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Vol.23211 現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム 抄録から(13)

医療ガバナンス学会 (2023年11月21日 15:00)


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2023年11月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十八回シンポジウム

11月26日(日)

【Session 16】
絶滅するがん外科医--冬の時代と多様性 17:00~18:05 (司会:尾崎 章彦)

●遠藤通意
(三豊総合病院 初期研修医2年目)

外科への道:私の葛藤と決断の背景

私の医師としての歩みは、他の同世代の医師たちとは少し異なるかもしれません。まず、医学部在学中に親のがんと死という大きな経験をし、臨床医としての道に深い迷いを生じました。学生時代の実習にも正直、十分な魅力を見出せず、特に外科は過酷な印象が拭えませんでした。さらに臨床の現場に足を踏み入れても、「外科は大変だ」という声が周りから絶えず聞こえてきました。こうして外科への道からは一時期、完全に遠ざかっていたのです。
しかし研修医として日々を過ごす中で、親の罹患と逝去に際し「患者サイドとして関わった医師」としての自覚が、私の心の中で大きくなっていきました。親のがんによる死が最終的に、自分が医師として働き、がんを扱う科に携わる覚悟を決めさせる出来事となったのです。
特に外科を志望した背景には、集中して目の前の難題に向き合い、乗り越える姿勢が、自分に向いているのではという気づきがありました。外科手術は、誤解を恐れず言えば、スポーツ競技にも通じる集中力と挑戦心が求められます。無事成功した際の達成感も同様です。上級医からの高評価や手術の際の達成感を経験し、次第に腹が決まりました。
現在、私を悩ませているのは、次の専門研修先の選定です。あえて生まれ育った地から離れた西日本で経験を重ねたい意思はありつつも、どの医療機関が私に最適なのか、難しい決断を迫られています。27歳という年齢で、自らの未熟さ、成長の必要性も痛感しています。加えて、医師としての働き方や生き方、例えば過労やストレス、そして、ライフイベントについての悩みも尽きません。
今回は、2年目の医師として、診療科選択を通じた私の葛藤や考えをお話しさせていただきます。

 
●尾崎章彦
(公益財団法人ときわ会常磐病院乳腺甲状腺外科診療部長、医療ガバナンス研究所理事)

外科医の生き残り戦略としての地域医療

外科医がそのスキルを向上させるにあたって重要視される一つの要素は、十分な数の症例の研鑽を積むことである。それを実現するための近道は、一般的には、ハイボリュームセンターに勤務することだ。しかし、ハイボリュームセンターには、その症例やスキルを追い求めて多くの外科医が集まる。その結果、一人当たりの症例数はそれ以外の医療機関と大差なくなってしまったり、責任ある立場で診療に携わることが難しいこともある。その点、外科医のキャリアパスの一つとしてあり得るのが、外科医が不足している地域で新規に診療科を立ち上げることだ。
私は2010年に大学を卒業後、2012年以降、一般外科医として勤務しながら、乳腺外科をサブスペシャリティーに定めた。2017年にがん研究会有明病院の乳腺外科での国内留学を経て、2018年、いわき市の常磐病院にて乳腺外科を立ち上げた。当院の乳癌手術症例は2018年の34例から2022年には108例まで増加し、県内でも第4位の規模に成長した。その過程で私は、右往左往しながらも責任者として治療に携わり、結果として外科医として多くの症例を経験し、成長することができた。これをベースに少しずつ活動の幅を広げ、2021年からは甲状腺の手術も開始、今年は40例を超える見込みである。
このような戦略が有効であった背景として、福島県いわき市が東北屈指の規模を誇る自治体でありながら、乳腺専属で勤務する医師が数名しかいなかったことが挙げられる。また、乳腺外科が他のサブスペシャリティーと比較し、手術難易度や合併症リスクの低いことも重要だ。無論、院内外の多くの方々にサポートいただいことは感謝の念に堪えない。
外科医不足は、特に地方で深刻である。2016年に日本臨床外科学会が実施した全国アンケートでも、全国45の地方支部のうち32支部が、医師不足が大きな問題になっていると回答していた。その点、着目すべきが、大学医局に入局しないであろう外科医の存在だ。事実、2023年に日本専門医機構傘下に設置された246の外科領域専門研修プログラムのうち、150は大学とは直接関係していない。このようなプログラムを卒業した後に、上述のキャリアパスを取る外科医が増えれば、状況の改善につながる可能性がある。

 
●水野靖大
(マールクリニック横須賀院長、横須賀市医師会理事がん検診統括長)

