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Vol.23209 現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム 抄録から(11)

医療ガバナンス学会 (2023年11月20日 06:00)


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2023年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム

11月26日(日)

【Session 14】
アフターコロナ:病院はどう生き残るか 15:00~16:00 (司会:上 昌広)

●陳維嘉
(福岡ハートネット病院整形外科部長)

アフターコロナの医療ツーリズム

2010年代初頭、日本の高度な医療技術、清潔で安全な医療環境、行き届いたケアサービスと、観光名所や文化的魅力を組み合わせた対外的プロモーションが、日本政府や関連団体によって本格的に展開された。中国から日本の医療機関への受診者が増えた背景には、こうした取り組みに加え、中国内の医療事情もある。すなわち医療技術にも、国内の医療格差による受診難や、医療コメディカル不足など基盤整備の遅れ、保険外の高額な治療費などが考えられる。
公平性や価格設定などを理由に日本医師会の反対があり、推進しづらい現状はいまも存在する。ただ、コロナパンデミック以前から受け入れシステムの構築と医療通訳制度の向上が進み、国立大学や主要私立病院の外国人患者数および健康診断受診数は増加してきた。2019年には、医療滞在ビザがそれまでのピークの1650例に達し、その4分の3が中国からだった。健診を目的とした観光ビザでの来日も、同様の傾向があると推測する。コロナ中の医療ビザは、2021年は653例と減少、2022年は全体で1804例に回復したが、ベトナムからの来日が多く含まれていた。中国からの来日は、今後の増加が期待される。
今後、中国を中心とする外国出身滞在者の増加が予測される。例えば、中国からの高度専門職の申請は2019年が161例に対し、2022年が733例と増加した。先端総合病院だけでなく、市中疾患に対応する一般クリニックが、日本の医療保険の有無に関わらず、外国人の受診やトラベル診療のニーズに応えられるよう医療サービスの提供方法を検討する必要がある。文化や習慣の違いから、受診時のコミュニケーションの取り方にも多くの違い(ギャップ)が存在する。
患者の受診案内から支払いまで、いかに価値あるサービスを提供できるか、一医療機関としてできることを考察する。
●大西睦子
(米国ボストン在住内科医師、医学博士)

米国の医療格差

渡米してまず驚いたのは、日本のような開業医がないことだった。友人の米医師は、「80年代後半に、多くの個人病院は破産した。医療技術が発展して、高価な医療器具の購入や高い医療水準についていくのが難しく、開業医は取り残された。生き残るために病院はグループ化し、コスト削減や保険会社との交渉にあたった」と言う。こうして合併や買収などにより全米の病院数は減った。例えば、マサチューセッツ州最大の医療システム「マスジェネラルブリガム」では、ハーバード医学部系列のマサチューセッツ総合病院(MGH)やブリガムアンドウィメンズ病院(BWH)など16医療機関がネットワークを形成している。
さて、PBS ニュースアワーの特集「ヘルスケア: アメリカ vs 世界」は、テキサス州ヒューストンの話で始まる。質の高い最先端の医療を提供する世界最大級の医療研究機関の集積地テキサス医療センターと、そこからほんの数キロ離れた貧しい地域の医療格差の話だ。ニュースは、「very best とvery worst」「公平ではなく、そうである必要はない」と指摘する。2つの地域の住民には、平均寿命に約20年もの差がある。米国の多くの貧しい地域では、患者に支払い能力がない、保険に加入していないなどの理由で、病院は経営困難となり閉鎖が続いている。
貧困地域に限らず、米国では地方の病院が相次いで閉鎖している。ノースカロライナ大学のデータによると、2005年以来、計195の地方の病院が閉鎖した(うち101は完全閉鎖、99は入院サービスを中止)。そのため地方の住民は、医療サービスへのアクセスが悪化し、治療を受けるために長距離を移動しなければならない。
国家政策センター(CHQPR)の2023年1月発表によると、全国の29%超を占める631の地方病院が、財政的圧力により閉鎖の危険にさらされている。地方の病院閉鎖が最も多い10州は、2005年以降の米国の地方病院の閉鎖総数の60%を占めており、上位10州の閉鎖の4分の1近くがテキサス州だけで発生している。パンデミック前のレベルと比較すると、閉鎖の危険にさらされる地方病院の数は連邦政府の救済政策により一時的に減少するものの、根本的な解決にはならない。米国の医療格差はさらに拡大するだろう。
●上田和朗
(ウエキ税理士法人監査部部長)

コロナ禍の補助金による財務状況の変遷

2019年度~2022年度のJCHO、国立病院機構、医学部を持つ大学の財務諸表を分析し、補助金の推移、財務諸表がどのように変わったかを報告します
●山田匡昌
(株式会社SBI新生銀行ヘルスケアファイナンス部長)

医療・介護業界における2025年

アフターコロナを考えるにあたって、2025年という年は重要な年になると考える。(1)団塊の世代が後期高齢者入りし、医療・介護需要がますます高まり、(2)福祉医療機構(WAM)が業界支援のために実施した新型コロナ対応支援資金の返済が始まり、(3)第一次医療法改正(1985年)前の病院建築ラッシュから40年が経過し病院の建替え需要が顕在化する年であり、医療・介護事業者による持続的なサービス提供を可能とするためには、金融機関としてもこれらの課題を一緒に乗り越えていかねばならない。
目下、病床確保料等のコロナ関連補助金により決算や資金繰りが黒字となっている医療法人の多い中、補助金が廃止された後の備え(段階的に通常の病床体制に戻していくまでの資金手当てなど)が必要になってくるだろう。
地域によっては、高齢者を含む人口減少による売上低下や、医師、看護師、メディカルスタッフや事務職員の確保のための費用増が、収益力の低下を招き、資金調達力にも影響を及ぼすおそれがある。さらに、老朽化した病院を建替えようにも、診療報酬の伸びが期待できない中、資金調達計画の策定も困難となる。建築費の高騰により、現存病床数を前提とした建替えでは過大投資になりかねない。
こうした厳しい環境を生き残るためには、コロナ病床から一般病床体制に移行していくことに加え、地域の需要と供給を踏まえた病床機能転換や、ダウンサイジングの検討も必要となるかもしれない。地域の病院や診療所との連携を深めつつ、急性期から、回復期(高齢者の治療後のADL改善)、地域包括ケア(在宅医療のサポート、ポスト・サブアキュート)へ移行、あるいは医療から介護へシフトすることで、収益を伸ばすことに成功している医療法人もある。
また、病院の新築や建替えにあたっては、最近では大手デベロッパーや不動産ファンドに開発・保有してもらい、医療法人は賃借人として病院の運営に特化するケースも出てきている。その場合、賃料支払い後でも黒字を確保できる収支が必要となるが、銀行のリソースと知恵だけでは経営改善アドバイスにも限界がある。早めに医療専門のコンサルやファンド等の第三者の力も借りながら、収支を立て直しておくことで、限りある資本の有効活用としての「不動産を持たざる経営」の検討も可能になると言える。
金融機関としては、こういった様々な局面に応じて、通常のローン以外にも、ファクタリング、メザニン・資本性劣後ローン、不動産流動化など、様々なファイナンスメニューを用意していく必要があると考えている。

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