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Vol.24011 中国蘭州訪問記

医療ガバナンス学会 (2024年1月17日 09:00)


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この記事は、医薬経済2023年11月15日号に掲載された記事を加筆転載したものです。

医療ガバナンス研究所 医師
尾崎章彦

2024年1月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

23年10月、中国蘭州大学EBMセンター、チェン・ヨーロン教授を訪問した。主たる目標は、チェン教授との共同研究を推進することだ。第95回の記事でも紹介したが、チェン教授とは昨年来、製薬マネーに関して共同研究を実施している。

筆者はチェン教授との共同研究は極めて重要であると捉えている。その理由は主に3つある。

第一に、互いの関心の相性の良さだ。金銭的利益相反が医学や医療に及ぼす影響のうち、我われのチームはとくに診療ガイドラインに力を入れて仕事をしてきた。一方、チェン教授のチームは診療ガイドラインを主な仕事とし、それに影響を及ぼす因子のひとつとして利益相反にも取り組んでいる。

このように、筆者らとチェン教授は強みが異なっている。しかし、互いの強みは関連しており、共同研究により、双方がメリットを受ける可能性が高い。

第二に、チェン教授の生産性の高さだ。23年11月9日現在、チェン教授の名前でPubmedを検索すると284報の論文が見つかる。そのなかには『BMJ』のような一流雑誌への掲載も少なくない。

印象的だったのが、双方の論文数の話になった時だ。筆者が査読付き国際雑誌に発表した論文数は、現時点で350本を超えている。それを聞いた彼は、「350本くらいでは、特定の分野の専門家としてはまだまだ多いとは言えないですね」と、にこやかにお答えになった。多少のライバル心はあったとしても、彼の人柄の良さも相まってか、全く嫌味がない。彼は他意なくそう思っているのだろうと、前向きに励まされた。

第三に、同じアジアの研究者であるということだ。利益相反研究はこれまで欧米優位で進んでおり、アジアでこのテーマに取り組んでいる研究者はほとんどいない。その意味でチェン教授は貴重な存在だ。

そのような意図の下に実施した今回の訪問だが、これまでの海外渡航のなかでもベストな経験のひとつだったと思う。最大の理由は、チェン教授も我われとの共同研究を重視してくださっていることが、さまざまな場面で窺い知れたことだ。

今回、渡航や宿泊さらに現地での予定の立案などは、チェン教授が学生も指示しつつ細やかに調整くださった。さらに、蘭州の文化や食事の紹介にも心を砕いてくださった。

実際のところ研究に関する議論はかなり白熱しており、全訪問時間を研究の議論に費やすことも可能だったと思う。しかし、チェン教授は、「ここで数時間話しても研究が進むわけではない。私たちの文化を知ってもらうことも共同研究の一部です」とおっしゃって、我われを博物館や市内を流れる黄河に案内してくださった。

蘭州が省都である甘粛省は中国に仏教が伝来した地としても有名で、同じ省内には世界的な観光地である敦煌がある。博物館には「銅奔馬」など貴重な展示物も多く、シルクロードの要衝として発展した蘭州の歴史が感じられた。

もう1点、蘭州はイスラム圏に近く、あまり豚肉を食べない。一方で、牛肉に加えてラム肉を食べる食文化がある。現地のレストランでは、茹でても焼いても炒めても美味いラム肉の魅力に改めて気付かされることになった。

この時期に中国を訪問することには心配もあった。というのも、8月に福島第一原発からALPS処理水の排出が始まって以来、日本と中国の関係がさらに冷え込んでいるからだ。しかし、我われの訪問に関して言えば、そのような心配はまったくの杞憂であった。

もちろん、チェン教授は殊更に筆者らだけを優遇しているわけではないのだと思う。実際、多くの欧米の先生方と素晴らしい関係性を築いている。

陸路が海路に、さらには空路に取って代わられた現在、中国の内陸という環境は、国際研究を進めるには必ずしも有利な土地ではなく、苦労も多かっただろう。しかし、そのような環境で、北京や上海の大学に負けない成果を挙げるチェン教授のパワーには驚くほかない。この訪問を通じ、彼への尊敬の思いは極めて強くなった。

今回の訪問は、医療ガバナンス研究所の中国人スタッフである梁荣戎がアテンドしてくれた。この場を借りて感謝を申し上げる。

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