胃がん撲滅へ向けて 〜胃がん対策のパラダイムシフト〜

横須賀市では、2012年度より「胃がんリスク層別化検診」、2019年度より「中学2年生のピロリ菌対策事業」、そして2023年度より「20歳・30歳の胃がんリスク検診」を市の検診事業として行っている。検査方法、対象年齢、本人負担額などはそれぞれの検診で違っているが、要するに胃がんの確実発がん物質である”ピロリ菌”をチェックしようという趣旨である。しかし、その目的とするところに違いがある。
「胃がんリスク層別化検査」は、40歳以上のピロリ菌陽性者をチェックし、陽性者に胃カメラ検査を行うことで効率的な胃がん発見を目的としている。加えて、副次的効果として除菌による胃がん発症抑制も狙っている。「中学2年生のピロリ菌対策事業」では、胃がんを発見することは全く期待していない。それどころか、この事業は中学2年生には胃がん患者はいないことを前提としたスキームになっている。目的は、中学2年生にピロリ菌除菌を行うことで胃がん発症リスクを極限まで下げることだ。併せて、子育て世代前の除菌で、次世代へのピロリ菌感染の伝播を防ぐ意味合いも持つ。「20歳・30歳の胃がんリスク検診」は、前2つの中間的な色合いで、主目的は次世代へのピロリ菌感染の伝播防止にある。併せて、比較的若年での除菌による胃がん発症リスクの低減、そして頻度は少ないが胃がん発見といった目的も持つ。
胃がん対策は、これまでの早期発見に加えて、除菌による高リスク群の胃がん発症抑制、さらには高リスク群にならないためのピロリ菌感染の伝播防止と、様々な角度からアプローチできる。横須賀市ではこれらの検診を組み合わせて「胃がん撲滅」という目標に少しでも早く到達できるよう努めている。
今回の発表では、これらの検診について方法、結果および改善点を報告する。

 
●上原圭
(日本医科大学付属病院消化器外科講師)

命を懸けた骨盤拡大手術にあたる、患者と医師の信頼と覚悟

私は主に直腸がんを扱う消化器外科医である。骨盤には直腸以外に、膀胱・子宮・卵巣・前立腺など、沢山の臓器が鮨詰め状態である。その中で“がん”が進行・再発すれば、たちまち周囲の臓器に浸潤する。まさに火事の延焼である。抗がん剤や放射線治療が発達した現在でも、唯一、手術で病変をすべて切除するのが、治癒や長期生存に繋がることも多い。こうした拡大手術は昭和時代には花形であったが、高難度・長時間手術かつ高い合併症率・煩雑な術後管理などの点から、現代社会ではblackで泥臭い仕事として人気がないのは必然である。私自身は喜びを感じながら拡大手術をライフワークとする中で、現代の医師と患者の信頼関係について大きな不安・不満を感じている。
骨盤手術では時に、人工肛門、人工膀胱、妊孕性喪失、性機能障害など人間の尊厳に関わる取捨選択を迫られる。手術を受けるか否か、利点・欠点を天秤にかけ、医師の説明をもとに患者自身が人生観に沿って決定すべきである。楽な道はなく、正解もなく、医師と自身の選択を信じるしかない。医療はゼロリスクではなく、リスクの選択である。リスクを受け入れ、医師との信頼関係を築けている患者がどれほどいるのであろうか?
訴訟リスクを抱える現代、病院や外科医は困難手術を避ける傾向にある。すべての病院で困難手術を行う必要はないが、誰かが行わなければ、患者の不利益となる。一方、外科医は安全に高難度手術を施行できるか否か、自身・手術チーム・施設の技量や経験を客観的に評価する義務があり、困難手術だからこそ安全を担保するのがprofessionalである。「やってみたい」という“功名心”は危ない橋であり、目の前の患者を自分の大切な人に置き換えて、何とかしたいと考える気持ちを忘れないで頂きたい。
現代の日本に失われた、患者と医師の信頼関係はどうなるのか? 恩師の名古屋大学名誉教授二村雄次先生が、患者の「お願いします」の言葉に、「塩梅良う(あんばいよう)やっときますで」と答えた時の、安心した患者の表情を忘れられない。お互いの信頼関係の再構築には、患者側はリスクの許容・選択という考えを受け入れ、医師側は「病を診ずして病人を診よ」の心を取り戻すことが必要ではないか。

 
●齋浦明夫
(順天堂大学医学部消化器外科学講座主任教授)

外科の要である消化器外科の現状と将来展望

日本の外科医の数が減少しています。私は消化器外科医、肝胆膵外科医として、現状と今後の対策について考えたいと思います。日本の外科レベルは世界でトップクラスです。外科医は生命にかかわる緊急事態が多く、常に高い緊張感のある職場であり、時間外や休日にも働かなければならないことが一般的です。高度な外科技術を習得するために多大な努力と長い年月が必要であり、新しい技術にも適応していかなければなりません。一方で、消化器外科医は地域医療において消化器疾患中心に総合医としての役割も果たしてきました。消化器外科は充実感のある職場であり、高評価とは言えない中でも熱意をもって医療に従事してきました。しかし現在、入局者が減少し、このような献身的な医師たちも高齢化や過労の問題に直面しています。
外科医の数が減少している主な原因は、過度な労働負担と低い評価、2004年に導入された新医師臨床研修制度、および医療の専門分化です。手術の質を評価することは難しい課題です。現行の医療制度には、手術後の合併症が医療費を増やすメリットとなるという矛盾が存在しています。適切なアウトカムを設定し、それを向上させる技術に対しては、保険点数の加算などの具体的な評価が必要です。例えば、肝胆膵外科の専門医がいる施設での手術は、死亡率が低いことが示されています。これらの施設で行う手術やそこで働く専門医に対して、適切な評価が必要でしょう。過度な労働負担に対処するために、サポート体制を充実させ、特定看護師などを導入し、業務の効率化を進めるべきです。医療の専門分化は医療の向上に不可欠ですが、一方で、オールマイティーな外科医が内科的な役割も担う場合にも、評価が必要です。
これまでの情熱と献身に依存する医療から、時間や仕事量だけでなく質も適切に評価することが、将来の持続可能な外科医療を支えるものと考えます。さもなければ 外科医は絶滅するでしょう。

 
【閉会のご挨拶】 18:05~18:20

●土屋了介
(公益財団法人ときわ会顧問、株式会社エムティーアイ社外取締役)

 

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