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臨時 vol 91 「「技官制民主主義」」

医療ガバナンス学会 (2009年4月22日 11:40)


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           ―日本は民主国家か―
           さとう歯科医院 院長
           NPO法人みんなの歯科ネットワーク会員
           http://www.minnanoshika.net/
           佐藤和義
※今回の記事はみんなの歯科ネットワークhttp://www.minnanoshika.net/
 のコンテンツから文面を加筆修正しました。

中医協の公益委員の人事が参議院で不同意となった。これまで中医協の公益委員が不同意
となったことはない。ねじれ国会の為せる技ではあるが、不同意の理由に中医協の、もっ
といえば日本の医療行政の問題点が凝縮されている。
キャリアブレインによれば、民主党で不同意を提案した足立参院議員は、大きく2 つの理
由を挙げた。まず、中医協公益委員就任後に開かれた会合について、43 回中8 回欠席して
おり、欠席回数が最も多かったことがひとつ。もうひとつは、厚労省の別の諮問機関で、
座長として、決まった結論に導きたいという運営をしているように見えたことである。
「中医協のあり方、存在そのものが問題だという意識を皆さんが持っていると思う。にも
かかわらず、現時点では、国会議員としてできることは中医協委員の人事の同意、不同意
しかない。今回の不同意は、中医協はこのままではいけないという問題提起の意味もある」
(足立氏)。
朝日新聞は2009/02/27 付けの朝刊で、「密室での値決め国民の不信解消進まず」と
いう記事の中で、
「『値決め』は、表向きは医療団体や保険者らが入る中医協を舞台にしつつ、『専門性』
が必要とされ、事実上は医療技官と一部の専門家が担って関係者間の利害調整が優先され
た。」
「医療行政での『専門性』は、政治の不当な介入を最小限に抑えるには都合がよかったと
も言える。ただ、診療報酬という『パイ』が増え続けた時代はとっくに終わった。より良
い医療を求める声は高まる一方で、『負担増』が避けられない時代に、公的保険への支持
を保つには『負担が密室でのさじ加減で決まっている』という国民の不満を解消すること
は急務だ。それなのに、いまだに狭い世界での『調整』に四苦八苦しているのが現状だ。」
と報じている。
中医協の委員は、医師、歯科医師及び薬剤師を代表する委員-7 人 ・保険者等支払い側を
代表する委員-7 人・公益を代表する委員-6 人 の20 人をもって組織されている。いわ
ゆる三者構成になっていて一見民主的にみえる。委員は、厚生労働大臣が任命することに
なっているが、要するに厚労省が決めている。参議院で不同意になった例に代表されるよ
うに、公益代表委員に、厚労省の意向に沿わない人間が選ばれるとはあまり考えられない。
過去に収賄で逮捕された委員が厚労省の元事務次官だったことや保険者の多くに天下りが
いることを考えれば、支払い側代表委員も厚労省の代弁者かもしれない。
医療提供者代表がこれらのひとたちと戦う覚悟で議論を挑めるのなら、まだいいのかもし
れないが、表立っては厚労省には異を唱えられない。現行制度では、保険医療費の総予算
額は内閣が決定することになっているが、実質的には財務省が決めているのだろう。その
財務省と交渉するのが厚労省である。つまり、厚労省の意向に逆らうと予算が回って来な
くなってしまうかもしれないのである。
健康保険法には、
第七十二条 保険医療機関において診療に従事する保険医又は保険薬局において調剤に
従事する保険薬剤師は、厚生労働省令で定めるところにより、健康保険の診療又は調剤
に当たらなければならない。
第七十三条 保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は
健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない。
とあり、
厚生労働省令である保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下、療担規則)には、
第十八条 保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定める
もののほか行つてはならない。
とある。
予算が回ってくるということ以前に、「保険医」は厚労省の「いいなり」でないと保険診
療ができない。結局、厚労省のこの諮問機関は厚労省が思うような結論しか出さない構造
になっているように思われる。中医協は、診療報酬を決定していて、点数の設定を通じて
保険給付の範囲さえも決めており、日本の医療保険制度のあり方を決定する”唯一”の場
である。しかし、実態は「中医協は、事前に厚生官僚が関係者と話し合った結果を審議す
るセレモニーの場」と見る向きも少なくないのである。
