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Vol.24009 坪倉先生の放射線教室(2)

医療ガバナンス学会 (2024年1月15日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治

2024年1月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。

●代謝や排せつにより排出(2023年02月04日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲の敷地内タンクには、放射性の水素である「トリチウム」が保管されています。トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でもあります。

天然と人工、さまざまな形で作られたトリチウムが地球上には存在していますが、1950~60年代ごろに多く行われた、大気圏内の核実験によって、自然界で作られるトリチウムの「数千年分」が大気中にばらまかれたことが知られています。トリチウムの半減期は約12年ですので、60年たてば、おおよそ30分の1に減ったことになります。

その一方、トリチウムが体内に入った場合、数十年も体にとどまることはありません。体に入ったトリチウムは、その形にもよりますが、おおよそ10日で半分になります。トリチウムの多くが水の形で存在するため、通常の水素でできた水と同じく、代謝や排せつによって入れ替わるということです。

これはセシウムの半減期が、例えばセシウム137なら約30年であるのに対して、体の中に入ったセシウムはおおよそ100日で半分になることと似ています。体内に永久にとどまり続けて放射線を出し続けるというものではありません。

 

●高緯度ほど放射線量増加(2023年02月11日配信)

宇宙から放射線が降り注いでいることは多くの方がご存じだと思います。標高が高くなると宇宙から地面まで到達する放射線の量は多くなり、飛行機の中では、地表にいるときに比べて多くの放射線を受けます。

加えて、宇宙から地面まで到達する放射線の量は、緯度が高くなると、つまり北側になればなるほど多くなることが知られています。これは、地球が自転していることで地球の周りに磁場(磁石の力)が生まれ、それが宇宙からの放射線を防ぐシールドの役割をしてくれるのですが、この放射線を防ぐシールドが赤道に近いほど強くなる(緯度が高くなると弱くなる)からなのです。

トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でもあります。天然由来のトリチウムは、大気の上層において、宇宙からの放射線と、大気中の窒素や酸素が反応して作られます。

緯度が高くなると、シールドが弱くなり、宇宙からの放射線も多くなるため、赤道に比べて緯度が高い地域の方が作られるトリチウムも多くなります。そのため、日本国内でも場所よって普段の雨に含まれるトリチウムの量は異なります。

例えば沖縄と北海道で比較すると、緯度の高い北海道では、雨の中のトリチウム濃度は沖縄に比べ数倍高いことが知られています。

 

●古い時計文字盤に使用例(2023年02月18日配信)

目覚まし時計の文字盤に光が当たっていると、電気を消してもその後少しの間は光るような時計をお持ちの方も多いのではないでしょうか。これは、文字盤に塗られている蛍光物質が光のエネルギーを吸収し、その後、吸収したエネルギーを蛍光物質が少しずつ放出しているのです。

現在、市販されている光る時計の文字盤は、このように時計の「外側」からの光のエネルギーを吸収し、その後発光するという仕組みが使われ、放射性物質は使われていません。

その一方、古い一部の時計では、光る文字盤に放射性物質と蛍光物質を混ぜて使用している物があります。放射性物質が出す放射線(エネルギー)を蛍光物質が吸収し、そのエネルギーを光として放出するのです。蛍光物質へのエネルギーを、時計の「内側」の放射性物質から供給しているのです。

この文字盤に使われている放射性物質がトリチウムです。トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でもあります。市販されている物の中では、トリチウムを含んでいるのは時計のみであり、含まれている物は、時計の文字盤のところにトリチウムの頭文字のTやT25と表示されています。

●身体への影響は量の問題(2023年02月25日配信)

トリチウムは放射性物質なので、放射線を出しますが、非常にエネルギーの小さいベータ線を出すことが知られています。エネルギーはセシウム137が出すベータ線の100分の1程度です。そして、エネルギーが小さいため、他の放射性物質から出るベータ線と比べて飛ぶことができません。空気中では1センチも進むことができません。

このように、トリチウムの放射線は非常に弱いのですが、放射線による身体への影響はその量の問題です。非常に大量のトリチウムに曝露(ばくろ)した結果、死亡した事例も世界ではゼロではありません。

古い一部の時計では、光る文字盤にトリチウムと蛍光物質を混ぜて使用しているものがあります。放射性物質が出す放射線(エネルギー)を蛍光物質が吸収し、そのエネルギーを光として放出するのです。蛍光物質へのエネルギーを、時計の「内側」の放射性物質から供給しているのです。

このトリチウムの夜光剤を取り扱っている方で、何年間も大量のトリチウムに曝露された方に悲劇は起きました。その方は1年間当たり数十兆ベクレルのトリチウムに曝露されていたことが知られています。

その一方、日本の雨に含まれているトリチウムは1リットル当たり1ベクレル程度、海水においては福島第1原発の近くの海域であっても、その10分の1程度(1リットル当たり0.1ベクレル程度)です。

 

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