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Vol.24010 能登半島地震 福祉避難所での診察

医療ガバナンス学会 (2024年1月16日 09:00)


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三豊総合病院 卒後臨床研修センター
遠藤 通意

2024年1月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

能登半島の被災地に入って5日目の1月11日になります。能登半島地震の福祉避難所で過ごしました。主な業務は避難者の健康管理でした。心不全と脳梗塞による左半身麻痺で左下腿に装具をつけている方の褥瘡処置、発熱の方のコロナやインフルの抗原検査、喘息や喀痰への対応、交通事故で脊髄損傷された方の食思不振、知的障害児の処方対応などをしました。

この中で、最も困難だったのは薬剤の処方です。オレンジホームケアクリニックから持ってきていただいた中に薬剤があれば迅速に対応できますが、そうでない場合は、営業している薬局やモバイルファーマシーの薬剤を災害処方箋 (ref1)を用いて処方することになります。

モバイルファーマシーは1月11日(木)から稼働を開始しました。石川県の薬剤師が担当し、営業時間は10時から15時半です。我々が必要と判断した薬剤が、そのリストになければ、待たねばなりません。翌々日までには提供されます。鎮痛薬、制吐薬など一般的なものは、それぞれ2箱(200錠)が用意されており、坐薬、貼付剤、点眼薬もあります。

その一方で、1月11日(木)現在、営業していた薬局は「クスリのアオキ輪島薬局」「日本調剤 ワイプラザ薬局」「輪島あおぞら薬局」「輪島菜の花薬局」の4つです。どこの薬局にどの薬剤があるか不明だったため、それぞれに電話で確認する必要がありました。最初は情報収集の方法に慣れていなかったため時間がかかりましたが、徐々に4つの薬局の情報をまとめる方法を考え、効率化できるようになりました。

しかし、情報が得られても、欲しい薬剤があるわけではありません。小児のかぜ症候群に使用する薬剤の一部が不足していたため、代替薬について患者の家族と相談しました。喘息発作の治療薬で、病院外で使えるものがメプチンエアーの1種類しかなかったため、患者さんは振戦がありましたが、上気道炎も伴って酸素飽和度が悪化していましたので使用してみました。このように能登半島の被災地では、普段あまり考えることがない、限られた資源の中で適切な対応をとる必要がありました。

また、左半身麻痺のある避難者の方は、福祉施設に滞在して以来、下腿装具が施設の床で滑ることにより車椅子生活を余儀なくされていました。その結果、両下腿に浮腫が生じており、特に左側が顕著でした。残念ながらエコー検査設備が不足していたため、詳細な診断が困難でしたが、深部静脈血栓症の可能性を疑いました。このため、エリキュース2.5mgを1日2回の経口投与により治療を開始し、患者の状態を観察することにしました。このように被災地の診療は手探りです。

その後、災害処方箋を薬局にFAXで送信できるようになり、薬局の迅速な対応もあり、当日中に薬剤を提供することができました。

対応に苦慮する事例もありました。夜間、喘息発作の避難者を診療したときのことです。70歳女性の方で、上気道炎による喀痰がかなり多く、喀痰吸引器を用いたところ、嘔吐してしまいました。この時、誤嚥してしまい、酸素化が80%まで低下しました。この状況を見て、病院への搬送が必要と判断し、医療法人社団オレンジの理事長の紅谷浩之先生に相談しました。

同行していたキャンナスの石川和子さんと、福島県立医科大学 放射線健康管理学講座の理学療法士の阿部暁樹さんがスクイージング(ref2)を行ないました。幸い酸素化は90%まで改善しました。その後も30分ごとに体位変更とスクイージング、吸引を行い避難者さんの状態が安定しました。翌1月12日の朝にレボフロキサシン500mg、アンブロキソール、ブロムヘキシンを使用し、口腔ケアもしてもらいました。

この方は、元旦から12日の朝まで入れ歯も手入れできてなかったという問題もあり、今後は物資も増えてきて、少しずつ高齢者の口腔ケアなども開始することになりました。

他にも1月11日(木)は、火災があった朝市通りで警察に保護された認知症の方や、いつも避難所内で自分のベットの場所が分からなくなる方、夜間に大きな咳をする103歳の女性を担当しました。

支援に入られている方は前述した紅谷先生以外にも、株式会社ぐるんとびーの代表取締役の方、キャンナス輪島代表の方、海外青年協力隊をしていた方や山梨牧丘病院元院長先生などそれぞれ豊かな個性など、多様なケースに対応する中で、充実した経験を積むことができました。

今回の経験から、薬局が在庫情報を公開することで、医療従事者の時間を節約し、より効果的に対応できることを実感しました。

最後に、災害現場での医療活動において、多くの方々のサポートを受けながら対応できたことに感謝します。あと数日も引き続き、自分にできることに全力で取り組んでいきます。

ref1 : 災害救助法適用における保険処方箋と災害処方箋の相違点

https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/news/20191024-02.pdf

ref2 : スクイージングとは?禁忌は?排痰効果の上がる方法【写真解説】 ナース専科

https://knowledge.nurse-senka.jp/204791/

 

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