日本の医療政策は、中医協というセレモニーを通して、実質的には厚労省が「全て」
を決めているのが実態である。
厚労省は政策を決めるだけでなく、その「運用」も担っている。厚労省が技官として採用
して、各都道府県にある厚生局の事務所に配置された指導医療官がその役を担っている。
この指導医療官が保険医の指導、監査を行い、保険医停止等の処分も決めている。保険診
療の細かい「ルール」も実質的には指導医療官が決めている。つまり、細かいルール決定、
摘発、処分を多くの県でひとりの人間が行っているのである。これは、江戸時代の奉行と
一緒であり、近代国家の体を成していない。
国家の権力を立法、行政、司法の三権に分けた三権分立は有名だが、これは、国家の権力
を性質に応じて分け、それぞれを別個の機関に分散させ、各機関に他の機関の越権を抑え
る権限を与え、相互に監視しあうことにより抑制均衡を図り、もって権力の集中・濫用を
防止し、国民の政治的自由を保障させようとするシステム、権力分立の考えに基づいてい
る。
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
逆にいえば、権力が集中すると国民の政治的自由が保障されないということである。
江戸時代を考えれば、権力集中が理解しやすい。江戸幕府の役職である町奉行(江戸町奉
行)が、江戸市中に施かれる法を定立し、行政活動を行い、民事・刑事の裁判も行ってい
たことは、その典型である。「遠山の金さん」が良いひとならいいが、悪いひとだった場
合でも庶民は異を唱えることができない。「生類憐みの令」のような悪法にも従わなけれ
ばならなかったのである。お上には間違いが無いということが間違いなのは、現代に生き
る普通の日本人には理解できるはずであるが、「水戸黄門」や「遠山の金さん」に人気が
あることを思うと日本人の「お上信仰」は根強いのかもしれない。
罪刑法定主義 (出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
「いかなる行為が犯罪として刑罰の対象とされるかが予め明らかになっていなければ、国
民の私生活上の自由は大きく制約されてしまう。そして、いかなる犯罪行為にいかなる刑
罰が科されるかが予め明らかになっていなければ、刑罰を執行する者が自己に批判的な言
動をする者に恣意的に重い処罰をして弾圧の手段としかねない。更に、いかなる行為にい
かなる刑罰を科すかは、国民の私生活上の自由に重大な影響を及ぼすから、国民の直接の
代表者である国会の意思に基づくべきである。そこで、現代国家では、ある行為を犯罪と
して処罰するためには、その行為がなされる以前に、国会の定める法律又は法律の個別具
体的な委任に基づく命令によってその行為を犯罪とし、これに科されるべき刑罰を規定し
ておかなければならないという理念を罪刑法定主義という。」
要するに、ルールも決めて処分もできる指導医療官に保険医は「批判的」な意見をいうこ
とは難しい。過去の指導医療官の言動がこのことを証明している。
古来、国家権力は民を「管理」しようとするものだが、そのため現憲法は、国民が国を縛
るようにできている。「基本的人権」を侵すのは国家権力であり、国家権力から国民を守
るために憲法は存在する。しかし、現在の日本では、医療を国家権力が画一的に管理しよ
うとしすぎている。あらゆる政策が役所主導で決定している現状を「主権在民」とはいわ
ないし、「基本的人権」が尊重されているとは思えない。保険診療の世界においては、厚
労省が江戸幕府並みの権限を持ち、その世界の住民(保険医)は江戸時代の庶民と同様な
のである。現行の中医協を柱とした医療政策の決定、運用の仕方は、民主的だとはとても
いえない。
医療政策が民主的に決定、運用されるたねには、医療制度上の権限を分立させなければな
らない。少なくとも、ルールを決めるところと処罰を下すところは明確に分かれていなけ
ればならない。また、ルールを決めるところと費用を決めるところも分かれている必要が
ある。財政が苦しいといってルールが変わるのでは現場が混乱するだけだろう。
例えば、
「ルールを決めるところ」は専門家(学会)をいれた議会のようなところ。
「処罰を下すところ」は第三者をいれた強制加入団体。弁護士会と医道審を合わせたよう
なところ。
「費用を決めるところ」は委員の選考方法を「公正」に変えた三者構成の中医協のような
ところ。
というように、権限を分立させたらどうだろう。
(この”三権”分立については、後日続編として詳述する予定。)
財政のことしかわからないと公言するひとが、イニシアティブをとっていたり、委員長が
退任の際、事務局主導だったと挨拶する諮問会議で、国の政策のほとんどが決定している
現状は、民主国家として異常である。国民(患者)と医療提供者とが、真に開かれた場で、
対等に意見を交わせるようにし、その結果、民主的に決定された政策を行政が民主的に運
用できなければ、社会保障としての医療政策に明るい展望があるとは思われない。

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