人に向かって大声で悪態をつけば気分が晴れるぞ、きっと(笑)。
ニポン人ってどんなひどい目に遭わされてるのだろう? 高いお薬を「買わされてる」? 日本人って幸せになるためにお薬を買ってるんじゃないの? 副作用かなんかが出るのをドキドキするために薬を買ってるのだろうか?
・・・ いや、私だって35年間この業界にいるのだから記者の気持ちは分かる。要は、新薬のほとんどを創ってる欧米の外資系企業が憎いのですよね。医薬品の制度、理念、そして産業を世界的にリードする米国様に嫉妬してるのね。かわいいといえばかわいいけど、いい年齢したオトナのやることじゃないよ ・・え、違うの?では、あなたの言いたいことは何なの?
人間って、自分がしていることの意味が本当は分からない。たとえば、お昼になると私は自分でも訳が分からぬまま生協食堂に向かってしまう。新聞記者は自分でも訳が分からぬまま日本の新薬開発危機を煽る。役人は自分でも訳が分からぬまま毎年「日本の新薬開発をオールジャパンで支援する」「司令塔をつくる」だのという馬鹿げたアドバルーンを上げる。本能で行動するハチさんやアリさんと同じ。
もっとも、関係者(記者を含む)のほとんどは、数年もすればポストが代わるし、そのうち定年退職する。新薬開発など人生のほんの一時のお付き合いなのだから、自分のする・言うことの意味を考える必要もないのである。記者も政治家もお役人も、口から出まかせの思い付きを喚いていればとりあえずメシは食える。彼らの言ってることなどほんの数日もすれば誰も覚えてないのだし、数年もすれば彼らの存在すら誰も覚えてないのだから。
ほら、私が本稿で数秒前に喚いたこと、誰も覚えていないでしょ?(笑)
【Session 12】
身近に迫る災害医療 13:15~14:15 (司会:坪倉 正治)

●吉村弘記
(広島大学医学部5年、福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座講座等研究員)

災害慢性期における被災地の状況

災害が発生すると交通インフラや設備などが通常とは異なる状態となり、人々の生活に多大な影響を与える。そこで、災害発生時の課題を明らかにし、その対策を講じることが非常に重要となる。これまでに全世界を通じて災害に関する研究は数多くなされてきたが、その大部分は災害直後の時期に焦点を当てており、災害後に長時間が経過した段階での被災地に関する研究報告は多くは存在しない。
その理由は大きく2つ存在すると考えられる。一つには、災害後の長期的な影響を扱ったデータが多くは存在しないことが挙げられる。災害が発生してからその影響が10年以上にわたって長期的に残存する事例は非常に稀であり、災害発生後の長期的な観察を行う研究を数多く実施することは難しい。もう一つの理由としては、災害後の影響が長期にわたるにつれ様々な因子が複雑に絡み合っていくため、慣例的な解析が通用しにくくなることが挙げられる。研究の題材として扱いにくい。
2011年3月の東日本大震災(地震および津波)とそれに続く福島第一原子力発電所事故は、近年稀にみる大災害であり、その影響は震災後10年以上経過した今日も続いている。この災害に関するデータが蓄積されてきたことに加え、発展著しい機械学習を使用した解析により、これまで明らかでなかった災害後慢性期の様々な影響が明らかになりつつある。
こうした災害後慢性期の課題を明らかにすることは、これまでになかった知見を増やすという学術的意義にとどまらず、大災害から重要な教訓を抽出して今後の施策に役立てるという行政的意義もある。
災害後慢性期に焦点を当てた研究を今後も継続し、災害後対応策の基盤となる議論を提供していきたい。

●山本知佳
(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座助手、一般社団法人災害総合健康管理研究所客員研究員)

福島原発事故における「災害関連死」

災害は、直接的・間接的に、多くの健康影響を引き起こす。2011年の東日本大震災(以下、震災)では、地震・津波に加えて福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)により多くの住民が避難を余儀なくされた。原発周辺値域の医療インフラの低下や、避難による生活環境の変化、それらによる心理的・身体的負担といった間接的な健康影響が、死亡率を増加させることが報告されている。復興庁によると、2023年3月の時点で、岩手県では470名、宮城県は931名、福島県では2335人の方が、災害関連死で亡くなっている。災害関連死は、「災害弔慰金の支給に関する法律」に基づき、災害による間接的な影響により死亡したと市町村が認定する。
現在、福島県立医科大学の坪倉正治教授の指導の下、浜通りで勤務する医師や医学部生のチームで、福島県南相馬市の災害関連死データ解析や災害関連死に関するインタビュー調査を行っている。南相馬市は原発から13~38km北に位置し、福島県で最も災害関連死認定数が多い市である。避難指示が出された地域とその他の地域を有し、病院の閉鎖や移転といった医療インフラの変化が生じた地域でもある。
本演題では、データ解析やインタビュー調査から得られた災害直後の対応や避難生活における健康影響への課題について報告し、今後起こりうる大規模災害における減災への取り組みに関して知見を深めたい。
●Claire Leppold
(メルボルン大学研究員)

