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Vol.23237 学生が考える日本の医療改革 ― 『現場からの医療改革推進協議会シンポジウム』 体験記 2

医療ガバナンス学会 (2023年12月27日 06:00)


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University of the People Health Science Bachelor’s Degree
加藤華

2023年12月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月25‐26日、都内で開催された『第18回現場からの医療改革推進協議会シンポジウム』に、インターン生として参加した。
体験記1に続き、実際の活動内容とシンポジウムを通して学んだ点について本稿でご紹介したい。
事前準備
私は協議会開催の1週間前から医療ガバナンス研究所でインターンを開始し、準備段階から当日までをお手伝いさせていただいた。初日から、プログラムの作成や登壇者の名前や所属に間違いがないか確認する作業、書類の作成などを実施した。この過程で研究所に出入りしている他の学生さんやOBと協力し作業を行った。私は基本的に大学でも職場でも一人で黙々と作業することが多く、他の人と協力して働くのは本当に久しぶりのことだったのでとても楽しい時間であった。
また、登壇者が紹介された情報誌の広告を作成したり、国内外からの参加者の旅費交通費計算や経理処理、協議会当日に使う表示サインの作成なども担当した。特に海外用の領収証や支払明細書の作成・源泉所得税の計算などは初めての経験で大変勉強になった。加えて、先生方にお茶をお出しする際の礼儀や謝礼金の包み方など、知っていそうで知らなかったルールを学べたのはとても良かった。このように協議会の事前準備は、指導してくださる秘書の方々から仕事のノウハウを学び、一社会人として大きく成長する機会にもなったと感じている。
学生が知識不足や経験不足により失敗や間違いを犯してしまうのは当然のことだ。しかし学生であればその失敗や間違いは許容され、その失敗から学ぶ機会が提供される。何事にも果敢に挑戦しながら多くのことを学ぶことができるのは学生の特権である。例えば事前準備期間中、書類を作成したり体裁を整える際に、伝達ミスや自身のPC知識不足のせいで繰り返し修正を加える必要が生じたが、他の学生のダブル・トリプルチェックを通して間違いを探し出し、修正することができた。同時に、秘書の方々がしているように自分の仕事を同僚や学生に分配したり、自分の不得意な部分を得意な仲間に手伝ってもらうことが業務をミスなく効率的に遂行するために重要であることを学んだ。完璧とは程遠かったが最終的に「私がいてよかった、助かった」と言って頂けたことで大きな達成感が得られた。

シンポジウムで学んだこと ― 医学研究の現実と課題
セッション9の福島医大放射線健康管理学講座博士課程1年の趙天辰先生の発表では、コロナワクチン接種後の抗体価の推移を調べる研究中に、関係機関との間に生じたトラブルについて紹介された。トラブルに関連した人物の個人名を挙げ、時折「パワハラ」などの刺激的な表現を用いながら医学研究の現場の難しい現状を訴えた。医学研究界にもこんな稚拙な人がいるのかと驚くと同時に、研究者が研究内容とは全く関係ないところで時間と労力を奪われて研究に専念できていないことを非常に悲しく感じた。
実際、内閣府が国内の研究者に対して行ったアンケートによると、研究活動の課題・不満として、「外部資金の使い勝手の悪さ」、「他の機関の研究者との協力体制が取りにくいこと」、「研究支援体制が整っていないために他のスタッフを雇用する資金がなく、研究者自身が事務的な作業に時間をとられて研究に専念できないこと」などが多く挙げられている (内閣府, n.d.)。
趙先生は研究環境の改善を訴えると同時に、充実した環境で自由に研究がしたい、そうでなければ日本の研究は世界に置いて行かれてしまうと訴えた。大学の理事長から解任要求まで受けながらこの発表をするのは大変勇気が必要だったはずだが、趙先生は終始堂々とした態度で大胆な発言を繰り返し、非常にかっこいい先生だなと思った。研究分野で活躍していくためには、こうした非難や対立に圧倒されることなく自分の信念を貫く勇気と精神力が必要であることを知った。

