最新記事一覧

Vol.23208 1000人規模のPFAS疫学調査/大阪全域での汚染拡大を受け(シリーズ「公害PFOA」)

医療ガバナンス学会 (2023年11月18日 06:00)


■ 関連タグ

Tansaリポーター
中川七海

2023年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ついに大阪で、全国最大規模のPFAS疫学調査が始まった。主導するのは、医師や科学者、市民からなる「大阪PFAS汚染と健康を考える会」だ。

大阪・摂津市に立地するダイキン工業淀川製作所が引き起こすPFOA汚染の実態は、これまでTansaで報じてきた。PFOAはPFASの一種だ。摂津市内の河川・地下水・土壌・農作物からは、摂取すれば健康に害を及ぼすレベルのPFOAが検出され、市民の血液からも高濃度のPFOAが検出された。

だが、PFOA汚染は摂津市内に留まらない。環境省や大阪府、京都大学の調査によって、摂津市と隣接する大阪市をはじめ、府内全域で汚染が拡大していることがわかったのだ。

この状況に、大阪府内の医師や京都大学の研究者たちが立ち上がった。国内最大規模となる府民1000人を対象としたPFAS血液検査を実施し、PFASによる健康影響を把握する。高濃度曝露した市民を適切な処置に繋げる狙いがある。

データを基にダイキンの責任を追及し、行政にもしかるべき対応を求めていく。

●医師団主体に会を結成

2023年11月11日、大阪市中央区内の会場で「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の発足を発表する記者会見が開かれた。

会のメンバーは次のとおりだ。

===================
代表
大島民旗(医師、大阪民医連会長・相川診療所所長)

専門委員会委員長
中村賢治(医師、大阪社医研所長)

事務局長
長瀬文雄(淀川勤労者厚生協会)

事務局長代行
釘宮隆道(大阪民医連事務局長)

運営委員・事務局
穐久英明(医師、姫島診療所所長)
金谷邦夫(大阪から公害をなくす会会長)
長尾ゆり(大阪から公害をなくす会事務局長)
谷口武(摂津「PFOA汚染問題を考える会」事務局長)
増永和起(摂津「PFOA汚染問題を考える会」)
近藤聡(大阪民医連事務局次長)
松本敏之
長岡ゆりこ

顧問
小泉昭夫(医師、京都大学名誉教授)
===================

会を結成したのは、大阪府全域で広がるPFAS汚染への危機感からだ。摂津市内だけではなく、淀川製作所を中心に大阪府内全域でPFAS汚染の報告が上がっているにもかかわらず、ダイキン、政府、大阪府は十分な対策を講じない。

今年7月以降、医師や科学者、市民たちが集い準備を重ね、会の発足を実現した。

会代表の大島民旗医師は、「本来であれば行政や企業自身が調査をしていくべきだが、残念ながら不十分」と指摘し、「医療関係者や科学者たちでしっかりと実情を把握した上で、必要な提案をしていく」。

事務局長の長瀬文雄氏は、「摂津市民だけでなく、大阪府民全員に関わる問題である」と述べ、「大阪府も国も、健康被害はないと言う。だったら自分たちでやるしかない」と会発足の経緯を話した。

今回の疫学調査は、東京・多摩地区での約600人を大きく上回る国内最大規模の検査となる。検査には1人あたり2万7500円かかり、検査会場や書類作成の費用等を含めると3000万円に及ぶ。京都大学と大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)が予算を工面し、寄付を募りながら実施しているが、汚染者責任を問う中でダイキンにも費用負担を求める方針だ。

年内に1000人の血液検査を実施する予定で、すでに3割程度の検査を終えている。分析の途中経過については、長瀬氏がこう報告した。

「相当高い値で、基準値を超える方が出ている。1000人規模になれば、何らかがわかる。このデータを基に国や大阪府、企業に対しても対策を求めていく」

会では、高濃度曝露が判明した人のためのPFAS相談外来も設置し、適切な処置に繋げていく予定だ。

●米国では大規模疫学調査→汚染企業の責任を立証

米国では血液検査による疫学調査の結果、PFOA製造企業であるデュポンが責任を認めた。

ダイキンと同じく、デュポンはPFOA製造の世界8大メーカーの一つ。ウェストバージニア州にある工場でPFOAを製造していた。周辺の河川や検査を受けた住民の血液から高濃度のPFOAが検出され、住民たちがデュポン相手に訴訟を起こした。

2004年、デュポンが住民側に7000万ドル(約80億円)を支払うことで和解。疫学調査の費用としてデュポンが500万ドル(約5億8000万円)を負担することも決まった。独立した立場の科学者たちによる調査会が発足し、住民7万人を対象とした疫学調査が行われた。

調査により2012年、PFOAによる妊娠高血圧症や精巣がん、甲状腺疾患など6種の健康影響が確認された。デュポンは、自社が起こしたPFOA公害の責任を認めざるを得なくなった。

デュポンとの裁判を手がけた弁護士のロバート・ビロット氏は、Tansaの取材に対し次のように述べている。

「これは最大規模の疫学調査です。独立した科学者たちが実施し、PFOAが6つの疾患につながることを確認したのです。企業が健康影響を否定しても、科学が真実を証明したのです」

※この記事の内容は、2023年11月11日時点のものです。

【Tansaについて】
Tokyo Investigative Newsroom Tansaは、探査報道(調査報道)を専門とするニューズルームです。暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。広告収入を受け取らず、独立した立場を守ります。誰もが探査報道にアクセスできるよう、購読料もとりません。NPO法人として運営し、寄付や助成金などで成り立っています。
公式ウェブサイト:https://tansajp.org/

●Tansaメルマガ登録
新着記事やイベントのお知らせ、取材の裏話などをお届けしています。メルマガ限定の情報もありますので、ぜひご登録ください。
http://eepurl.com/hslUsf

●シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/

●取材費を寄付する: https://syncable.biz/campaign/4467

●YouTube番組「デモクラシータイムス」で本連載を解説する番組を放映中!
8回目:PFOA汚染、水道からフライパンまで
7回目:ダイキン、今もPFOA排出
6回目:ダイキン「社外秘」文書入手!摂津でPFOA大量排出
5回目:低体重児と希少ガン
4回目:PFOA汚染と母子
3回目:東京の水も危ない⁉ 汚染源は横田基地?
2回目:ダイキン城下町の公害
1回目:フライパンが危ない!隠された令和の水俣

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