最新記事一覧

Vol.4 ひとりの勤務医から日本医師会へ

医療ガバナンス学会 (2011年1月5日 06:00)


■ 関連タグ

獨協医科大学神経内科 小鷹昌明
2011年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


12月27日にMRICより配信された、小松秀樹先生の日本医師会長に宛てた”日本医師会長への手紙”を読んだ。朝日新聞の「がんワクチン報道」に関して、医師会として態度を明らかにするよう求めていた。

私のようなひとりの大学病院勤務医師には到底理解の及ばないところではあるが、「日本医師会には、まだまだ超えられない確執のような問題があるのかな」と妙に納得することができた。
小松先生の手紙には、今一歩変革できない日本の医療の問題点が端的に示されていた。それは、一言で言えば「医療者の態度の硬直」である。もっと言うなら、「相変わらず団結できない医療者たち」ということである。

日本医師会は平成21年度、”医師の団結を目指す委員会”の議論の中で、医療者が団結できない根拠として、「医師会設立当初の開業医中心の活動から、そ の後の病院勤務医の増加という医療状況の変化に対応することなく、組織として永年にわたって開業医中心の執行部体制であったことが、現在の勤務医を中心と した多くの医師の日医に対する不満をもたらしている」と総括している。

さらに、「入院医療費の削減策、在院日数の短縮などから勤務医の過重労働が顕著となり、多くの勤務医が厳しい労働環境を嫌って病院から立ち去り、医師不 足がさらに過重労働を招くという負のスパイラルの中で、医師会が勤務医を守ることができるのかという大きな課題が突きつけられている」ということも、しっ かり述べられている。

それにも関わらず、なぜ医療者は団結できないのか?
それは、団結して医療を行うことが、多くの医療機関にとってさしたる利益をもたらさないからである。というより、団結しないことにより、かなりの数の医 療機関が現に損失から免れているからである。医療者であろうと何であろうと、人間は利益のないことはしない。これが、すべての社会問題を考えるうえでの前 提である。

病病連携しろ、病診連携にしろ医療連携の基本は、自分の病院(診療所)で行うことのできる診療の範囲を逸脱した患者の授受ということである。
最近は医療の進歩にともない、延命処置の施された患者や急性期を脱した元(もと)重症患者が急増している。人工呼吸器を装着した患者や、終末期患者の行き場所の確保がとても困難な状況になってきている。

開業医には在宅で療養する患者の訪問診療や、持ち回りで夜間診療などを担っていただきたいが、重症化する患者の診療に応えてくれる開業医は限られている。「協力し合う」と言えば聞こえはいいが、負担ばかりが増えてペイしないのでは、団結しても意味がない。

最近私のなかには、徐々に増幅する不安がある。それは、言い方の問題はあるかもしれないが、「医療者同士の責任の押し付け合い」である。医療者たちが、自分の私利私欲、あるいは自分の病院の存続のために、保身に走り出しているということである。

それは、やむを得ないであろう。
医療制度改革で現場の混乱を招いた最近の二大事業である包括医療制度と新臨床研修医制度とによって、病院は競争の波に放り込まれたからである。
包括支払制度によって何が起こったかというと、それは、変化の波に乗れた病院と乗れなかった病院との明らかな収入格差である。

新臨床研修医制度の導入によって何が変わったかというと、それは、「病院同士、医師同士の競争の時代へ突入した」ということと、「医師不足を顕在化させ ることによって、医療の限界が公にされた」ということである。医療者には自助努力を、一般国民には医療供給の制限を強要させたということである。
両システムで共通することは、「競争こそが医療の質を高める」という幻想である。

もちろん競争は医療界に限ったことではない。あらゆる業界において、その中での闘争というものが必ずある。たとえば、雇用の問題では、正社員はサービス 残業で長時間労働を負わされ、非正社員は安い給与で雇用の調整弁に使われている。同じ会社の中においても、両者には”いびつさ”が存在する。
非正社員は正社員を、「楽な特権階級だ」と思い、逆に正社員は非正社員を、「自由な時間があるから低賃金でも仕方ない」と考えている。そんな対立が、今 日でもあおられている。雇用問題では、非正規と正規とが分断されているうえに、非正規雇用者同士が競争相手となっているので連携が難しい。

要するに、厳しい状況の業界においては、仲間同士で非難し合うことによって「自分はまだマシだ」という構造が生まれているのである。潰し合うことが、彼らの唯一のはけ口となっているのである。