Disasters on Disasters:複合災害の研究

災害は歴史的に、まれで特異な出来事と考えられてきた。しかし過去 10年間の間に、災害は、繰り返しあるいは連続的に発生し、さらには連鎖あるいは重複して発生することが明らかになりつつある。豪州では2019から2020年にかけて、多くの地域が“黒い夏”と呼ばれる山火事「Black Summer Bushfires」に被災、さらに2020年には新型コロナウイルス感染症が流行し、2021年から2022年にかけては大規模な洪水に見舞われた。ハワイにおいても今年、火災とハリケーンが同時に問題となった。そして地球温暖化は、災害の頻度上昇や規模拡大をもたらし、更なる複合災害の増加につながると予想されている。
その文脈で重要な懸念点は、災害にまつわる政策決定・実践のための指針の大部分が、単独の災害におけるエビデンスをもとに構築されていることである。本発表では、「Disasters on Disasters」研究プログラムを紹介し、複合災害が地域住民やコミュニティに及ぼす影響について議論する。過去のエビデンスのレビュー、豪州で複合災害に見舞われたコミュニティにおける住民や支援者への質的インタビュー、東日本大震災での先行研究から得られた知見を紹介する。日本と豪州に焦点を当て、複合災害に関する研究知見をどのように積み重ねていけるか、さらに、それをもとにどう進展させていくべきか議論する。
●小豆畑丈夫
(医療法人社団青燈会小豆畑病院理事長・病院長、日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野臨床教授)

地域の在宅医療 ――病院医療連携で臨む災害医療を考える

当院は、茨城県県央部の比較的医療資源に乏しい地域に1980年に開院した、急性期病院を中心としたケアミックス型の医療機関である。2010年代から在宅医療と病院医療をシームレスに提供することで、地域医療を支える取り組みに注力してきた。そのきっかけになったのが、2011年の東日本大震災の被災であった。災害弱者の定義は様々にあるが、私たちは「一番の災害弱者は、災害時に病院や救護所まで移動して助けを求められない人」であると、震災時に気づかされた。そこから「患者が移動するのではなく、医療者が移動する医療」の必要性に気づき、地域における在宅医療(診療・看護・介護)に注力してきた。
日本の年間の在宅医療訪問診療件数は、15年間で5倍に増加していることが2022年の厚労省の発表で示されている。しかし私たちは、「在宅医療と病院医療がシームレスに提供できなければ、本当の意味での患者さんのための医療にはなれない」と考え、2017年に日本在宅救急研究会(2018年より一般社団法人日本在宅救急医学会)を設立し、これからの地域医療のあり方を考え続けている。
今回の発表では、日本在宅救急医学会設立の契機となった「在宅医療と救急医療の一つの病院連携」の地域医療における効果を紹介した後に、「地域の在宅医療――病院医療連携で臨む災害医療」について考えることができれば幸いと考えている
●坪倉正治
(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授)

福島原発事故後の社会変化からみる今後の災害対策

福島原発事故の大きな教訓の一つは、放射線という主たるリスクを避けた傍らで、二次的・間接的な影響が大きくなってしまったことである。この構造はコロナ禍も同様であり、災害時の全体的な影響を評価し、優先順位の高いものから対応していくことが重要である。
災害は、社会の脆弱な部分を照らし出し、その被害は弱者に集中する。災害関連死はその実態を知るための最も重要な情報の一つであったが、これまでアクセスが難しく、詳細な情報を得ることができなかった。
本セッションでは、最新の解析結果(特に災害関連死のカテゴリー化)を示す。さらに、東日本大震災から12年の間に高齢者はどこで医療を受けるようになり、どの部分が強化された一方で、どの部分が脆弱化したか––––東日本大震災後の社会変化から予想される、今後必要な災害対策を議論したい。
加えて、ウクライナ侵攻による影響についても紹介したい。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