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Vol.6 新薬に賭けたい、と思うまで

医療ガバナンス学会 (2011年1月11日 06:00)


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嶋津恵美
小児難病 CAPS患者・家族の会
2011年1月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


新薬を使いたいと思ったのは、私の息子には現在日本で使える薬が一つもないからです。
最初、「アナキンラという海外には凄く効果のある薬はあるんだけど、日本では使えないんだよね。」という医師の言葉にとてもショックを受け、この先息子はどうなるんだろうと息子の将来が見えなくなりました。

赤ちゃんなのに毎日の高熱や激しい痛みにより眠ることが出来ずに苦しみ泣き続け、時間の経過とともに酷くなって行く状態の息子に何とかこの辛い状態から 解放してあげられないかと、とにかく少しでも効果のあるお薬でしたら新薬でも古いお薬でも息子の炎症を抑えられる事ができれば何でも試してみたかったので す。
新しいお薬を使うのはまだ小さな子供でしたし、「効果が無かったらどうしよう」「命に係わるようなアレルギーが起こったらどうしよう」など心配事は尽き なくとても勇気がいりました。副作用などとても怖かったのですが副作用よりもその時の状態がとにかく痛く辛く、息子自身やその状態を見守るしかない家族も とても辛かったのです。

息子(3歳8か月)はCAPS(クリオピリン関連周期性発熱症候群)という病気です。遺伝子の異常により身体中に炎症が放出され、毎日40℃に及ぶ発熱 や蕁麻疹様発疹、関節の変形による激しい痛み、慢性無菌性髄膜炎、進行性難聴、弱視になり著しい低身長や、最悪の場合成人まで生きられないこともある非常 に重篤な自己炎症性疾患です。患者数も日本にCAPS全体で50名、CINCA症候群では20名程の非常に患者数の少ない疾患です。

息子はその中のCINCA症候群という最重度の疾患です。
生後翌日全身の酷い蕁麻疹様発疹や高炎症値により異常を疑われ、即NICUに入院になりました。その後CINCA症候群と診断されました。
産まれてからずっと全身関節の炎症を抱える息子は炎症による熱と痛みで全身に熱を持ち、着替えをする時にもオムツを変えるときにも少しでも身体を動かす と痛みにより顔を曇らせ、泣き出しました。身体に触れるのが怖く、表情で本当に痛いのがよく解りとても辛かったです。食欲旺盛なこの時期、ご飯も食べるこ とが出来ませんでした。
時が経つにつれ炎症の数値も酷くなり痛みや発熱の頻度が増し、寝返りを打つことも出来なくなりました。骨の変形で関節も固まってしまい寝たきりになって しまいました。身体も小さくとにかく痩せていて2歳当時、生後10か月くらいの大きさしかなく殆ど成長できませんでした。

以前より「アナキンラは日本で使えない。」と言われておりましたので、それまではステロイドやNSAIDsを使用していましたが殆ど効果はありませんでした。
まだ産まれて2年しか経っていない息子ですが、普通ならこの時期の幼児はぐんぐん成長して、発達していくものなのに、毎日の激しい炎症が息子の成長を止め、辛い痛みや発熱、髄膜炎などさまざまな症状がこんな短い期間で起こりこれだけの辛い状態を引き起こしていました。
状態がひどくなるにつれ、諦めていた「アナキンラ」というものを使いたいと思わずにはいられなくなりました。
そして患者会に入り、海外での治療薬のことを勉強しました。その現実に愕然としました。私たちの求めている「アナキンラ」は関節リウマチの治療薬で海外 でもCAPSという病気には承認されていないこと、そのような薬を日本が承認するのは絶望的なこと、そして患者数の少ないCAPSには採算が取れないなど の理由から開発に乗り出して貰えないことなど。現在も厚生労働省に「アナキンラ」の承認を要望しておりますが、先は見えません。

そんな中、昨年「カナキヌマブ」と新薬の治験が日本で始まるとの嬉しいニュースが飛び込んできました。
息子も新薬の治験に参加することができました。
カナキヌマブが使えるようになった息子は痛みや発熱が無くなり、弾けるような笑顔を見せてくれるようになりました。ここ一年で急激な成長を見せていま す。立ち上がることが出来るようになり、一歩ずつ歩けるようになりました、知的な面でも成長を続けています。本当に子供らしくなり、とても素晴らしい毎日 を過ごしており治療薬の効果を実感しております。
「アナキンラ」や「カナキヌマブ」が一日でも早く必要な患者の手元に届くようにこれからも願って要望して行きたいと思います。

初出:インフォシーク内憂外患

http://opinion.infoseek.co.jp/

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