医療もまったく同じである。
病院、あるいは医師を競わせるような社会を構築し、自己利益の追求のために病院の連携など共同体を解体することを辞さず、断固として他者との協働を拒む ような病院が増えていった場合に、さらに「競争によって良い病院になれ」と教えることが日本社会の医療全体においてどれほどリスキーな選択であるのか、そ ういう政策を推し進めることを善とする人たちは考えたことがあるのであろうか。

“団結”と”競争”の両立が困難なことは、最近の日本社会の衰退が教えてくれているではないか。病院や医師を競争社会に放り込むことが、この国にとって良いことなのかどうかを、もう一度よく考えて欲しい。

医療者は構造的に団結のできない集団である。このことは、どんな医師でも感じている。感じているができない。そして、仕事の多寡をめぐって非難し合う構 造が、医療者同士にはある。ただでさえ少ない人数で日常の業務をこなしているので、医療者は他人の不備や怠慢の招いた雑務の尻拭いにもっとも神経を尖らせ る。

それは、本当につまらない争いである。医療技術でもいいし、何かの特技でもいい、「この領域なら平均以上に達している」と自覚するものが何もない人ほど 横並びの価値観にこだわり、固定して密着度の高い人間関係を望み、微細な差異に目くじらを立てて、寛容さのない集団を自ら形成している。潰し合うことでし か自分の価値をみつけられない医療現場の狭さが存在する。
医療者同士、病院同士でいがみ合うものではない。そうなれば敵の思う壺である。医療問題の敵はもっと他にいる。

確かに医師会は医師たちの大きな組織のひとつには違いないが、それが医療者のマジョリティーの意見を反映しているとは限らないし、そんな組織に干渉されたくないインディペンデントな医師もむろんいる。
統制の取れない集団であるからして、いまの状況では、「誰が日本の医療をこのようにしてしまったのか?」という他責的な考えで犯人捜しをしても仕方がな い。日本の医療の退廃に関しては、被害者がいるだけで加害者を自覚する人はいない。「日本の医療をこのようにしたのは私です」という有責感を持っている人 間は、厚生労働省も医師会も医師も患者も国民もメディアの中にもいないのではないか。

俯瞰的に医療全体を眺められる人がいない。だから、「誰がこのような現場にしたのか判らないけれど、私はたまたまこの時代に医師になって、現場に居合わ せてしまった。居合わせた以上は、私たちで何とかするしかない」と考える医師たちを、たとえ幾人かでも糾合して、可能な限りのリソースを動員して、できる 限りのことをしていくしかない。

月並みかもしれないが、今だからこそ”連帯”というものを考えた方がいい。
“連帯”というものは、自分ならざるものを仲間として引き受けていくということである。自分でやったことではなくて、仲間がしたことの責任を引き受けなけ ればならない。他人の不始末の後始末を引き受ける覚悟がなければ、団結などというものは成り立たない。そういうことができなければ、大きいスケールでの制 度変更など、所詮、夢物語である。

利害の一致する人間の頭数が揃えば、世の中が変わるなどということは絶対にない。医療者は自分の殻の中で醒めている場合ではない。そうでないと自分で自分の世界を潰しかねない。
だから、「誰も言わなかったけど、おかしいことだから正していこう」という小さな声をひとつずつ積み上げていくしかない。そうした現場の医師たちの声を吸収していく気があるのか、ないのか、医師会は問われているのである。

実のところ私は医師になって17年目であるが、つい先日医師会に入会した。きっかけは、栃木県医師会で推進している”栃木県医師会男女共同参画委員会” のメンバーに選出されたからである。そうした経緯もあり、早速、栃木県で開催された平成22年度の”全国医師会勤務医部会連絡協議会”に参加した。

原中勝征会長の「医療の明日のために、今、できること:日本医師会の変革と地域医療の再生」と題した講演を拝聴した。その中で、「勤務医と開業医という分け方は意味がない。心を一つにして医療を支えるという気持ちを持って欲しい」と、医師全体の団結を求めていた。
日本医師会には医療界をリードしていってもらいたいと切に願う。小松先生もそう思っているはずである。

私のようなものが、日本医師会を相手に意見を上申させていただくことは、無遠慮も甚だしいとは思っている。だから、面と向かって「小鷹くん、何を言っているのだね」と詰問されれば、即座に謝罪へと転じるつもりである。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