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Vol.23210 現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム 抄録から(12)

医療ガバナンス学会 (2023年11月21日 06:00)


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2023年11月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム

11月26日(日)

【Session 15】
「コンビニクリニック」の軌跡と社会 16:00~16:50 (司会:谷本 哲也)

●谷本哲也
(医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長、社会福祉法人尚徳福祉会理事)

公共のための都市型クリニック:その歴史と未来

ナビタスクリニック15周年、鉄医会10周年を迎えた今年、節目の人事異動として私が新理事長に任命されました。当法人の始まりは17年前、東京大学医科学研究所特任教授だった上昌広先生(現NPO法人医療ガバナンス研究所理事長)を中心とする、医師の有志グループに遡ります。当時参議院議員の鈴木寛先生(元文部科学副大臣、現在東京大学教授、慶応義塾大学特任教授)が発案されたのが、都市部の勤労世代や女性、子供といった方々が気軽に受診しやすい、主要駅を基点としたクリニックでした。その考えを軸に2006年11月、東京大学発ベンチャーとして、新宿駅西口に「コラボクリニック」が期間限定で開設されました。鈴木寛先生主宰の大学横断型ゼミの学生さんたちと一緒に作り上げた、いわば「パイロット版ナビタスクリニック」でした。
その成功と経験をふまえ2008年6月、「ナビタスクリニック」が立川駅エキナカに発足しました。2012年には川崎駅と東中野駅にも開業し、翌2013年、東京都から設立認可を受け「医療法人社団鉄医会」が発足しました。2016年に東中野院を新宿駅へと移し、現在に至ります。
実務を担当する医師として、上先生の東京大学医科学研究所の研究室スタッフから輪が広がり、松村有子先生や高橋謙造先生、久住英二先生、細田和孝先生、濱木珠恵先生、岸友紀子先生、私など、続々と参加者が集まりました。さらに、東京大学大学院生から当法人研究部長になった瀧田盛仁先生や、坪倉正治先生、尾崎章彦先生など、次世代の医師もどんどん育っています。
この発展は、アインファーマシーズの持株会社である株式会社アインホールディングス代表取締役社長の大谷喜一様、エキュートを運営するJR東日本ステーションリテイリング元代表取締役社長の鎌田由美子様、JR東日本副社長からルミネ社長などを歴任された新井良亮様、独立行政法人国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院元院長で現学校法人国際学園星槎グループ理事長の土屋了介先生など、様々な方々のご支援の賜物です。
現在、さらに成熟した組織へと成長を遂げるにあたり、レクタス株式会社代表取締役の斧原邦仁様、ウエキ税理士法人税理士の上田和朗先生、元厚生労働省官僚・元内閣法制局でクラノス株式会社代表取締役の新俊彦様にもご参画頂き、長期的な運営基盤強化を計っています。
公益性の高い組織として、新店舗出店や人材育成、医療サービス研究を通じたエビデンスに基づく医療など、医療提供体制の更なる向上を図りつつ、未来に向けての進化を目指します。

 
●曽我心之
(ナビタスクリニック患者家族)

我が家の医療的大黒柱

筆者の子どもは、胆道閉鎖症という基礎疾患で、乳児期に肝臓移植済みである。免疫抑制剤を服用しているため、人一倍感染症などに注意を払う必要がある。普段の生活で子どもが体調不良となった場合、その治療や処方については、移植の主治医と緊密な連携が必要である。また、同居する家族が感染症などに罹った場合は、子どもへの感染予防の点からも自宅内隔離などを行わなければならない。子どもを感染症から守るためにも、同居する家族の予防接種その他、医療の知識や情報なども重要である。ナビタスクリニックでは、筆者の事情を理解した上で、移植主治医の推奨する初期治療の対応などをしてくれる。それにより、筆者と患児の負担が和らぎ、症状の悪化もなく早期に軽快することとなり、生活のQOLが改善した。こうした対応のなかで、筆者にはナビタスクリニックの医師へ全般の信頼感が生まれ、子どもだけではなく、家族の日頃の体調不良の相談などもするようになり、「かかりつけ医」として家族の健康管理、医療相談について欠かせない存在となった。
未曾有のパンデミックでも、我が家にはかかりつけ医の存在が非常に心強かった。コロナ感染症流行下でも子どもへのワクチン適応がまだされない初期の頃は、筆者の家庭事情を知る「かかりつけ医」として、適切な医療アドバイスとワクチン接種の対応をしていただいた。緊急事態宣言下の在宅勤務で家族が軽度の抑うつ状態になった時も、心療内科ではなく、日頃から信頼しているナビタスクリニックの「かかりつけ医」に相談して、早期に仕事を休むアドバイスをいただき、薬で体調を整えた。それによりメンタルが悪化することなく、仕事に復帰できたことは幸いであった。
筆者が初めてナビタスクリニックを受診した時はまだ幼稚園児だった子どもは現在、思春期を迎え、先生に愚痴を聞いてもらうほど信頼している。ナビタスクリニックの存在は、まさに我が家の医療的大黒柱である。

 
●山田絢子
(ドクターメイト株式会社事業推進グループ)

