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Vol. 1 政界再編に向けて新しい器の結成を

医療ガバナンス学会 (2011年1月2日 06:00)


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-日本のリーダーとなれる人材の政界参入を促進するために-

大樹総研特別研究員・執行役員
(元財務省官僚)
松田 学
2011年1月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●政治改革の課題と小選挙区制度

日本の政治の現状を嘆く人々がますます増えてきた。政治がその本来の機能を果たしていないという見方は、いまや国民の共通認識にもなっている。日本では すでに長年にわたり、政治改革が進められてきたが、にも関わらず、なぜ、国民の政界に対する不信感や白けが払拭されないのであろうか。
日本の政治改革は、かつての金権政治や派閥政治への批判、あるいは「55年体制」政治システムからの決別などが掲げられながら進められてきたが、日本の 政治の何をどのような姿に変えようとするのかという点について、近年、議論の最大公約数として収斂してきたのが、「マニフェスト型政治」という理念型であ る。

それは、いわば、かつての自民党一党独裁の下での利益誘導型政治、金権政治、官僚主導型政治などの言葉で代表されてきた日本の政治風土を、国民が政策選 択を通じて政権選択を行う政権交代可能なシステムへと変革することであり、それをマニフェストサイクルの確立で実現することで、有権者本位の政治主導をも たらそうとするものであるといえる。例えば、マニフェスト評価で定評のある言論NPOは、有権者のエージェントとして、自らがマニフェストサイクルの起爆 剤となることで、日本に真の民主主義を定着させる上での「インフラ」となることを目指して活動を続けている。
確かに、その方向それ自体は正しく、日本の現行の小選挙区比例代表制度は、マニフェスト型政治が前提とする政権交代可能なシステムとも適合する制度という位置づけになる。

しかし、他方で、中選挙区制度から小選挙区を中核とする現行制度に転換したことの弊害を指摘する声が聞こえてこないわけではない。とりわけ多いのは、小 選挙区になってから国会議員が小粒になった、人気取りパフォーマンスには長けているが、日本のリーダーにふさわしい人材が政界から払底するようになったと いう声である。その声は、既存の政党に対する失望感ともあいまって、多くの有権者の間に広がっている。

背景として指摘されているのは、例えば、二大政党を軸とする小選挙区の場合、選挙結果が時の風に影響されやすく、時の風次第で票差が行って来いで大きく 出てしまうこと、中選挙区などと異なり、選挙区内での当選に必要な得票率のハードルが高く、誰からも好まれる人気者でないと当選が困難なことなどである。 その結果、政治活動が狭い地域でのドブ板型になる傾向がかえって強まってしまったとも言われている。タレント的な著名人や強い後援会組織に担がれた二世三 世でない限り、衆議院議員の関心は国政よりも、選挙区へと向かわざるを得ない。新人候補にとっては、街頭演説や地元回りなどで選挙区でのプレゼンスを高 め、「あいつはなかなかがんばっている」との印象をできるだけ多くの地元有権者に与えることが選挙戦略の中軸になってしまう。

結果、選挙は政策や人物の中身ではなく、可愛い気とさわやかさと熱心さの競争になり、一人の議員で地元の全ての要望にデパートのように応えねばならない 状況は、政治家をして得意な政策分野を掘り下げてエキスパートになることを困難ならしめているとも言われている。たった一人の枠に向けて選挙に当選するた めに新人は地元で地べたに這いつくばるような活動を何年も続けねばならず、当選後も、政治家としての名声や地盤がよほど強固になるまでは、それを続けるこ とが最大の仕事であり続けることになる。それが、政界で実質的な影響力を持ち得るまでに何度も当選を重ねなければならない当選回数序列制と相まって、新人 が政界に参入することの魅力を低下させる原因になっている。

いかに政策コンテンツを有し、国家のために高い志を抱く有能でリーダーシップが期待できる人物的にも優れた人材であっても、現実問題として、小選挙区に おいて長期間にわたる上記のような政治・選挙活動が可能になるためには、相当な資金的裏づけが欠かせない。これでは、どれだけ政治資金への規制を強めて も、政治とカネの問題は一向に解決できないであろう。むしろ、金持ちか、裏側での資金集めの機会に恵まれた者だけが政界への参入が可能という状況を招きか ねない。

このような現実を前に、有為な人材であればあるほど、現在の地位や持てるものを全て捨ててまで、政界に参入しようとは思わなくなっている。諸外国には、 国政選挙に落選しても官庁や会社に復帰できる制度を採る国もみられるが、それが実際に不可能な日本では、政界への人材参入は、本人にとってリスクがあまり に大き過ぎる。