趙先生の発表より

シンポジウムを通して学んだこと ― 『コンビニクリニック』の意義
セッション15の「医療のコンビニ化」に関する発表では、様々なデータや根拠を元に患者のニーズに最大限応えつつ、生活サービス事業として病院を効果的に運用する方法が論じられた。医療法人社団鉄医会研究部長・瀧田盛仁医師は、「都会の働き手は医療弱者である」という仮説を元に、20代後半から50代までの現役世代の患者のニーズに最大限応えるための戦略を紹介した。例えば首都圏に住む人々の過半数が通勤手段に鉄道を利用していることに注目し、「駅ナカにあって夜まで開いてる診療所」をテーマに現役世代が退勤後や仕事帰りに利用しやすいクリニックを目指していることが紹介された。実際高齢者の受診が多い一般の診療所とは異なり、ナビタスクリニック受診者のうち最も多い年齢層は25‐29歳であり、特に20時以降など診療時間が遅くなるほど仕事をしている世代の受診が多いことが分かった。
個人的なことであるが、インターン中に急に発熱したことがあった。発熱が発覚した時点ですでに午後7時を回っており、一般の診療所では診察を終了する時刻であった。しかし上先生や秘書の方々がすぐにクリニックと連絡を取り診察の手配をしてくださった。患者の立場として、帰宅途中に寄ることができ、午後9時まで診療をしている病院の存在は非常に心強かった。また、遅い時間にも関わらず私以外にも大勢の患者がおり、「コンビニクリニック」の需要の高さを身をもって体験した。

滝田先生の発表より            筆者がナビタスクリニック受診時

同じくセッション15に登場した、JRで駅ビル・オフィスなどの開発に取組んで来られ、現在日本鉄道広告協会会長を務めておられる新井良亮氏は、経営者の立場から医療サービスを語られた。新井さんは2011年以降ルミネ取締役社長・取締役会長を歴任され、駅ビルの物を売るだけではない、新しいサービスの価値とビジネスチャンスを創造してこられた。発表では一日1600万人が利用する鉄道駅と生活サービス事業を融合することで、顧客のニーズに応えつつ駅を中心とした地域活性化、地域共生、雇用増加を促進できることが述べられた。
また新井さんのお話からは、医療関係者としてだけでなく、社会や企業の中で自分自身の価値を高めていく方法について学ぶことができた。例えば、「人材ではなく人財」として組織で重宝される人になるためには、障害や困難から逃げずに立ち向かうこと、現状に満足せず常に改革を創り出すこと、周りに臆せず自己主張をすることが重要であると学んだ。また新井さんは「失敗をしてもそれは取り組み」であり、それをただの失敗として置いておかないで「失敗から学ぶことが強かなビジネスを創っていくことに繋がる」と述べ、「失敗というものを若い時代にこそ」と若者を激励した。
今までの私はどちらかというと「現状維持」や「事を荒立てないこと」に注力してしまう性格であり、周りと異なる意見を持っていても言い出せないことことが多かった。まず自分の習慣や性格から変革していかなければならないことに気がついた。

最後に
協議会を通して、医療改革には分野を超えた関心や協力が必要であること、改革に携わるには自分自身から変革していかなければならないことなど、教科書や論文を読むだけでは学べない、多くのことを学ぶことができた。百聞一見に如かず、である。医療関係の方々だけでなく、政治やビジネス、ITなど他の分野に携わっておられる方、一般の方々、学生さん、これまでお越しいただいたことがある方もない方も、来年ぜひ『現場からの医療改革推進協議会シンポジウム』にお越しいただきたい。日本の医療課題に真正面から取り組み奮闘する人々とその後を追う学生たちとの出会い、そして新たな挑戦の機会が待っているはずだ。

事前準備や本稿の作成に携わる過程で多くの人と関わり合い、助けられた。未熟な私を根気強く指導してくださった秘書の皆様や先生方にこの場を借りて心からの感謝を述べたい。

 
参照
内閣府. (n.d.). アンケート結果. chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/airo/siryo-b-4-5.pdf より取得

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