「社会を変える」を仕事にする ―18歳の私がコラボクリニックで学んだこと―

「おもしろい大人がいるから会いにいかない?」東京大学に通い始めた友人からもらったひとこと、それが私の人生を変えた。18歳だった私は、第一志望だった東京大学理科二類の入学試験に落ちた。人生で初めての挫折の中、憧れの大学に通い始めた友人からもらったひとことが、冒頭の言葉である。連れて行かれたのが、今の医療ガバナンス学会の前身である「東京大学医科学研究所 上研究室」。総勢15名ほどの学生が会議室に集まる中、一際大きい声で「みんな良くきたね」という声と共に現れたのが、18年前の上昌広先生だった。その隣には、鈴木寛先生もいたと記憶している。
そこからの話はこうだった。日本には医療難民がいる。この国の経済を支えるサラリーマン、次に子育てをする母親。今の日本の病院は、平日の17時までしかやっておらず、待ち時間が3時間、治療は5分。日本の未来を支える人たちが医療を受けられない現状を変えるのだ。仕事の休み時間にサッと受診できて、質の高いサービスを受けられるクリニックを、世界一の利用者数を誇る新宿駅前で実験する。学生の力も貸してくれ。
そこから毎日、クリニック開業の準備が始まった。色々なチャレンジをしたので、詳細はシンポジウム当日にお話させていただきたい。ビジネスプロフェッショナルたちの貴重な指導も受けながら、足を動かし、知恵を絞り、4ヶ月が過ぎていった。11月、いよいよクリニックオープン。先輩の女子大生Hさんが受付に座り、学生たちは周辺で待機。ひとり、またひとりと、受診してくれる患者さんを見ながら、キツかったけどやってよかった、なんとかオープンできた、その安堵が大きかったと思う。開院から1年ほどで、コラボクリニック新宿は閉院した。そして2008年6月、「ナビタスクリニック立川」がJR立川駅のエキュートに開院した。
「社会が変わる」そう確信できたのはこの時だった。日本人なら誰でも知っている「JR」の駅中に、小さな実験から生まれたクリニックができた。患者さんが来てくれることは容易に思い描けた。時は経ち、コラボクリニック開院から17年。今はもう、夜や土日に開いている、予約のできるクリニックは当たり前になった。
現在、私は36歳。当時の上先生と同じ歳になった。介護と医療の領域で「持続可能な介護の仕組みを作る」チャレンジをしている。社会課題を解決するというのは、並大抵のことではない。領域・ビジネスの専門家が集い、情熱とリーダーシップをもって、大きな渦を作り続ける必要がある。「未来の当たり前」を作るのは私たちの手にかかっていると、自身にプレッシャーをかけながら、これからも取り組んでいきたい。

 
●瀧田盛仁
(医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック立川内科医師、医療法人社団鉄医会研究部長)

医療サービスの「コンビニ」コンセプト:その実践と課題

ナビタスクリニックの原点は、東京大学医科学研究所の一研究部門に集った大学生らによる、都会に最適なクリック像の議論にある。この議論から、「患者さんの『生活動線』に位置し、無理なく受診可能な『時間』に診療している」クリニックという、従来は実践困難であった新しい診療所のコンセプトが誕生した。現場からの医療改革推進協議会第1回シンポジウム(2006年)においても、「メディカルコンビニ」という用語で議論されている(上昌広「医療サービスと生活動線〜がん治療をモデルとした新たな医療提供体制の研究〜」)。これらの議論を基盤に、「コラボクリニック新宿」での経験を経て2008年、ナビタスクリニック立川が開業した。即ち、都会の「生活動線」である鉄道駅に存在し、勤務や通学の帰り「時間」に受診できるクリニックの実践である。
現在、医療法人社団鉄医会は、立川、川崎、および新宿駅に診療所(ナビタスクリニック立川・川崎・新宿)を開設し、医療サービスを展開している(診療科:内科、小児科、皮膚科)。2017年から2022年までの5年間の受診者統計では、最も多い患者年齢層は25歳から29歳であった。さらに、受診時間を集計したところ、午前10時台および午後6時から7時台に患者数がピークを迎えることが明らかとなった。なお、本邦の一般外来診療者で最も多い患者年齢層は、70~74歳である(厚生労働省、患者調査2020年)。
即ち、全国統計と当法人では、受診者年齢層に大きな違いがある。このことは、全国集計では明らかにならない医療ニーズが都会に存在することを示唆している。私はナビタスクリニック立川で診療しているが、実際、夕方から夜間に家族連れで内科・小児科を受診する光景をしばしば目にする。
臨床雑誌『NEJM』の姉妹紙である『NEJM CATALYST』(https://catalyst.nejm.org/)は、「UCLAヘルス」(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]の関連医療機関およびヘルスケアネットワーク)が、近年、3つのショッピングモールに診療所(Retail Clinic)を設置した事例を取り扱った(DOI: 10.1056/CAT.22.0233)。大学病院であっても、患者さんのニーズに合わせた経営を模索しており、経営努力の結果、患者さんから選ばれているのであろう。この事例においても、患者さんの「生活動線」と「時間」がキーワードであった。一方、課題として、疾病患者がショッピングモールに行くことへの配慮や、モール開店時間に合わせて診療所スタッフを確保することの困難等が挙げられていた。
今後の課題は、このような世界に共通する「コンビニクリニック」の課題に加え、災害対応と考えている。東日本大震災(2011年)では、帰宅困難者への医療ケアが課題となった。公共性の高い交通のハブ駅で医療に従事している者として、今後も利用者の医療ニーズを明らかにし、利便性を向上させる努力を続けるとともに、災害等の緊急事態への対応策に関する研究を進めたい。

 
●新井良亮
(公益社団法人日本鉄道広告協会会長)

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