日本の「政治の失敗」は、消費税率の引上げの時宜を逸し続けてきたことだけではない。政界に政治家にふさわしい人材を獲得し、日本の政治リーダーを輩出 する仕組みの構築に失敗してきたことも、戦後政治の失敗だったのかもしれない。もちろん、今の政界にすばらしい人材がいることを否定するものではないし、 小選挙区導入後も、優れた議員は多数誕生している。しかし、そうした方々が払っている犠牲も相当大きいのではないか。少なくとも、多くの人材の政界への新 規参入が起こるべくして起こっていないのは間違いない。政治を有為な人材が参入し、活躍できる場にするにはどうすればよいか、そろそろ真剣に考えなければ ならなくなっているのではないか。

●比例区に基盤を置く「公約党」の結成

こうした課題に対しては、様々な解決方法が考えられよう。現在、国会議員の議員定数の削減とともに、かつての中選挙区に近づける方向での選挙区制度の改 革提案も出されている。例えば、たちあがれ日本は「原則3名の新たな中選挙区制」を提起している。選挙活動のあり方にも様々な改革の余地があろう。落選し ても元の職場に復帰できるような雇用システムも実現しようとすればできないことではないかも知れない。

しかし、いずれも制度や法律、社会システムなどの改編を伴わざるを得ず、それには大変なエネルギーと時間を要する。制度面での理想を追求する一方で、そ れが実現するまでの間は、現行制度の下でも実現可能な道を模索しておく必要がありそうだ。少なくとも現状のままでは、政治が国民に本物の選択肢を示すこと なく、政治への絶望感が蔓延する中で、有権者は次の総選挙を迎えるということになりかねない。

そもそも、小選挙区制度の前述のような弊害は、現行の全国各ブロック毎の比例代表制が補い得るものであった。しかし、実際には、それは小選挙区での候補 者が惜敗率の関係で比例区で救われる制度としてのみ機能し、比例区が発揮できるはずの本来のメリットが活かされていない。ここに着目して、有為な人材の受 け皿として新たな政党を結成してみてはどうか。

現行制度の下でも、日本の有権者には、小選挙区での候補者とは別に、政党名を書いて投票する選択肢が比例代表制によって与えられている。それを有効に活用する方策として、例えば、次のような政党をマニフェスト政策集団として結成することが考えられないか。

(1)マニフェストを中軸に据える。しっかりとした政策論に裏付けられた、質が高く、有権者に明確なメッセージを伝えられる本格的なマニフェストを作成 し、それを実現することを目的とする政党とする。趣旨としては「マニフェスト実現党」であるが、日本の有権者に分かりやすい政党名として、例えば「公約 党」(仮称)を掲げる。

(2)小選挙区については、公約党は、原則として候補者を立てず、公約党のマニフェストに賛同する候補者が存在しない小選挙区にのみ候補者を立てる。選挙 に際しては、全国の全ての小選挙区候補者に公約党のマニフェストに賛同するかどうかを問う。対立候補を立てられたくない候補者たちとしては、このマニフェ ストに賛同を表明するケースが多いと考えられ、結果として、公約党が候補者を立てる小選挙区は少なくなるだろう。

(3)比例区には、公約党の候補者を立てて、名簿に掲載する。公約党が公認する候補者は、比例区であれ小選挙区であれ、政治家としての資質について厳格な 審査を行い、真に日本の政治リーダーにふさわしい人物を選定する。(少なくとも「金権政治家」などは排除される。)そこには、日本の各界に埋もれた多くの 新しい優れた人材を取り込む。

(4)選挙後に目指すのは、党派に関係なく、公約党のマニフェストに賛同した議員によって新政府を組閣することである。

(5)公約党は、選挙に際して、「実力内閣」の組閣名簿を公表する。その名簿のそれぞれ大臣等のポストには、党派等に関係なく、人物本位で、そのポストに 真にふさわしい人物を複数掲載する。例えば総理大臣であれば、大物の総理経験者、あるいは、各政党の党首や幹部のうち真に総理の資質を期待できる政治家を 数人選定して並べる形が考えられよう。

●政策本位の政界再編へ

選挙によって実際に公約党が比較第一党とならないまでも、こうした器が存在するようになることが重要である。どの政党とも小選挙区で真っ向から対立関係 に立たない政治勢力が存在すれば、既成政党のしがらみや党利党略を超えて、日本のために政治が何かを成し遂げなければならないときには、それが重要な機能 を発揮できることになる。現状のように、政治が不安定な際にも、政治の安定化のために役立つ器となり得るかもしれない。少なくとも、政界刷新の起爆剤とな ることが期待できるのではないか。

特に、今日のように、多くの有権者が既成の政党に失望し、その受け皿となる第三極の形成も不十分な状況にあっては、こうした斬新で、かつ、政党という枠 組みに捉われない、本格的な実力内閣を目指す真面目で政策本位の政党は、一定の支持を得るのではないだろうか。その決め手になるのが、マニフェストの中身 であり、公認候補者の人選やそのプロセスであろう。

公約党の党首は、当初は、できれば政治的に中立で、例えば、多くの国民の信頼を得やすい有識者を立てることも考えられるであろう。その活動は、マニフェ スト広報を全国的に展開することが中軸になる。個々の政治家候補が身をすり減らして資金や票を集めるのではなく、選挙活動はあくまで党が運営するものとな る。公約党の候補者は、売名や資金集めよりも、できるだけ多くの人々と議論を交わし、国民の声を吸い上げながら、マニフェストに基づいて国政で何をどう実 現すべきかを考え抜くことに、より一層専念できることになる。
ただ、「公約党」が実際に有効に機能するためには、いくつかの前提が必要である。

●重要なのは民主主義のインフラの充実

まず、優れたマニフェストの策定とマニフェストサイクルの確立への気運を、有権者サイドから盛り上げていく活動がもっと日本では活発に行われる必要があ る。それは、有権者に明確で現実的な選択肢を責任を持って示し、その実行が担保される政治に向けて、絶えず政界にプレッシャーを与え続ける活動である。

具体的には、各界の指導者や有識者・当事者たちによる知のコラボレーションで本格的な政策論を政治にぶつける場を創り、将来に向けた日本の選択肢の提示 を政治に迫る活動を展開する。また、個々の政治家を、主として国会での議論や議員活動のコンテンツの質の面から評価・採点して公開する活動も重要である。 それらを担う機関を育てる必要がある。本来、こうした装置が政治の外側で機能していることが、民主主義のインフラとして欠かせない。

日本には、有権者の立場に立って政治の実績やマニフェスト、あるいは政治家そのものを評価しようとする機能を本格的に指向する機関が、言論NPO以外に は未だ見当たらない。中立的な非営利セクターが担うこうした活動の事例は、米国など他の先進諸外国では多くみられるところであるが、日本にも、そうした市 民サイドに立った機関による同様の営みがもっと必要である。

また、これまで「マニフェスト」や「公約」という言葉が矮小化され、多くの国民に失望感を与えてきた経緯に鑑みれば、「公約党」を掲げただけでは、これ まで政治に関わらなかった新たな人材が入ってくるだけの魅力には乏しいであろう。政治家としての資質を養い、政界をプロフェッショナル(スペシャリストで はない)としての職能集団へと高めていく仕組みの構築も課題である。

例えば、ポピュリズムとは異なるナショナルインタレストを志向する課題設定や課題解決の思考・行動パターン、国際的なネットワークの中での存在感など、 政治家に求められるはずの資質を磨き、選別を行うとともに、それを経た政治家に一定の資金基盤を与えていくような中立的な機関ができれば理想であろう。

以上のような諸機関が「公」的な(官ではない)、いわゆるパブリックな団体として存在することになれば、そこに集まるのは、特定の政治的立場や利害を超 えた、日本の将来と政治の現状を憂う多くの個人や企業・団体の志に基づく浄財であり人材であろう。そして、それらの運営形態をオープンなものにしていく。

こうして日本の民主主義の成熟に向けた新たな演出がなされれば、その動きと公約党の結成とが連動することで、その立党の趣旨が明確になり、国民からの評 価や名声、政党としての基盤も獲得できることになるのではないか。公約党が一瞬の花火で終わらないためにも、それを支える民主主義のインフラが民の力に よって形成されることが望まれる。

政治改革は結局、有権者の当事者意識の問題に行き着く。そのために何よりも重要なのが、それを触発するような「民主主義のインフラ」を政界の外側に創り 出していく民の活動である。ただ、そうした演出が現実に動き出すためにも、公約党の結成という具体的なモメンタムは、大きな力になる。「日本に本格的な政 治の機能を構築する」という抽象的な目的を掲げただけでは、人々は動かない。マニフェスト型政治の担い手をストレートに掲げる政党を結成することで、それ に向けた目に見える現実的な手段と器と道筋が示されてこそ、求心力が生まれ、資金も人材も集まることになる。

少なくとも、既存の政治家や政党の離合集散によってなされる政界再編に、多くの国民は大きな期待を抱いていないのではないか。公約党のような新たな器の 結成は、国民にしっかりとした選択肢を示す政治への再編に向けた大きな一歩になる可能性がある。もし、それが新鮮味のあるものとして、国民の政治への関心 を取り戻すことにつながれば、少なくとも、理想の選挙制度への改革が実現するまでの間の次善の策にはなるであろう。次の衆議院選挙までに、実現できないも のだろうか。

以上、政界の刷新を考える材料として、一案を提起してみた。

(2010年12月)

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